「それで?」
「ベルナルダ様は王子様に王妃様を襲わせようと企んだようです。」
「そう…。その全てが書かれている手紙をあなたは燃やしてしまったの?」
「…はい。」

 セシルは真っ直ぐにしていた視線を、下に向ける。

「それを証拠として、どうして騎士団や陛下に見て頂こうと思わなかったの?」
「それは…最後に私への侮辱の言葉が書かれていました。それを読んだら、頭に血が上ってしまって。」
「きっとベルナルダ様にその性格を利用されたのね…」

 里桜が小さく息を吐いてから言うと、セシルは味方を見つけたように、それに同調し始めた。

「そうですっ。私は利用されただけではなく・・」
「今は、自己弁護の言葉は良いから。」

 里桜は後ろを振り向き、ジルベールの方を見た。
 彼は何も言わず、黙って頷いた。これは、自分の思う通りに差配して良いと言う合図だ。

「本当は、最後以外にもあなたへの非難の言葉が書かれていたのではない?」
「…はい。書いてあったように思います。」

 セシルの声はどんんどんと小さくなる。

「つまりは、陛下、アリーチェ様、マルタ、それに私とあなた。ベルナルダ様の心を踏みにじった、この五人への復讐だったと書かれてあったのね?」
「はい。概ねそのような内容でした。」
「そう。わかりました。セシル顔を上げて、私の話をきちんと聞きなさい。」

 里桜は、セシルが顔を上げるまで待つ。

「あなただと言う確証は取れませんでしたが、セシルと言う名のブロンドの侍女が私の良くない噂話を吹聴していたと証言も出ています。それに、あなたの部屋から私に盛ったものと同じ毒が発見されています。そして、あなたが首謀者だと証言する人もいる。」

 セシルの表情はみるみるうちに青ざめる。

「しかし、その証言も、今ではさらに詳しく調べることも出来なくなりました。なので、王妃殺害未遂の罪については問わないこととします。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」

 セシルは里桜にすがるように何度も礼を述べた。

「ただし、本来あなたが仕えるべき主を蔑ろにしたことは侍女として断じて許容できることではありません。ベルナルダ様の手紙がなくてもあなたが侍女としての本分を全うしていなかったことは分かっています。」

 セシルは再び、俯いてしまった。

「顔を上げなさい。」

 セシルはびくりとして、顔を上げた。

「そんなあなたをこのまま侍女として働かせることはできません。このような状態で、侍女の職を追われるのですから陛下も私も紹介状を書くことも出来ません。」
「そんな…。」

 里桜の眉間に少し力が入る。

「そこで、今後はシャルル様の離宮で下働きとして働く事を命じます。これからは自身の本分を忘れることなく、誠心誠意お仕えするように。正式な沙汰は追って下されます。それまで大人しく待つように。」

 里桜はそう言って、部屋を後にした。