「はい?」
里桜はレオナールの執務室で、今回の事件の結末を聞いていた。
「一ヶ月後、正式に婚約式を行うそうだ。そして、少し慌ただしいが、来年の一月には結婚の運びになるそうだ。」
「え?」
目を丸くして驚いている里桜をレオナールはおかしそうに見ている。
「そんな重要な話しをどうして私は本人ではなく陛下から聞かなくてはならなかったのですか?」
「それは、俺が二人に口止めしていたからだ。どうだ?驚いたか?」
「とても。そして、とても嬉しいですけれど…本人から聞きたかったです。」
「リナとジルベールを責めるなよ。俺がリオに伝えたいからと、二人には口止めしていたんだ。」
「何故ですか?」
「リオの驚く顔を、特等席で見たかったからだ。」
側で控えていたアルチュールはレオナールの得意そうな顔を見て、 ‘自分だってつい最近まで気付いてもいなかったくせに’ と思ったが、言葉は飲み込んだ。
∴∵
話しは遡ること一週間前。
フェルナンが王妃襲撃を自白したために、処分を下さなくてはならなくなり、臣下に下ることが決まった。
養父母を誰にしようかと決断が付かなかった所に、突然ジルベールがやって来て、自ら養父になることを申し出てきた。
しかし、独り身の男のところに…と、レオナールの気が進まないでいると、リナとの結婚を考えていると打ち明けられた。
「本人は?リナは何て言っている?」
「結婚なんて話し、本人の意思確認もせず話しが進むはずはないだろ。」
「そもそも、そんな関係にいつからなっていた?リナの同意は?」
「お互い子供じゃないんだから、良いだろいつからだって。ちゃんと同意はもらってるよ。うるせぇなぁ。俺だっていい年なんだから結婚したっておかしくないだろう?」
ジルベールは思わず笑った。
「いや…ジルベールは…一生結婚しないんじゃないかと勝手に思っていたから。」
「リナもフェルナンを引き取ることを決意してくれた。結婚についてだけなら、あちらの親御さんにも話しはしたし、養父の伯爵にも話しはした。急な事にはなったが、許可はもらえた。後は、フェルナンの処遇が公表されてから、もう一度、養子についての話しをしに行くつもりだ。」
∴∵
事の過程を聞いて唖然としている里桜に、レオナールは続ける。
「と言うわけで、フェルナンは王族から除籍され、臣下となる。二人が結婚してから正式に二人を養父母として暮らすことになった。」
「そうですか。それで、フェルナンの様子は?」
「あぁ。今は落ち着いているよ。リオにも謝りたいと言っていた。」
里桜はニッコリ笑った。
「それは、良かった。それで、アリーチェ様は?」
「アリーチェに王妃殺害の意図はなかったと証言が出たとは言え、付いている侍女が犯したことだ。やはり無関係だとは言えない。しかし、十一月で事件から丸三年になり、ちょうどその子の生まれる頃だ。それを機に恩赦となる予定だ。」
「そうですか。」
里桜はほっとした様子になる。
「その後は、ゲウェーニッチへ帰る事になるだろう。」
「あの…陛下。」
レオナールは眉間にしわを寄せる。
「リオのその顔には見覚えがある。あまり良いことを言う時の顔ではない。」
「アリーチェ様と一緒に私もゲウェーニッチへ行ってはダメでしょうか?」
「何を言っている。何故、リオがあの国へ行く?」
「住むのではありませんよ。そもそも、アリーチェ様がこの国へ嫁いできた大きな理由の一つが、国の魔力不足なのですよね?千年以上も渡り人を呼べていないと聞きました。すると国に張られた結界はもう限界にきているのではないでしょうか?テレーズが成長して、魔力を得てもきっと一人で結界を直せるほどの力ではないはずです。結界が綻びると、大変な事になるとエイスクルプチュルの時に分かりました。私たちが思っているより遥かにあの国は危機的な状況なのではないのでしょうか?」
里桜は必死にレオナールに訴える。
「だから、なんだ?」
「私が直しに参ります。」
「リオ。」
レオナールの語気が急に強くなった。
「陛下。そんな荒れた国で陛下のお子様が育つのは心苦しいのです。そんな中、テレーズが成長し、一人背負うものの大きさは、計り知れません。私のように大人になってから責任を背負うのとは違います。テレーズのような子供に背負わせて良い荷物ではありません。陛下ならお分かり頂けますよね?」
「…あぁ。わかった。その事は少し検討しよう。」
「ありがとうございます。」
「まずは、我が子を元気に産んでからの話しだからな。」
「はい。」
