お渡りのないまま一年が経って、レオナール様が婚約を発表しました。
私とは違い、国同士で決めた、正式なお相手です。しかも、私の十歳も年下の十四歳で国は違っても公爵令嬢です。
ある日、そんな彼女が挨拶にと、東にある私の棟へやって来ました。
私は、年上らしくそして、第一側妃らしくご挨拶致しました。その時、侍女マルタが、
「こちらが許可を出してもいないのに話し始め、その上アリーチェ様に顔を向けるなど、無礼な。」
と私を咎めました。彼女は十四歳とは思えないほどの毅然とした様子で
「止めなさい。ここはゲウェーニッチではないのよ。」
とマルタの態度を嗜めていた事を覚えています。そして、自己紹介をすると、
「ベルナルダ、あなたの出自は男爵家と聞いています。これから宜しく頼みますね。」
と曇りのない清く美しい顔でそう言いました。まるで私が彼女に傅くのが当たり前のように。
それでもしばらくの間は良かったのです。男爵家出身の側妃でも、婚約者よりはまだ立場がありましたから。
しかし、彼女が学院を卒業して正式に側妃となってからは、断続的でもお渡りのある彼女と、全く夜のお渡りがない私とでは立場が変ってしまいました。
「ベルナルダは侍女だったのを夜伽に召し上げられて、そのまま側妃になったとか…何故、我がお嬢様がそのような出自と同格の側妃でなければならない。」
「この国の者は無礼なこと。我がお嬢様は独立王の孫娘。筆頭公爵の第一息女。それが、夜伽より下座にいるなどあってはならないこと。」
彼女の侍女はことある毎に聞こえよがしに言っていました。本来なら第一側妃の私が上座になるはずの時にも彼女の侍女は私を下座へ追いやったりしました。
時は経ち、王太子だったレオナール様が国王に即位される時に決定的な出来事が起きました。
レオナール様の戴冠式には側妃だったため私たちは参列することが出来ませんでした。それでもパレードだけは見たいと若い侍女たちにせがまれて馬車を出して見物に出ました。早めに王宮を出てタイミングが良ければレオナール様と目が合うかも知れない良い場所に馬車を止めました。
パレードが始まり、レオナール様のお姿を拝見しようと私の心は密かにときめいていました。
そんな時、王家の紋章の付いた馬車がやって来ました。御者は、
「こちらの馬車には、第一王子も乗っておられる。紋章のない馬車は下がれ。」
そう言って無理矢理に私の乗った馬車を退かせ、結局私の馬車は最後列へ追いやられて、私は陛下の姿を見ることが出来ませんでした。
私はその夜、声を殺して泣きました。
そんな彼女も、自分が二番手に落とされる日が来たのです。
レオナール様は渡り人にご愛執だと噂になり始めたのです。
私たちが正妃になれなかった理由は、天馬に近づく事も出来なかったからですが、渡り人は天馬に乗って魔獣の討伐に出掛けたと言うのです。
このままだと、渡り人が王妃になる筈だと思いました。私の予想通り、レオナール様と渡り人は婚約をしました。華々しく婚約成立の舞踏会まで開かれました。
本来は結婚式に私たちは参列する予定ではありませんでした。けれど、私は彼女を誘い参列する事に決めました。
彼女はどんな悔しい顔をするのでしょうか、私はそれだけを楽しみにしていました。しかしながら、彼女は顔色ひとつ変えませんでした。
加えてレオナール様は、私たちが参列しているのも目に入っていないようでした。ただ、穏やかな顔で渡り人を見ていました。
もう私はこれ以上、人から存在を否定されるのは嫌でした。
渡り人だってもとは私より下位の平民だったはずなのに、公爵家へ養子に入って、見たこともないほど立派な花嫁行列を作り、寵愛を一身に受ける。
こんな不公平があるなんて。
私は、今までの恨みを全て返す方法を考えました。陛下が最も大切にしている、渡り人の命を奪う事。しかも、普通に奪うだけでは駄目です。陛下を奈落の底に落とさなくてはなりません。
セシル、長々と今までのことを書いてきましたが、あなたはことある毎にアリーチェや渡り人の噂を私の耳に入れ、私が彼女たちを妬むように仕向けたのでしょう?マルタには私の出自を話し、私を軽んじてもよいのだと思わせたのでしょう?
子爵家の出身のあなたが、男爵家出身の私に傅くことがそんなにも許せませんでしたか?私が傷つくのがそんなにも見たかったのですか?
