大泣きしたフェルナンは、過呼吸のような状態になり、イザベルがそれをなだめていた。
やっとの事で落ち着いたフェルナンは、涙の乾かないまま真っ直ぐにクロヴィスを見た。
「王妃様は、母上と幼い妹を殺しました。そして、次は僕を殺すつもりだと。父上は王妃様だけを大切にしている。だから僕を守ってくれる人は誰もいないと。…僕は一人きりになってしまった。」
イザベラとクロヴィスは互いを見合わせた。
「だから、王妃様がいなくなれば…それで王妃を・・」
「王子。」
イザベラは急いでフェルナンの言葉を遮る。
「王子、お母上と妹君の事はどなたからそう聞いたのですか?王妃陛下が王子を殺そうとしているって話も。」
「ベルナルダ様が…母上とテレーズは死んだと。」
「陛下が殺したと言ったの?」
「母上は無関係だったと…侍女たちは言っていました。きっと王妃様が厳罰を望んだのだと。そのせいで死んだのだと。」
「それも、ベルナルダが王子に言ったのですか?」
イザベラの問いに、フェルナンは首を振った。
「僕の侍女が噂していました。でも、王妃様の侍女は何も悪くないのです。クロヴィス伯父上。あの侍女を咎めないで下さい。僕が、王妃様に嫌われたから…。母上も言っていました。王妃様に親切にしていれば、王妃様も僕に親切にしてくれるのだと。でも、僕の侍女たちが沢山王妃様の悪口を言ったから。王妃様は僕を嫌ってしまった。だから…母上やテレーズも殺されてしまった。」
イザベルは、フェルナンをそっと抱きしめた。
∴∵
馬車で帰ってきたベルナルダにセシルはお茶を用意していた。
「ベルナルダ様、どちらへいらしていたんですか?」
「少し出かけていたの。あなたがいなかったから、言付けを出来なくて悪かったわ。セシル。今日は、もう下がっていいわ。」
「はい。」
セシルは帰ってきたばかりのベルナルダに紅茶を一杯注ぎ、お茶と菓子をテーブルに置いて部屋を後にした。
馬車に乗り込み、離宮から数分ほどで寮に着く。離宮には専用の個室があるが、セシルはそこを寝るためには使っていない。寝るのは寮の相部屋だった。
部屋に入るとセシルの机に一通の手紙が置いてあった。
∴∵
レオナールは、クロヴィスに呼び戻され、執務室にいた。
「ベルナルダが?」
「王子はそう言っている。アリーチェ妃や王女は亡くなったと言われたと。」
「何故、ベルナルダはそんなこと。」
「そう言われたことに加えて、侍女たちが王妃陛下が厳罰を望んだ為にアリーチェ妃までもが罪に問われたと噂をしていたのを聞いて、王妃陛下が二人を殺したのだと思い込んだらしい。」
「しかし、フェルナンにはアリーチェが幽閉されたことと、テレーズがゲウェーニッチへ行ったことは説明してあったのに。」
「陛下は王妃陛下だけを守ろうとしているから、本当の事を話さなかったのだと言っていたようだ。」
レオナールは机で考えを巡らせる。
「あまり事を荒立てないように。ヴァレリーの小隊を離宮へ向わせろ。ベルナルダが王宮に着いたら俺が直接話しを聞く。」
「あぁ。わかった。」
∴∵
ベルナルダは、セシル以外の使用人も全て帰らせ、一人きりになった部屋で、静かに手紙をしたためていた。
その顔はとても穏やかだった。封筒にはレオナールの名を書く。最後に封蝋で封じてテーブルに置いた。
セシル、あなたならきっと私の思う通りにしてくれると信じています。あなたの行動次第で、私の計画が上手くいくのかが決まるのです。信じていますよ。
ベルナルダは、綺麗に整えられた庭を見ながら、過ぎ去った日々のことを思い出していた。ティーカップを覗き込むと、金色の環が見える。ベルナルダはそれを見てニッコリと笑った。そして、一気に飲み干した。
景色が少しずつぼやけていく。
∴∵
応答のない部屋に入ったヴァレリーは、窓辺で体を丸めて倒れているベルナルダを発見した。ベルナルダの周りには吐瀉物とみられる物で汚されていて、その姿だけで苦しんだことが分かるような有様だった。
「小隊長。」
ヴァレリーがその有様を見ていると、ブリスが手紙を一通寄越してきた。
「私は、医務官と検査官を呼んでくる。その後、陛下のところへ行く。その間お前たちは、他に毒物らしきものなどないかここをしばらく調べていろ。毒物は皮膚からも吸収されるものだから、疑いのある物は決して直には触らないようにしろ。」
「はい。」
∴∵
レオナールは執務室で、クロヴィスと話していた。そこへヴァレリーが入ってきた。
「どうした?ベルナルダは?」
ヴァレリーは首だけ振って、何も答えなかった。
「テーブルにこの手紙が。」
手紙を渡して、それだけ言うと静かに部屋を出て行った。後を追うようにクロヴィスも部屋を出て行った。
