セシル。私はマルタを首謀者に仕立てて、渡り人に毒を盛ることにしました。
マルタを言いくるめるのは簡単です。そっと耳元で囁けば良いのです。渡り人はただの平民だと。このまま結婚すれば、平民が王妃になり、あなたの大切なお嬢様はその下に座ることになる。しかも男児を産んだら、あなたのお嬢様が生んだ由緒正しい王子が臣下に下り、平民の子が王になるのだと。
アリーチェと陛下は大変仲が睦まじいと知らせるべきだと言えば、懐妊の宴にわざと渡り人を招待したり、渡り人が餌を食べさせた直後に神の乗り物である天馬が病気にかかれば、人々は不吉な王妃だと噂をして廃妃になることもあり得ると耳に入れれば、餌にネギを紛れ込ませたりと色々とマルタはやってくれました。
上手くはいきませんでしたが。
そして、やっと私の待った時が来ました。渡り人が懐妊したのです。
それまでにマルタの中に燻っていた渡り人への感情を煽ることは容易いことでした。マルタは私に多少苦しんでも良いから確実に堕胎できる薬は手に入るのかと聞いてきました。
二度と子供が産めなくなっても構わないとまで言っていたのですよ。死んでしまっても構わないとさえ思っていたのかもしれません。
私は用意した青葉花毒を堕胎薬だと言ってマルタに渡しました。
これは、伯爵の鏃に毒を塗るために手に入れた青葉花の余った根を乾燥させ手元に置いてあったものです。青葉花は二度も役に立ちました。
陛下はご自分の手で毒の盛られた食事を渡り人に与え、そのひと匙が渡り人の命を奪う。それを知った陛下は苦しむでしょう。
そして、その罪を全てあの憎い侍女マルタに被ってもらう。王妃を殺めたとなれば、アリーチェも無関係では済まないはずです。
こんな愉快な事はないと思いました。
あの毒ならば、誤って手にでも付けてくれれば、マルタも一緒に排除できます。生きて捕らえられたところで、お嬢様思いで傲慢なマルタは、絶対にアリーチェは無関係だと言うでしょう。まぁ、実際にアリーチェは何もしていないのですけれど。そして、私に全て操られているとも気が付かずに自分が全て企てた事だとおごり高ぶるのでしょう。
ただ、それではアリーチェはただ寂しい身の上になるだけです。それではつまらない。私にあれほどの屈辱を味わわせたのですから、やはりアリーチェにも極刑になってもらわなければ。
なので、私は町に出て‘アリーチェは身勝手な私怨により、王妃を暗殺しようと企てた’と噂を流しました。これは見事に巷を騒がせ示威運動にまで発展しました。
これで、王室も秘密裏に事を片付けることはできなくなり、さらにアリーチェにも厳罰を下すしかありません。
そして思いの外に運動が激化し、とうとう王城の門を叩き壊し、自分たちの手で捕らえられた侍女たちに罰を下そうと言う者まで出てきたそうです。
そのために処刑を急がねばならなくなったそうです。
この国の王室にとって民の意思は軽くありません。王子の生母と言う事で、断首台に上らせる事は出来ませんでしたが、幽閉ならまぁ、良いでしょう。
これでいつでも平然としているアリーチェもさすがに悔しさで顔を歪めるでしょう。陛下は、自ら愛する者を殺してしまった苦痛を一生背負うのでしょう。私を無下に扱った者たちが苦しむ姿を想像すると、心が弾みました。
なのに、渡り人は死にませんでした。
マルタを言いくるめるのは簡単です。そっと耳元で囁けば良いのです。渡り人はただの平民だと。このまま結婚すれば、平民が王妃になり、あなたの大切なお嬢様はその下に座ることになる。しかも男児を産んだら、あなたのお嬢様が生んだ由緒正しい王子が臣下に下り、平民の子が王になるのだと。
アリーチェと陛下は大変仲が睦まじいと知らせるべきだと言えば、懐妊の宴にわざと渡り人を招待したり、渡り人が餌を食べさせた直後に神の乗り物である天馬が病気にかかれば、人々は不吉な王妃だと噂をして廃妃になることもあり得ると耳に入れれば、餌にネギを紛れ込ませたりと色々とマルタはやってくれました。
上手くはいきませんでしたが。
そして、やっと私の待った時が来ました。渡り人が懐妊したのです。
それまでにマルタの中に燻っていた渡り人への感情を煽ることは容易いことでした。マルタは私に多少苦しんでも良いから確実に堕胎できる薬は手に入るのかと聞いてきました。
二度と子供が産めなくなっても構わないとまで言っていたのですよ。死んでしまっても構わないとさえ思っていたのかもしれません。
私は用意した青葉花毒を堕胎薬だと言ってマルタに渡しました。
これは、伯爵の鏃に毒を塗るために手に入れた青葉花の余った根を乾燥させ手元に置いてあったものです。青葉花は二度も役に立ちました。
陛下はご自分の手で毒の盛られた食事を渡り人に与え、そのひと匙が渡り人の命を奪う。それを知った陛下は苦しむでしょう。
そして、その罪を全てあの憎い侍女マルタに被ってもらう。王妃を殺めたとなれば、アリーチェも無関係では済まないはずです。
こんな愉快な事はないと思いました。
あの毒ならば、誤って手にでも付けてくれれば、マルタも一緒に排除できます。生きて捕らえられたところで、お嬢様思いで傲慢なマルタは、絶対にアリーチェは無関係だと言うでしょう。まぁ、実際にアリーチェは何もしていないのですけれど。そして、私に全て操られているとも気が付かずに自分が全て企てた事だとおごり高ぶるのでしょう。
ただ、それではアリーチェはただ寂しい身の上になるだけです。それではつまらない。私にあれほどの屈辱を味わわせたのですから、やはりアリーチェにも極刑になってもらわなければ。
なので、私は町に出て‘アリーチェは身勝手な私怨により、王妃を暗殺しようと企てた’と噂を流しました。これは見事に巷を騒がせ示威運動にまで発展しました。
これで、王室も秘密裏に事を片付けることはできなくなり、さらにアリーチェにも厳罰を下すしかありません。
そして思いの外に運動が激化し、とうとう王城の門を叩き壊し、自分たちの手で捕らえられた侍女たちに罰を下そうと言う者まで出てきたそうです。
そのために処刑を急がねばならなくなったそうです。
この国の王室にとって民の意思は軽くありません。王子の生母と言う事で、断首台に上らせる事は出来ませんでしたが、幽閉ならまぁ、良いでしょう。
これでいつでも平然としているアリーチェもさすがに悔しさで顔を歪めるでしょう。陛下は、自ら愛する者を殺してしまった苦痛を一生背負うのでしょう。私を無下に扱った者たちが苦しむ姿を想像すると、心が弾みました。
なのに、渡り人は死にませんでした。

