里桜とレオナールの第二子はルイと名付けられた。
里桜は出産時の出血が酷く、一時は危うい状態になっていたが、危険な状態は脱したと執務中のレオナールの元に先ほど連絡が届いた。
「良かったな。」
「あぁ。まるで生きた心地がしなかった。」
「よく、仕事を優先してくれたな。悪かった。」
「いつもお前が、仕事仕事とうるさいからだろう。それに、もう十二月になる。来年には持ち越せない仕事もあるし。それに、ヴァロア家には王太后までが駆けつけている、これ以上あの屋敷に人が集まったら、執事やメイドが大変だろう。」
レオナールは、何とも言えない表情でため息を吐いた。
「王太后様は生まれた王子や王女の事などはそっちのけにして、王妃様の世話をしていると聞いたが。」
「あぁ。侍女たちには殆ど触らせず、自分で面倒をみているようだ。」
「やっぱり、彼女は不思議な子だね。永久凍土と言われる王太后をいつの間にか融解させるとは。」
クロヴィスは面白そうに笑った。
「そうだ。これは王子誕生の恩赦で減刑の手続きが完了した書類だ。目を通しておいてくれ。」
「アリーチェは?」
「あぁ。今日、北の塔から出る事になっている。暫くは王宮の客間で過ごしてもらおうと思う。」
「そうか。」
∴∵
「アリーチェ様。お迎えに上がりました。」
「ありがとう。」
アリーチェは、三年間も陽に当たらず、人と隔離されて生きてきたためか、元々細身だった体は痩せこけたと形容する方がしっくりとくるような感じになり、肌は青白かった。
奇異な目に晒されないように移動は目立たないように行われた。
「王宮へはいつ振りでしょう。」
アリーチェは懐かしそうに言った。アリーチェが通された部屋には、アナスタシアが控えていた。
「お帰りなさいませ。」
「あなたは…確か王妃様の侍女ね。」
「はい。しばらくお世話を担当させて頂きます。」
「王妃様にご不便をかけてしまうわね。」
「王妃陛下はご実家にいらっしゃいますので。」
「あぁ。王子のご誕生おめでとうございます。」
「陛下へお伝えしておきます。まずは湯殿へ。」
∴∵
「あなたは、とても魔力が強いのね。あんなにたっぷりのお湯をすぐに溜められるなんて。それに、髪の毛も一瞬で乾かしてしまって。」
「赤の魔力を持っております。」
「赤の魔力があっても侍女になるだなんて。ゲウェーニッチでは考えられないことだわ。」
アナスタシアが髪を梳くと、アリーチェの髪は大量に抜けた。
「王妃様はお元気なのかしら?」
「ただ今、産後の療養中でございます。」
「そうだったわね。私、王妃様の笑顔がとても好きなのよ。」
アリーチェは、アナスタシアに促されるままテーブルに移動する。
「私の母はとても厳しくて、私が公爵家の人間として人前で感情を表に出すことを良しとしなかった。でもね、王妃様にお会いした時、王妃様は暖かな笑顔を向けて下さったの。同じように私も笑えたら良かったのだけれど、出来なかった。それだけが後悔よ。」
アリーチェはアナスタシアの淹れたハーブティーを優雅な所作でゆっくりと飲む。
「あなたには、王妃様と離ればなれにしてしまって申し訳なく思っているわ。」
アナスタシアが黙っていると、アリーチェは少しはにかんだようにした。
「時間はあるから笑顔の練習をしたの。でも、鏡もなかったし、自分では分からないけど…上手くは笑えていないわね。」
「いいえ。繰り返せばいつかは心から笑える日が来るのではないかと思います。」
アナスタシアはアリーチェに向って微笑んだ。
「あなたには、マルタと同じ印象を持っていたの。王妃様を心から敬愛しているのが分かる。そんな二人を離ればなれにしてはダメよね。」
「先ほども申しましたが、陛下はご実家で療養中でございますので。しばらくの間は私がお世話をさせて頂きます。」
「そう。ありがとう。」
