「そんなっ。リオ様が厳罰を望んだなんて。処刑された後にリオ様は目覚めたんです。そんな事が言えるはずもないのに。」

 アルチュールはひとつ頷いた。

「噂など、そのようなものなんです。真偽不確かな事でも広まっていくうちにそこは関係がなくなっていく。」
「事実かどうか分からない事でもその噂話を聞いた後に、他の人が同じ話しをしているとやっぱりそうなんだと思ってしまう。それが幾度か繰り返されると、それはもう人々からしてみれば、事実なのです。」

 リオの侍従アルフレードは、一つ頷いて口を開く。

「そうやって、セシルは情報を操作していったようなのです。」

 リナは少し考え込んで、

「…一人で噂を広げられる範囲は限られてきますよね。では、それだけ時間を掛けて王妃様を貶めようとしていたって事でもありますよね。」
「えぇ。そうだと思います。」
「婚約したあたりから、派手好きなどの噂はありました。」

 苦々しい顔で、再びアルフレードは口を開いた。

「外遊に行かれたことも良くは言われていませんでした。それと、救世主トシコ様と陛下の噂が消えず、王妃様が横恋慕したなどの噂も。」

 その事に関しては、里桜の養父ロベールも暫くは王と救世主の仲を引き裂こうとする渡り人だと思っていたのだから、多くの人がそう思っていたのだろう。

「両陛下がお越しになりました。」
「入って頂け。」

 アルチュールの返事に二人は入ってきた。レオナールは困り果てた顔、里桜は少し怒った顔をしている。

「どうなさいましたか?御用でしたらお呼び下されば・・」
「アルフレード、リナ、アニア。頼むからリオを止めてくれ。」
「陛下、何も私は釈放をお願いしている訳ではありません。ただ、牢へ行って一度セシルと直接話したいと言っているだけです。」
「だから、ダメだと言っている。」
「陛下。」
「ダメだ。」

 二人の言い合いに、周りは少し困惑している。

「リオ様。何故、セシルと話しをしたいと思われたのですか?」
「ベルナルダ様が残したお手紙を陛下から見せて頂いたの。その手紙には、ベルナルダ様の憂慮の原因になっている私を、セシルが独断で排除しようとしたと書かれているの。それって違和感があるでしょう?」

 里桜はアナスタシアとリナに視線を送る。

「えぇ。正直に申し上げれば。あの侍女がベルナルダ様のためにそのようなことをするとは思えません。」

 アナスタシアの言葉にリナも頷く。

「セシルは自分はやっていない、全てはベルナルダ様が仕組んだことだと言っているそうなの。」
「罪をなすり付けようとしているのですか。しかし、その方が私が抱くベルナルダ様とセシルとの関係として違和感が生まれません。」
「私もなの。」
「それで、リオ様は何をお話しなさるおつもりなのですか?」
「とにかく会って話してみないことには、何を聞きたくなるかも分からないんだけど。セシルはベルナルダ様の事をどんな風に思っていたのかは聞きたい。」

 アナスタシアは納得したように頷く。

「それと、こうもハッキリとベルナルダ様の仕組んだことだと言う理由も。」
「それは、単に罪をベルナルダ様になすり付けようとしているだけなのでは?」

 アルチュールの言葉に里桜は首を振る。

「そもそもの、ベルナルダ様の事を思っての行動だったって言う前提がなくなってしまえば、セシルが私を狙う理由がないもの。」
「…もしかして、リオ様はベルナルダ様の仕組んだことだと思っておいでなのですか?」