宿を出てからしばらく走ると、王都へ入るための関所があった。
 そこを通り抜けると、途端に賑やかな街が広がっていた。

「今までの町からは想像できないほど、賑わってるのね。」
「今までの行程でお分かりだと思いますが、この国では王都以外に出た魔獣は討伐してもらえません。なので人々は安全を求めて王都へ移住してくるようなのです。」
「そうなの。王都がこんなにも賑やかなのは良いけど、今思えば通ってきた町はどこも閑散とし過ぎていたわね。」
「えぇ。寂しい町ばかりでございましたね。」

 リナたちと話していると、プリズマーティッシュから連れてきている御者が話しかけてきた。

「あと、少しで昼食の摂れる場所に到着致します。」
「分かったわ。ありがとう。」

 アナスタシアが返事をした。

 里桜は、宿の一室でホテルに併設されたレストランの食事を食べていた。
 薄い黒パンにクリームチーズのような物を塗ってシロップをかけて口に運ぶ。二枚目は、カッテージチーズのような物と鶏のハムのような物を乗せて食べる。

「リオ様、体調は大丈夫ですか?王宮を出発してから毎日乳製品を召し上がっていますけど。」
「大丈夫。量は控えめにしているし。」

 里桜は、餃子の形をしたラビオリのような水餃子のような物を口に入れた。

「んんっー。」

 少し離れた所にいたアナスタシアも駆け寄る。

「リオ様?どうなさいましたか?まさか毒?それともご懐妊?」

 里桜は急いで首を振る。口の中の物を急いで咀嚼して飲み込んだ。

「ごめん。心配かけてしまって。このラビオリみたいなものが、お肉が入っているのかと思ったら、フルーツが入ってる甘い味だったから。想像してた味と舌で感じた味があまりに違いすぎてビックリしたの。」
「そうでしたか。」

 リナもアナスタシアもほっとしたように笑う。

「何事もなくて良かったです。」
「ありがとう。騒いで申し訳なかったわ。」
「ここは、この国の伝統的なお料理を出してくれるレストランのようです。多分これも伝統料理の一つなのではないでしょうか。」

 ホテルの給仕は何も説明せずに、料理だけを置いてそそくさと出て行ってしまったために里桜は料理の大半を何か分からず食べていた。

「ビックリしただけで、味はとても美味しい。でも、レストランの席で良かったのに。今までは食べられるお店がなくて持ち帰りの食べ物ばかりだったから、お店の雰囲気を久し振りに味わいたかったし。」
「ここも貴賤意識がとても強く、貴族がいる場所で平民は私語を慎まなければなりません。貴族間でも上下の差は激しく、上位貴族が集う中で、下位貴族は声を潜め、目立たないようにしないとなりません。」

 アナスタシアは、グラスに水を注ぎながら話す。

「じゃぁ、王妃である私と、公爵であるジルベール様が一緒に食事をしていたりしたら、この国の人は誰もその場で話せなくなってしまうって事?」
「そう言う事になります。それに話しかける時のマナーもエシタリシテソージャと同じで、上位の方が話しかけるまで話してはいけないことになっています。」
「あらっ大変ね。それなら、部屋に隔離されていても仕方がない。あっだから給仕も食事の説明を一切しなかったの?」
「えぇ。そうだと思います。」

 里桜は少し考えながら、

「ならば、今度からはお品書きが用意されていなかったらこのお皿のお料理は何?って私が聞かなくてはいけないのね?」
「そうですね。前回の外遊の時のように町の人に溶け込んで食べているわけではないので、そのような形式になります。」
「因みにリオ様が先に話し出していけないのはカルロ陛下のみで、マウラ王后陛下とはどちらから話し出しても良い事になっています。」
「それもまた、譲り合って面倒な事になりそうだけど。」

 そう言ってテーブルで頬杖をつく。

「同格の国賓を迎える時は、国賓から話し始めることが多いようでございますので、王后陛下にはリオ様からお話しになって構わないと思います。」
「はい。わかったわ。ありがとう。アナスタシア。」
「いいえ。」

 昼食後、またしばらく走り、今夜の宿に着いた。
 夕食を済ませて、部屋で寝支度をする。

「明日はとうとう王城へ参ります。しばらく山道が続きますので、乗り心地は更に悪くなると思います。」
「今日は早めに休んだ方が良さそうね。もう私の方は良いから、二人とも下がって体を休めてね。」
「はい。」