アナスタシアが扉を開くと、そこにはセシルが縛られたまま座らされていた。
「アナスタシア様、リナ様。」
「王妃陛下の名代で来ました。」
「王妃様へお伝え下さい。私は王妃様のお命を狙ってなどいません。どうか…どうか…。私ではなく、ベルナルダ様が全てやった事なんです。だからベルナルダ様は、断首刑を受けたくないために自ら死ぬことを選んだのです。」
涙を流しながら、セシルは目の前のアナスタシアとリナに懇願する。
そこに、鋭い声が響く。
「何故、お前が知っている?ベルナルダ様が亡くなられたこと、誰も口にしてはいない。やはりお前がベル」
アナスタシアが、ジラールを笑顔で制する。
そして、ジラールとは正反対の穏やかな声でセシルに話しかける。
「何故、あなたがそんなことまで知っているのかは追々聞きましょう。さて、王妃陛下からの御下問です。あなたにとって、ベルナルダ妃殿下とはどのような方でしたか?」
アナスタシアの言葉に、セシルは少し戸惑いを見せた。
「もう事態はここまで来ているのです。今更、綺麗事はなしに致しましょう。」
アナスタシアは整った顔を、綺麗にほころばせた。
「…悔しかったのです。私は子爵の家に生まれました。魔力も家格も私の方がベルナルダ様より優れている。それなのに、少し見た目が良いからと言って。」
セシルはアナスタシアとリナを見る。
「お二人には理解出来ないでしょうね。とくにアナスタシアさん。公爵令嬢で魔力も強く、お綺麗で。何にも欠けていない、鉄壁の令嬢アナスタシアですものね。」
セシルは自分の下唇を噛んだ。
「十歳の時に父が投資に失敗して、嫁ぎ先も見つからず、王宮に仕える事になりました。爵位がありながら、生活に苦労していたのはベルナルダ様と同じでした。しかもベルナルダ様よりも私の方がずっと若い。それなのに…。」
「ベルナルダ妃殿下の侍女になることは、あなた自身が望んだことだと聞きましたけど?」
セシルは小さく頷いた。
「私は、陛下が立太子された頃に王太子付きの侍女としてお仕えしていました。しかし、王子や国王の侍女には年齢制限があり、四十歳を過ぎないとお側に侍ることは出来ません。なので、側妃様の侍女のほうがお目にかかる機会も増えるのではないかと思ったんです。私を見つけさえして下されば、陛下のお心を掴む・・」
アナスタシアは笑顔を一瞬にして曇らせた。
「そのような規程が出来たのは、あなたのように侍女としての道理を持たぬ人間がいるからです。自らの本分も心得ず、他人を妬むなど…。」
「あなたのように、容姿にも家柄にも恵まれた生まれながらの強者には分からない。下の者は常に上の者に取るに足らないものとして嘲笑されて生きるしかない。それが嫌ならどんな手を使っても上に這い上がるしかない。」
今まで、一度もぶつかることのなかったアナスタシアとセシルの視線がぶつかった。
「では、やはりあなたはベルナルダ妃殿下に罪をかぶせようとしているの?」
「それは違う。確かに、ベルナルダ様を蔑ろにしていたことは認めます。でも、だからと言って、王妃様の命を狙い、それをベルナルダ様になすり付けたりなどいたしません。ただ、私は陛下にエスコトートしてもらい、王妃様のように皆から羨んだ目で見られたかった。華やかな暮らしに戻って、今までの苦労はこの時の為のものだったのだと思いたかった。私なら、ベルナルダ様よりも陛下を癒して差し上げられますし、王妃様の様に浪費して、陛下を困らせるようなこともしません。」
「あなたに両陛下の何がわかると言うのです。」
アナスタシアの剣幕に、リナはそっとアナスタシアを制止する。気を取り直したアナスタシアが再び話し始める。
「それで、あなたがベルナルダ妃殿下が全てを企んだと言っている根拠は?」
「ベルナルダ様が最後に私あてに手紙を残していました。そこには、ベルナルダ様の生い立ちから書かれていました。そして、王妃様を殺めようとした理由と青葉花毒を使ったと言うことも。最後に陛下にその事を謝る手紙を書いてから自害すると書かれていました。」
「そうですか。それで、その手紙は今、どこに?」
「…丸めて燃やしてしまいました。」
アナスタシアはため息を吐く。
「そう。では、そのまま沙汰を待ちなさい。」
