「この簡単なドレスのまま登城しても良いの?」

 翌朝の身支度で、いつものエンパイア型のドレスが用意されていることに疑問を持った。

「お城に身支度用のお部屋をご用意頂きましたので、そちらでお召し物を替えて頂きますので大丈夫でございます。」
「あら、親切ね。」
「山道の悪路で登城するご夫人が馬車酔いを起こされるそうで。すぐに謁見できないくらいにご気分が悪くなる方もいらっしゃるそうで、ゲウェーニッチでは日頃からそのような対応をしているそうでございます。」
「戦いのためのお城だと、攻めにくくするためにもわざとそうしているのかもね。」


∴∵


 宿を出発して三十分ほど走ると、馬車は突然止まった。御者とリナが何か話している。話し終わって直ぐに馬車は走り出した。

「ゲウェーニッチが用意した御者と交代するそうです。山道は石などが沢山あり、変なところを走ると脱輪の危険もあるそうで、慣れた者ではないと難しい道なのだそうです。」
「そうなの。では、山道に入ったって事ね?」
「はい。これからあと、一時間半ほどで王城へは到着するそうです。」
「けっこうかかるのね。」
「馬車の貴人が降りずに登れるように緩やかな道を整備したのだそうで。馬で登る山道より少し時間がかかるそうです。」
「そう。」


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 山道を登ること一時間、里桜はすっかり元気をなくしていた。

「リオ様、御者が言うにはあと少しで城内へ入れるそうです。」
「わかったわ。ありがとうリナ。用意してくれていたミントのサシェも気分を紛らわせてくれてる。本当にありがとう。」

 里桜は青白い顔でアナスタシアにもたれ掛かっている。

「二人は大丈夫?」
「はい。なんともございません。」

 笑顔で話す二人に、里桜は力なく笑い返す。

「リオ様こそ、お顔が真っ青でいらっしゃいますよ。」
「でも、こうして目を閉じてるといくらか楽になるから。大丈夫。」

 そんな間に、馬車は城門を潜った。
 カーテンを開けて外を見ると、城門から王城までかかる橋の下は崖になっていた。

「やっと、到着致しましたね。リオ様、お城が見えてきました。」

 里桜が、外に目を移すと、空の青をバックに真っ白なお城が目に入った。

「魔獣を倒しながら進んできたこともあって、まるでゲームの世界に入ったみたい。綺麗なお城ね。」
「この国は白大理石が沢山発掘されます。なので、お城も大理石で作られているのだと思います。」
「我が国の神殿の白大理石もこちらの国で採掘されたものを使用しているんですよ。」

 馬車が止まり、御者が扉を開く。

「イーヴ、長い道中ご苦労様。」

 プリズマーティッシュから連れてきていた御者は畏まって礼をした。
 そこに、城の侍従らしき男性が近寄ってきた。アルフレードはその男性と言葉を交わした。

「王妃陛下。支度部屋までご案内頂けるそうです。」
「そう。あなた、お名前は?」
「カルロ陛下に近侍しております、マッテオと申します。」
「マッテオ、案内よろしく頼みます。」
「リオ王妃陛下、こちらでございます。」

 外階段を何段か上り、城に入ると中は意外にも飾り気のない内装だった。
 アリーチェの離宮の部屋がエシタリシテソージャを思わせる設えだったため、こちらの城内も華美に装飾されているのだろうと勝手に思い込んでいた。
 セージの葉のような灰緑色のふかふかな絨毯が敷かれた廊下を何度も曲がる。

「随分複雑な作りなのね。」
「戦いのために造られた城でございますので、万が一敵が城へ入って来ても容易に陛下の元へとはたどり着けないようになっています。なので、ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンの皆様が、城内を歩かれるときは、必ずゲウェーニッチの者を帯同させてください。」

 そう話しているうちに、一つの部屋の前に止まった。

「こちらが王妃陛下の控え室でございます。随行の方たちにはお隣の部屋を用意しています。」

 ジルベールやロベールと事務次官たちはその部屋で待機することになった。
 大勢いる騎士たちは騎士専用の詰め所を案内された。