礼拝堂から王城の執務室へ向うフェデリーコは走り寄ってきた男に話しかけた。
「如何した?」
彼はフェデリーコの指示で、魔獣討伐に出ていたプリズマーティッシュの騎士たちを監視していた側近だった。
「ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンの騎士たちは、とんでもない剣を使っています。」
「ん?」
「先ほど、エイスクルプチュルが王都の東に出ました。それをたった一度で止めを刺してしまいました。魔盾も我が国で使っているものより、遥かに頑丈で、エイスクルプチュルの出す風も全て避けてしまいます。しかも、一本の剣で土も風も火も使えているようなのです。」
「通常魔術師が魔獣を討伐する際は…」
「土の魔術を付与した剣、風の魔術を付与した剣など、発現した魔獣に合わせて使い分けています。なので、討伐の際は最低でも一人二種の剣を携帯しています。」
横にいた魔術師が口を開く。
「それを、ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンの騎士は一本で行っていると?」
「はい。」
「我が国にそのような剣はあるのか?」
フェデリーコは魔術師に聞く。
「一つの剣に四種全ての属性の魔術を付与するとなると、作れないわけではありませんが、一種、一種の力が弱くなり、魔獣を倒せるほどの力を持たなくなる…または、剣の魔力が強すぎて扱える者が限られる…そのような事が懸念されます。」
「ならば、討伐のために派遣された騎士団は、皆、それなりの魔力を有していると言う事か?」
「数種の属性を持った魔剣を造った人物も、それを扱う騎士も魔力はこの国の魔術師と対等以上の力を持っているのだと思われます。」
「父上はそのような者たちを易々とこの国に入れてしまわれたのか…。」
フェデリーコは苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「そろそろ、王都外へ行った騎士たちを監視させているロドルフォも戻る頃だ。続きは執務室で話そう。」
∴∵
控え室の椅子に座り、里桜はため息を深く吐いた。
「リオ様、これで何度目ですか?」
公爵夫人らしく着飾ったリナは里桜を軽く嗜める。
里桜は自分が身に纏った薄い青紫のドレスの肌障りを確認するように撫でた。リナが同色のヘッドドレスを微調整する。
そこにノックの音がして、アナスタシアが対応した。
「リオ様。」
「何?どうしたの?」
戻ってきたアナスタシアは笑顔で話しかけてきた。
「ウルバーノ王太子殿下は午餐会へは出席されないそうです。」
「そうなの?」
里桜の表情も柔らかくなる。
「良かった。ってあまり喜んじゃ申し訳ないよね。」
「先ほどこちらにお着きになったばかりで、舞踏会からの参加になるそうです。」
「そう。」
そこに再びノックがして、侍従のマッテオが迎えにきた。
「もう時間かしら?」
「まずは、ヴァンドーム閣下以下の皆様をお席にご案内致します。その後、王妃陛下のご案内となります。では、閣下、ジョヴァンニが会場までご案内致します。」
「宜しく頼む。」
ジルベールは、そう言ってリナに向かって肘を差し出す。リナはにこやかに腕を取った。
里桜もジルベール達が出て行ってから暫くして、マッテオの案内で部屋を出た。
プリズマーティッシュの王宮よりずっと狭い廊下を何度も曲がりながら歩いて、たどり着いたのは木製の重厚な扉の前だった。
そこには国王のカルロと王后が里桜を待っていた。
「それでは、参りましょう。」
カルロの言葉を合図に、マッテオとステファーノが扉を開く。
王城の装飾からは想像できない、豪家な設えの大広間に着飾った貴族たちが、既に着席していた。
長いテーブルの中央に里桜は座り、その左隣にいるカルロは、朗々と落ち着いた声で挨拶をしている。
「……今日の両国関係が、先人たちの努力の上に築かれていることを胸に深く刻み、これからも両国民が絆を深め希望にあふれる将来に向けて貢献していくことを切に願う。リオ・エイクロン王妃陛下の今回の御滞在が、実り多いものとなることを願うとともに、ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンの更なる繁栄と貴国国民の幸せを祈り杯を挙げよう。」
長テーブルに並んだ全員がフルートグラスを高く掲げた。
国王の挨拶の後、右隣の王后と話が弾んでいたが、会場には国王と王后と里桜の話し声だけが響いている。
珠に、ジルベールやロベール、アリーチェの父アレッシオ・パジーニや異母兄のフランチェスコの声はするが、他の貴族は殆んど声を発していない。
これがこの国のマナーだと言われても、里桜には歓迎されていない歓迎会のようにしか感じなかった。
「本日は、簡易治療所を開設頂き、ありがとうございます。」
王后のマウラは、優しそうな笑顔で話しかける。
「いいえ。とんでもないことでございます。プリズマーティッシュでも今はなかなか治療所を開設することが出来ません。久しぶりに町の人々と交流が持てたことは、私にとりましても、本当に有意義な時間でした。こちらこそ、この様な時間を頂けたこと、感謝申し上げます。」