私とは違い、国同士で決めた、正式なお相手です。しかも、私の十歳も年下の十四歳で国は違っても公爵令嬢です。
ある日、そんな彼女が挨拶にと、東にある私の棟へやって来ました。
私は、年上らしくそして、第一側妃らしくご挨拶致しました。その時、侍女マルタが、
「こちらが許可を出してもいないのに話し始め、その上アリーチェ様に顔を向けるなど、無礼な。」
と私を咎めました。彼女は十四歳とは思えないほどの毅然とした様子で
「止めなさい。ここはゲウェーニッチではないのよ。」
とマルタの態度を嗜めていた事を覚えています。そして、自己紹介をすると、
「ベルナルダ、あなたの出自は男爵家と聞いています。これから宜しく頼みますね。」
と曇りのない清く美しい顔でそう言いました。まるで私が彼女に傅くのが当たり前のように。
それでもしばらくの間は良かったのです。男爵家出身の側妃でも、婚約者よりはまだ立場がありましたから。
しかし、彼女が学院を卒業して正式に側妃となってからは、断続的でもお渡りのある彼女と、全く夜のお渡りがない私とでは立場が変ってしまいました。
「ベルナルダは侍女だったのを夜伽に召し上げられて、そのまま側妃になったとか…何故、我がお嬢様がそのような出自と同格の側妃でなければならない。」
「この国の者は無礼なこと。我がお嬢様は独立王の孫娘。筆頭公爵の第一息女。それが、夜伽より下座にいるなどあってはならないこと。」
彼女の侍女はことある毎に聞こえよがしに言っていました。本来なら第一側妃の私が上座になるはずの時にも彼女の侍女は私を下座へ追いやったりしました。
時は経ち、王太子だったレオナール様が国王に即位される時に決定的な出来事が起きました。
レオナール様の戴冠式には側妃だったため私たちは参列することが出来ませんでした。それでもパレードだけは見たいと若い侍女たちにせがまれて馬車を出して見物に出ました。早めに王宮を出てタイミングが良ければレオナール様と目が合うかも知れない良い場所に馬車を止めました。
パレードが始まり、レオナール様のお姿を拝見しようと私の心は密かにときめいていました。
そんな時、王家の紋章の付いた馬車がやって来ました。御者は、
「こちらの馬車には、第一王子も乗っておられる。紋章のない馬車は下がれ。」
そう言って無理矢理に私の乗った馬車を退かせ、結局私の馬車は最後列へ追いやられて、私は陛下の姿を見ることが出来ませんでした。
私はその夜、声を殺して泣きました。
そんな彼女も、自分が二番手に落とされる日が来たのです。
レオナール様は渡り人にご愛執だと噂になり始めたのです。
私たちが正妃になれなかった理由は、天馬に近づく事も出来なかったからですが、渡り人は天馬に乗って魔獣の討伐に出掛けたと言うのです。
このままだと、渡り人が王妃になる筈だと思いました。私の予想通り、レオナール様と渡り人は婚約をしました。華々しく婚約成立の舞踏会まで開かれました。
本来は結婚式に私たちは参列する予定ではありませんでした。けれど、私は彼女を誘い参列する事に決めました。
彼女はどんな悔しい顔をするのでしょうか、私はそれだけを楽しみにしていました。しかしながら、彼女は顔色ひとつ変えませんでした。
加えてレオナール様は、私たちが参列しているのも目に入っていないようでした。ただ、穏やかな顔で渡り人を見ていました。
もう私はこれ以上、人から存在を否定されるのは嫌でした。
渡り人だってもとは私より下位の平民だったはずなのに、公爵家へ養子に入って、見たこともないほど立派な花嫁行列を作り、寵愛を一身に受ける。
こんな不公平があるなんて。
私は、今までの恨みを全て返す方法を考えました。陛下が最も大切にしている、渡り人の命を奪う事。しかも、普通に奪うだけでは駄目です。陛下を奈落の底に落とさなくてはなりません。
セシル、長々と今までのことを書いてきましたが、あなたはことある毎にアリーチェや渡り人の噂を私の耳に入れ、私が彼女たちを妬むように仕向けたのでしょう?マルタには私の出自を話し、私を軽んじてもよいのだと思わせたのでしょう?
子爵家の出身のあなたが、男爵家出身の私に傅くことがそんなにも許せませんでしたか?私が傷つくのがそんなにも見たかったのですか?