ジラールを先頭に三人は尋問室を出て行った。
「アナスタシア様、リナ様。」
「王妃陛下の名代で来ました。」
「王妃様へお伝え下さい。私は王妃様のお命を狙ってなどいません。どうか…どうか…。私ではなく、ベルナルダ様が全てやった事なんです。だからベルナルダ様は、断首刑を受けたくないために自ら死ぬことを選んだのです。」
涙を流しながら、セシルは目の前のアナスタシアとリナに懇願する。
そこに、鋭い声が響く。
「何故、お前が知っている?ベルナルダ様が亡くなられたこと、誰も口にしてはいない。やはりお前がベル」
アナスタシアが、ジラールを笑顔で制する。
そして、ジラールとは正反対の穏やかな声でセシルに話しかける。
「何故、あなたがそんなことまで知っているのかは追々聞きましょう。さて、王妃陛下からの御下問です。あなたにとって、ベルナルダ妃殿下とはどのような方でしたか?」
アナスタシアの言葉に、セシルは少し戸惑いを見せた。
「もう事態はここまで来ているのです。今更、綺麗事はなしに致しましょう。」
アナスタシアは整った顔を、綺麗にほころばせた。
「…悔しかったのです。私は子爵の家に生まれました。魔力も家格も私の方がベルナルダ様より優れている。それなのに、少し見た目が良いからと言って。」
セシルはアナスタシアとリナを見る。
「お二人には理解出来ないでしょうね。とくにアナスタシアさん。公爵令嬢で魔力も強く、お綺麗で。何にも欠けていない、鉄壁の令嬢アナスタシアですものね。」
セシルは自分の下唇を噛んだ。
「十歳の時に父が投資に失敗して、嫁ぎ先も見つからず、王宮に仕える事になりました。爵位がありながら、生活に苦労していたのはベルナルダ様と同じでした。しかもベルナルダ様よりも私の方がずっと若い。それなのに…。」
「ベルナルダ妃殿下の侍女になることは、あなた自身が望んだことだと聞きましたけど?」
セシルは小さく頷いた。
「私は、陛下が立太子された頃に王太子付きの侍女としてお仕えしていました。しかし、王子や国王の侍女には年齢制限があり、四十歳を過ぎないとお側に侍ることは出来ません。なので、側妃様の侍女のほうがお目にかかる機会も増えるのではないかと思ったんです。私を見つけさえして下されば、陛下のお心を掴む・・」
アナスタシアは笑顔を一瞬にして曇らせた。
「そのような規程が出来たのは、あなたのように侍女としての道理を持たぬ人間がいるからです。自らの本分も心得ず、他人を妬むなど…。」
「あなたのように、容姿にも家柄にも恵まれた生まれながらの強者には分からない。下の者は常に上の者に取るに足らないものとして嘲笑されて生きるしかない。それが嫌ならどんな手を使っても上に這い上がるしかない。」
今まで、一度もぶつかることのなかったアナスタシアとセシルの視線がぶつかった。
「では、やはりあなたはベルナルダ妃殿下に罪をかぶせようとしているの?」
「それは違う。確かに、ベルナルダ様を蔑ろにしていたことは認めます。でも、だからと言って、王妃様の命を狙い、それをベルナルダ様になすり付けたりなどいたしません。ただ、私は陛下にエスコトートしてもらい、王妃様のように皆から羨んだ目で見られたかった。華やかな暮らしに戻って、今までの苦労はこの時の為のものだったのだと思いたかった。私なら、ベルナルダ様よりも陛下を癒して差し上げられますし、王妃様の様に浪費して、陛下を困らせるようなこともしません。」
「あなたに両陛下の何がわかると言うのです。」
アナスタシアの剣幕に、リナはそっとアナスタシアを制止する。気を取り直したアナスタシアが再び話し始める。
「それで、あなたがベルナルダ妃殿下が全てを企んだと言っている根拠は?」
「ベルナルダ様が最後に私あてに手紙を残していました。そこには、ベルナルダ様の生い立ちから書かれていました。そして、王妃様を殺めようとした理由と青葉花毒を使ったと言うことも。最後に陛下にその事を謝る手紙を書いてから自害すると書かれていました。」
「そうですか。それで、その手紙は今、どこに?」
「…丸めて燃やしてしまいました。」
アナスタシアはため息を吐く。
「そう。では、そのまま沙汰を待ちなさい。」
ジラールを先頭に三人は尋問室を出て行った。