「リオ陛下、そのような。陛下のお心遣い、痛み入ります。」
「如何した?」
彼はフェデリーコの指示で、魔獣討伐に出ていたプリズマーティッシュの騎士たちを監視していた側近だった。
「ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンの騎士たちは、とんでもない剣を使っています。」
「ん?」
「先ほど、エイスクルプチュルが王都の東に出ました。それをたった一度で止めを刺してしまいました。魔盾も我が国で使っているものより、遥かに頑丈で、エイスクルプチュルの出す風も全て避けてしまいます。しかも、一本の剣で土も風も火も使えているようなのです。」
「通常魔術師が魔獣を討伐する際は…」
「土の魔術を付与した剣、風の魔術を付与した剣など、発現した魔獣に合わせて使い分けています。なので、討伐の際は最低でも一人二種の剣を携帯しています。」
横にいた魔術師が口を開く。
「それを、ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンの騎士は一本で行っていると?」
「はい。」
「我が国にそのような剣はあるのか?」
フェデリーコは魔術師に聞く。
「一つの剣に四種全ての属性の魔術を付与するとなると、作れないわけではありませんが、一種、一種の力が弱くなり、魔獣を倒せるほどの力を持たなくなる…または、剣の魔力が強すぎて扱える者が限られる…そのような事が懸念されます。」
「ならば、討伐のために派遣された騎士団は、皆、それなりの魔力を有していると言う事か?」
「数種の属性を持った魔剣を造った人物も、それを扱う騎士も魔力はこの国の魔術師と対等以上の力を持っているのだと思われます。」
「父上はそのような者たちを易々とこの国に入れてしまわれたのか…。」
フェデリーコは苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「そろそろ、王都外へ行った騎士たちを監視させているロドルフォも戻る頃だ。続きは執務室で話そう。」
∴∵
控え室の椅子に座り、里桜はため息を深く吐いた。
「リオ様、これで何度目ですか?」
公爵夫人らしく着飾ったリナは里桜を軽く嗜める。
里桜は自分が身に纏った薄い青紫のドレスの肌障りを確認するように撫でた。リナが同色のヘッドドレスを微調整する。
そこにノックの音がして、アナスタシアが対応した。
「リオ様。」
「何?どうしたの?」
戻ってきたアナスタシアは笑顔で話しかけてきた。
「ウルバーノ王太子殿下は午餐会へは出席されないそうです。」
「そうなの?」
里桜の表情も柔らかくなる。
「良かった。ってあまり喜んじゃ申し訳ないよね。」
「先ほどこちらにお着きになったばかりで、舞踏会からの参加になるそうです。」
「そう。」
そこに再びノックがして、侍従のマッテオが迎えにきた。
「もう時間かしら?」
「まずは、ヴァンドーム閣下以下の皆様をお席にご案内致します。その後、王妃陛下のご案内となります。では、閣下、ジョヴァンニが会場までご案内致します。」
「宜しく頼む。」
ジルベールは、そう言ってリナに向かって肘を差し出す。リナはにこやかに腕を取った。
里桜もジルベール達が出て行ってから暫くして、マッテオの案内で部屋を出た。
プリズマーティッシュの王宮よりずっと狭い廊下を何度も曲がりながら歩いて、たどり着いたのは木製の重厚な扉の前だった。
そこには国王のカルロと王后が里桜を待っていた。
「それでは、参りましょう。」
カルロの言葉を合図に、マッテオとステファーノが扉を開く。
王城の装飾からは想像できない、豪家な設えの大広間に着飾った貴族たちが、既に着席していた。
長いテーブルの中央に里桜は座り、その左隣にいるカルロは、朗々と落ち着いた声で挨拶をしている。
「……今日の両国関係が、先人たちの努力の上に築かれていることを胸に深く刻み、これからも両国民が絆を深め希望にあふれる将来に向けて貢献していくことを切に願う。リオ・エイクロン王妃陛下の今回の御滞在が、実り多いものとなることを願うとともに、ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンの更なる繁栄と貴国国民の幸せを祈り杯を挙げよう。」
長テーブルに並んだ全員がフルートグラスを高く掲げた。
国王の挨拶の後、右隣の王后と話が弾んでいたが、会場には国王と王后と里桜の話し声だけが響いている。
珠に、ジルベールやロベール、アリーチェの父アレッシオ・パジーニや異母兄のフランチェスコの声はするが、他の貴族は殆んど声を発していない。
これがこの国のマナーだと言われても、里桜には歓迎されていない歓迎会のようにしか感じなかった。
「本日は、簡易治療所を開設頂き、ありがとうございます。」
王后のマウラは、優しそうな笑顔で話しかける。
「いいえ。とんでもないことでございます。プリズマーティッシュでも今はなかなか治療所を開設することが出来ません。久しぶりに町の人々と交流が持てたことは、私にとりましても、本当に有意義な時間でした。こちらこそ、この様な時間を頂けたこと、感謝申し上げます。」
「リオ陛下、そのような。陛下のお心遣い、痛み入ります。」

