五十日の祝宴は華やかに行われた。神殿による王女の健やかな成長を祈願する踊りは、近年で一番の華やかさだと出席者が口を揃えて話していた。
今回の宴にはベルナルダとフェルナンも出席していた。久し振りに見たフェルナンは、成長していてしっかりとしてきたように見えて里桜は安堵した。
さまざまな催し物が披露され、宴が終わると出席者は両陛下への挨拶をして退場する。身分が下の者から上の者、最後に血縁者と言う順番でレオナールと里桜に挨拶をする。それが長すぎたのか、フェルナンは少しふてくされたような表情をしている。それもまた、可愛らしかった。
父のアギョン公爵も母であるアデライトも参列していなかったので、最後はフェルナンを連れたベルナルダだった。
「王妃様がめでたく王女様をご出産されたとのこと、謹んでお祝い申し上げます。母子ともにご壮健と聞きお及びまして、なによりのことと安堵いたしました。皆さまのお喜びもひとしおかと存じます。また、王女様のご健康とご成長、更なるご多幸を心より祈念申し上げます。」
「ベルナルダの心遣いに、感謝致す。」
「ベルナルダの言葉、有り難く思います。」
里桜もレオナールも穏やかに笑っている。
「父上、王妃様、この度は王女のご誕生、誠におめでとうございます。私も妹テレーズに恥じぬよう、文武両道を信条にし、日々暮らしていきたいと存じます。」
「フェルナン、この宴に参列してくれたことを嬉しく思う。フェルナンが日々成長していくことを感じられ、私もこれからが楽しみだ。」
レオナールは優しく話しかけた。続いて里桜が語りかけた。
「久し振りですね。フェルナンは、少し背が伸びましたか?」
「はい。王妃様。以前の儀礼服は小さくなり、ベルナルダ様に新しく仕立てて頂きました。」
「そう。それは随分と大きくなったのね。先ほど陛下からもお話しがあったように、フェルナンの成長を私も嬉しく思います。」
「ありがとうございます。王妃様。」
∴∵
それから数ヶ月が経ち、里桜はベルナルダと庭先でお茶を飲んでいた。一週間ほど前にベルナルダからフェルナンと一緒にお茶を飲まないかと誘いがあって里桜は喜んで離宮へ来たのだが、肝心なフェルナンはその場にいなかった。
「今日は、急にフェルナンの予定が入ってしまい申訳ございません。」
「ベルナルダが気に掛ける必要はありません。王子としての勉強は大切ですから、講義が入ってしまったのなら仕方のないことです。ベルナルダとこうしてゆっくりと話す時間が取れて、私はうれしいです。そう言えば、フェルナンは今どのような勉強をしているの?」
「隣国の事など興味を持っているようです。ゲウェーニッチやエシタリシテソージャなど。」
「そうですか。陛下も沢山の他国の戦記などをお持ちですからフェルナンが興味があること伝えておきますね。フェルナンの勉強になる物を何かお持ちかも知れませんから。」
里桜は用意された紅茶を一口飲んだが、やけに紅茶が渋かった。お茶を淹れたベルナルダの侍女の方をチラリと見たが、彼女はこの茶会に何の興味もない様子だった。
ベルナルダに招かれお茶をするのは初めてではないが、ベルナルダと侍女は上手くいっているのか、里桜は疑問に思っていた。最初こそ自分への牽制かと思ったこともあったが、何度も接しているうちに里桜に対しての態度と言うよりも、ベルナルダの侍女としての仕事を疎かにしている印象を受けていた。
「フェルナンも喜ぶと思います。先日も、三人で夕食を頂いた時に、レオナール様のお話をフェルナンはとても嬉しそうに聞いていました。そう言えば、結婚式の日のパレードもとても素敵でございました。今更申し上げるのもおかしいと思うかも知れませんが、レオナール様はとても晴れ晴れしいお姿で、私の侍女たちも歓声を上げておりました。私はレオナール様の即位のパレードは残念ながら拝見できなかったのですが、拝見した侍女たちはその時にも増してレオナール様が素敵だったと申しておりました。レオナール様は年を重ねる毎に男の色香が増すようでございますね。」
初めて会った日のようにベルナルダは美しい色の瞳を優しげに細めるが、里桜はぎこちない笑顔になってしまった。離宮とは言っても、下働きなども沢山行き来をする庭の一角。王を尊称ではなく個人名で呼ぶ事は小さな抵抗感を覚える。
「離宮とは言っても、人目のあるところですから、陛下のことはお名前ではなく尊称でお呼びした方が良いと思うわ。」
ベルナルダは、またも優しく里桜に向って微笑んで頷いた。
「ところでベルナルダ。最近、体調は良いの?陛下から少し前に体調が優れないと聞いたのだけれど。」
「ご心配おかけしまして、申し訳ございません。レオナール様からのお誘いをお断りしなくてはならず申し訳ないことと思いましたが、今は大丈夫でございます。」
「それは、良かった。頂いた珍しい果物など滋養に良さそうな物を離宮に運ばせたので、フェルナンと一緒に食べて頂戴ね。」
「レオナール様のお心遣いには感謝いたします。」
「えぇ。陛下にはそのように伝えておくわ。」
里桜は笑顔を取り繕った。
「王妃様、そろそろお時間でございます。」
タイミング良く、アナスタシアが声をかけてきた。
「もう、そんな時間なのね。では、ベルナルダ、今日のところはこれで。」
「はい。王妃様。くれぐれもお体にお気を付け下さいませ。」
「ありがとう。ベルナルダもね。」