里桜はレオナールの執務室で、今回の事件の結末を聞いていた。
「一ヶ月後、正式に婚約式を行うそうだ。そして、少し慌ただしいが、来年の一月には結婚の運びになるそうだ。」
「え?」
目を丸くして驚いている里桜をレオナールはおかしそうに見ている。
「そんな重要な話しをどうして私は本人ではなく陛下から聞かなくてはならなかったのですか?」
「それは、俺が二人に口止めしていたからだ。どうだ?驚いたか?」
「とても。そして、とても嬉しいですけれど…本人から聞きたかったです。」
「リナとジルベールを責めるなよ。俺がリオに伝えたいからと、二人には口止めしていたんだ。」
「何故ですか?」
「リオの驚く顔を、特等席で見たかったからだ。」
側で控えていたアルチュールはレオナールの得意そうな顔を見て、 ‘自分だってつい最近まで気付いてもいなかったくせに’ と思ったが、言葉は飲み込んだ。
∴∵
話しは遡ること一週間前。
フェルナンが王妃襲撃を自白したために、処分を下さなくてはならなくなり、臣下に下ることが決まった。
養父母を誰にしようかと決断が付かなかった所に、突然ジルベールがやって来て、自ら養父になることを申し出てきた。
しかし、独り身の男のところに…と、レオナールの気が進まないでいると、リナとの結婚を考えていると打ち明けられた。
「本人は?リナは何て言っている?」
「結婚なんて話し、本人の意思確認もせず話しが進むはずはないだろ。」
「そもそも、そんな関係にいつからなっていた?リナの同意は?」
「お互い子供じゃないんだから、良いだろいつからだって。ちゃんと同意はもらってるよ。うるせぇなぁ。俺だっていい年なんだから結婚したっておかしくないだろう?」
ジルベールは思わず笑った。
「いや…ジルベールは…一生結婚しないんじゃないかと勝手に思っていたから。」
「リナもフェルナンを引き取ることを決意してくれた。結婚についてだけなら、あちらの親御さんにも話しはしたし、養父の伯爵にも話しはした。急な事にはなったが、許可はもらえた。後は、フェルナンの処遇が公表されてから、もう一度、養子についての話しをしに行くつもりだ。」
∴∵
事の過程を聞いて唖然としている里桜に、レオナールは続ける。
「と言うわけで、フェルナンは王族から除籍され、臣下となる。二人が結婚してから正式に二人を養父母として暮らすことになった。」
「そうですか。それで、フェルナンの様子は?」
「あぁ。今は落ち着いているよ。リオにも謝りたいと言っていた。」
里桜はニッコリ笑った。
「それは、良かった。それで、アリーチェ様は?」
「アリーチェに王妃殺害の意図はなかったと証言が出たとは言え、付いている侍女が犯したことだ。やはり無関係だとは言えない。しかし、十一月で事件から丸三年になり、ちょうどその子の生まれる頃だ。それを機に恩赦となる予定だ。」
「そうですか。」
里桜はほっとした様子になる。
「その後は、ゲウェーニッチへ帰る事になるだろう。」
「あの…陛下。」
レオナールは眉間にしわを寄せる。
「リオのその顔には見覚えがある。あまり良いことを言う時の顔ではない。」
「アリーチェ様と一緒に私もゲウェーニッチへ行ってはダメでしょうか?」
「何を言っている。何故、リオがあの国へ行く?」
「住むのではありませんよ。そもそも、アリーチェ様がこの国へ嫁いできた大きな理由の一つが、国の魔力不足なのですよね?千年以上も渡り人を呼べていないと聞きました。すると国に張られた結界はもう限界にきているのではないでしょうか?テレーズが成長して、魔力を得てもきっと一人で結界を直せるほどの力ではないはずです。結界が綻びると、大変な事になるとエイスクルプチュルの時に分かりました。私たちが思っているより遥かにあの国は危機的な状況なのではないのでしょうか?」
里桜は必死にレオナールに訴える。
「だから、なんだ?」
「私が直しに参ります。」
「リオ。」
レオナールの語気が急に強くなった。
「陛下。そんな荒れた国で陛下のお子様が育つのは心苦しいのです。そんな中、テレーズが成長し、一人背負うものの大きさは、計り知れません。私のように大人になってから責任を背負うのとは違います。テレーズのような子供に背負わせて良い荷物ではありません。陛下ならお分かり頂けますよね?」
「…あぁ。わかった。その事は少し検討しよう。」
「ありがとうございます。」
「まずは、我が子を元気に産んでからの話しだからな。」
「はい。」