やっとの事で落ち着いたフェルナンは、涙の乾かないまま真っ直ぐにクロヴィスを見た。
「王妃様は、母上と幼い妹を殺しました。そして、次は僕を殺すつもりだと。父上は王妃様だけを大切にしている。だから僕を守ってくれる人は誰もいないと。…僕は一人きりになってしまった。」
イザベラとクロヴィスは互いを見合わせた。
「だから、王妃様がいなくなれば…それで王妃を・・」
「王子。」
イザベラは急いでフェルナンの言葉を遮る。
「王子、お母上と妹君の事はどなたからそう聞いたのですか?王妃陛下が王子を殺そうとしているって話も。」
「ベルナルダ様が…母上とテレーズは死んだと。」
「陛下が殺したと言ったの?」
「母上は無関係だったと…侍女たちは言っていました。きっと王妃様が厳罰を望んだのだと。そのせいで死んだのだと。」
「それも、ベルナルダが王子に言ったのですか?」
イザベラの問いに、フェルナンは首を振った。
「僕の侍女が噂していました。でも、王妃様の侍女は何も悪くないのです。クロヴィス伯父上。あの侍女を咎めないで下さい。僕が、王妃様に嫌われたから…。母上も言っていました。王妃様に親切にしていれば、王妃様も僕に親切にしてくれるのだと。でも、僕の侍女たちが沢山王妃様の悪口を言ったから。王妃様は僕を嫌ってしまった。だから…母上やテレーズも殺されてしまった。」
イザベルは、フェルナンをそっと抱きしめた。
∴∵
馬車で帰ってきたベルナルダにセシルはお茶を用意していた。
「ベルナルダ様、どちらへいらしていたんですか?」
「少し出かけていたの。あなたがいなかったから、言付けを出来なくて悪かったわ。セシル。今日は、もう下がっていいわ。」
「はい。」
セシルは帰ってきたばかりのベルナルダに紅茶を一杯注ぎ、お茶と菓子をテーブルに置いて部屋を後にした。
馬車に乗り込み、離宮から数分ほどで寮に着く。離宮には専用の個室があるが、セシルはそこを寝るためには使っていない。寝るのは寮の相部屋だった。
部屋に入るとセシルの机に一通の手紙が置いてあった。
∴∵
レオナールは、クロヴィスに呼び戻され、執務室にいた。
「ベルナルダが?」
「王子はそう言っている。アリーチェ妃や王女は亡くなったと言われたと。」
「何故、ベルナルダはそんなこと。」
「そう言われたことに加えて、侍女たちが王妃陛下が厳罰を望んだ為にアリーチェ妃までもが罪に問われたと噂をしていたのを聞いて、王妃陛下が二人を殺したのだと思い込んだらしい。」
「しかし、フェルナンにはアリーチェが幽閉されたことと、テレーズがゲウェーニッチへ行ったことは説明してあったのに。」
「陛下は王妃陛下だけを守ろうとしているから、本当の事を話さなかったのだと言っていたようだ。」
レオナールは机で考えを巡らせる。
「あまり事を荒立てないように。ヴァレリーの小隊を離宮へ向わせろ。ベルナルダが王宮に着いたら俺が直接話しを聞く。」
「あぁ。わかった。」
∴∵
ベルナルダは、セシル以外の使用人も全て帰らせ、一人きりになった部屋で、静かに手紙をしたためていた。
その顔はとても穏やかだった。封筒にはレオナールの名を書く。最後に封蝋で封じてテーブルに置いた。
セシル、あなたならきっと私の思う通りにしてくれると信じています。あなたの行動次第で、私の計画が上手くいくのかが決まるのです。信じていますよ。
ベルナルダは、綺麗に整えられた庭を見ながら、過ぎ去った日々のことを思い出していた。ティーカップを覗き込むと、金色の環が見える。ベルナルダはそれを見てニッコリと笑った。そして、一気に飲み干した。
景色が少しずつぼやけていく。
∴∵
応答のない部屋に入ったヴァレリーは、窓辺で体を丸めて倒れているベルナルダを発見した。ベルナルダの周りには吐瀉物とみられる物で汚されていて、その姿だけで苦しんだことが分かるような有様だった。
「小隊長。」
ヴァレリーがその有様を見ていると、ブリスが手紙を一通寄越してきた。
「私は、医務官と検査官を呼んでくる。その後、陛下のところへ行く。その間お前たちは、他に毒物らしきものなどないかここをしばらく調べていろ。毒物は皮膚からも吸収されるものだから、疑いのある物は決して直には触らないようにしろ。」
「はい。」
∴∵
レオナールは執務室で、クロヴィスと話していた。そこへヴァレリーが入ってきた。
「どうした?ベルナルダは?」
ヴァレリーは首だけ振って、何も答えなかった。
「テーブルにこの手紙が。」
手紙を渡して、それだけ言うと静かに部屋を出て行った。後を追うようにクロヴィスも部屋を出て行った。