里桜は、馬車に乗り込むと、一気に深いため息を吐いた。
今回の宴にはベルナルダとフェルナンも出席していた。久し振りに見たフェルナンは、成長していてしっかりとしてきたように見えて里桜は安堵した。
さまざまな催し物が披露され、宴が終わると出席者は両陛下への挨拶をして退場する。身分が下の者から上の者、最後に血縁者と言う順番でレオナールと里桜に挨拶をする。それが長すぎたのか、フェルナンは少しふてくされたような表情をしている。それもまた、可愛らしかった。
父のアギョン公爵も母であるアデライトも参列していなかったので、最後はフェルナンを連れたベルナルダだった。
「王妃様がめでたく王女様をご出産されたとのこと、謹んでお祝い申し上げます。母子ともにご壮健と聞きお及びまして、なによりのことと安堵いたしました。皆さまのお喜びもひとしおかと存じます。また、王女様のご健康とご成長、更なるご多幸を心より祈念申し上げます。」
「ベルナルダの心遣いに、感謝致す。」
「ベルナルダの言葉、有り難く思います。」
里桜もレオナールも穏やかに笑っている。
「父上、王妃様、この度は王女のご誕生、誠におめでとうございます。私も妹テレーズに恥じぬよう、文武両道を信条にし、日々暮らしていきたいと存じます。」
「フェルナン、この宴に参列してくれたことを嬉しく思う。フェルナンが日々成長していくことを感じられ、私もこれからが楽しみだ。」
レオナールは優しく話しかけた。続いて里桜が語りかけた。
「久し振りですね。フェルナンは、少し背が伸びましたか?」
「はい。王妃様。以前の儀礼服は小さくなり、ベルナルダ様に新しく仕立てて頂きました。」
「そう。それは随分と大きくなったのね。先ほど陛下からもお話しがあったように、フェルナンの成長を私も嬉しく思います。」
「ありがとうございます。王妃様。」
∴∵
それから数ヶ月が経ち、里桜はベルナルダと庭先でお茶を飲んでいた。一週間ほど前にベルナルダからフェルナンと一緒にお茶を飲まないかと誘いがあって里桜は喜んで離宮へ来たのだが、肝心なフェルナンはその場にいなかった。
「今日は、急にフェルナンの予定が入ってしまい申訳ございません。」
「ベルナルダが気に掛ける必要はありません。王子としての勉強は大切ですから、講義が入ってしまったのなら仕方のないことです。ベルナルダとこうしてゆっくりと話す時間が取れて、私はうれしいです。そう言えば、フェルナンは今どのような勉強をしているの?」
「隣国の事など興味を持っているようです。ゲウェーニッチやエシタリシテソージャなど。」
「そうですか。陛下も沢山の他国の戦記などをお持ちですからフェルナンが興味があること伝えておきますね。フェルナンの勉強になる物を何かお持ちかも知れませんから。」
里桜は用意された紅茶を一口飲んだが、やけに紅茶が渋かった。お茶を淹れたベルナルダの侍女の方をチラリと見たが、彼女はこの茶会に何の興味もない様子だった。
ベルナルダに招かれお茶をするのは初めてではないが、ベルナルダと侍女は上手くいっているのか、里桜は疑問に思っていた。最初こそ自分への牽制かと思ったこともあったが、何度も接しているうちに里桜に対しての態度と言うよりも、ベルナルダの侍女としての仕事を疎かにしている印象を受けていた。
「フェルナンも喜ぶと思います。先日も、三人で夕食を頂いた時に、レオナール様のお話をフェルナンはとても嬉しそうに聞いていました。そう言えば、結婚式の日のパレードもとても素敵でございました。今更申し上げるのもおかしいと思うかも知れませんが、レオナール様はとても晴れ晴れしいお姿で、私の侍女たちも歓声を上げておりました。私はレオナール様の即位のパレードは残念ながら拝見できなかったのですが、拝見した侍女たちはその時にも増してレオナール様が素敵だったと申しておりました。レオナール様は年を重ねる毎に男の色香が増すようでございますね。」
初めて会った日のようにベルナルダは美しい色の瞳を優しげに細めるが、里桜はぎこちない笑顔になってしまった。離宮とは言っても、下働きなども沢山行き来をする庭の一角。王を尊称ではなく個人名で呼ぶ事は小さな抵抗感を覚える。
「離宮とは言っても、人目のあるところですから、陛下のことはお名前ではなく尊称でお呼びした方が良いと思うわ。」
ベルナルダは、またも優しく里桜に向って微笑んで頷いた。
「ところでベルナルダ。最近、体調は良いの?陛下から少し前に体調が優れないと聞いたのだけれど。」
「ご心配おかけしまして、申し訳ございません。レオナール様からのお誘いをお断りしなくてはならず申し訳ないことと思いましたが、今は大丈夫でございます。」
「それは、良かった。頂いた珍しい果物など滋養に良さそうな物を離宮に運ばせたので、フェルナンと一緒に食べて頂戴ね。」
「レオナール様のお心遣いには感謝いたします。」
「えぇ。陛下にはそのように伝えておくわ。」
里桜は笑顔を取り繕った。
「王妃様、そろそろお時間でございます。」
タイミング良く、アナスタシアが声をかけてきた。
「もう、そんな時間なのね。では、ベルナルダ、今日のところはこれで。」
「はい。王妃様。くれぐれもお体にお気を付け下さいませ。」
「ありがとう。ベルナルダもね。」
里桜は、馬車に乗り込むと、一気に深いため息を吐いた。