今度もアリーチェは硬い笑顔を向けた。
里桜は出産時の出血が酷く、一時は危うい状態になっていたが、危険な状態は脱したと執務中のレオナールの元に先ほど連絡が届いた。
「良かったな。」
「あぁ。まるで生きた心地がしなかった。」
「よく、仕事を優先してくれたな。悪かった。」
「いつもお前が、仕事仕事とうるさいからだろう。それに、もう十二月になる。来年には持ち越せない仕事もあるし。それに、ヴァロア家には王太后までが駆けつけている、これ以上あの屋敷に人が集まったら、執事やメイドが大変だろう。」
レオナールは、何とも言えない表情でため息を吐いた。
「王太后様は生まれた王子や王女の事などはそっちのけにして、王妃様の世話をしていると聞いたが。」
「あぁ。侍女たちには殆ど触らせず、自分で面倒をみているようだ。」
「やっぱり、彼女は不思議な子だね。永久凍土と言われる王太后をいつの間にか融解させるとは。」
クロヴィスは面白そうに笑った。
「そうだ。これは王子誕生の恩赦で減刑の手続きが完了した書類だ。目を通しておいてくれ。」
「アリーチェは?」
「あぁ。今日、北の塔から出る事になっている。暫くは王宮の客間で過ごしてもらおうと思う。」
「そうか。」
∴∵
「アリーチェ様。お迎えに上がりました。」
「ありがとう。」
アリーチェは、三年間も陽に当たらず、人と隔離されて生きてきたためか、元々細身だった体は痩せこけたと形容する方がしっくりとくるような感じになり、肌は青白かった。
奇異な目に晒されないように移動は目立たないように行われた。
「王宮へはいつ振りでしょう。」
アリーチェは懐かしそうに言った。アリーチェが通された部屋には、アナスタシアが控えていた。
「お帰りなさいませ。」
「あなたは…確か王妃様の侍女ね。」
「はい。しばらくお世話を担当させて頂きます。」
「王妃様にご不便をかけてしまうわね。」
「王妃陛下はご実家にいらっしゃいますので。」
「あぁ。王子のご誕生おめでとうございます。」
「陛下へお伝えしておきます。まずは湯殿へ。」
∴∵
「あなたは、とても魔力が強いのね。あんなにたっぷりのお湯をすぐに溜められるなんて。それに、髪の毛も一瞬で乾かしてしまって。」
「赤の魔力を持っております。」
「赤の魔力があっても侍女になるだなんて。ゲウェーニッチでは考えられないことだわ。」
アナスタシアが髪を梳くと、アリーチェの髪は大量に抜けた。
「王妃様はお元気なのかしら?」
「ただ今、産後の療養中でございます。」
「そうだったわね。私、王妃様の笑顔がとても好きなのよ。」
アリーチェは、アナスタシアに促されるままテーブルに移動する。
「私の母はとても厳しくて、私が公爵家の人間として人前で感情を表に出すことを良しとしなかった。でもね、王妃様にお会いした時、王妃様は暖かな笑顔を向けて下さったの。同じように私も笑えたら良かったのだけれど、出来なかった。それだけが後悔よ。」
アリーチェはアナスタシアの淹れたハーブティーを優雅な所作でゆっくりと飲む。
「あなたには、王妃様と離ればなれにしてしまって申し訳なく思っているわ。」
アナスタシアが黙っていると、アリーチェは少しはにかんだようにした。
「時間はあるから笑顔の練習をしたの。でも、鏡もなかったし、自分では分からないけど…上手くは笑えていないわね。」
「いいえ。繰り返せばいつかは心から笑える日が来るのではないかと思います。」
アナスタシアはアリーチェに向って微笑んだ。
「あなたには、マルタと同じ印象を持っていたの。王妃様を心から敬愛しているのが分かる。そんな二人を離ればなれにしてはダメよね。」
「先ほども申しましたが、陛下はご実家で療養中でございますので。しばらくの間は私がお世話をさせて頂きます。」
「そう。ありがとう。」
今度もアリーチェは硬い笑顔を向けた。

