九月、社交シーズンも終り、続々と貴族たちは領地のカントリーハウスに移動していた。

「聞いてないぞ。」

 そんな時、レオナールの執務室にクロヴィスがやって来て、里桜がロベールの領地へ移動するために出発したと報告してきた。

「俺もさっき伯父上から聞いたばかりだからなぁ。俺に怒られても。大叔父上も長期休暇を取って一緒に行っているらしい。十二月の神事が立て込む前には帰って来るらしいが。」

 舞踏会で里桜をエスコートして以来、レオナールは里桜に会えずにいた。王宮へ来てお茶でも飲もうと誘うが、王妃教育があるからと毎度断わられ、とうとう九月に入ってしまった。

「これなら、婚約者になる前の方が顔が見られたじゃないか。」
「でも本当に、王妃教育も結構びっしりやっているみたいだよ。」
「渡ってきた時に本を読み漁ってたから歴史全般の知識はあるし、所作指導は鉄壁の令嬢アナスタシアからみっちりと鍛えられていたし、ダンスレッスンも未だにやっているし、他に何を勉強する必要がある。」
「いや、知らないけど。色々とあるんだろう?」
「しかも、王妃教育なら普通、王宮で講師を呼んでやるものだろう。」
「その点は、伯父上や大叔父上、アナスタシアの伝手で一流を呼んでるから心配ないそうだ。」

 ヴァロア領は王都の東側、急いでも馬車だと四日ほどかかる距離だ。公務の合間に行ける様な距離ではない。しかも、社交シーズンは終わりを迎えるが、国の年中行事としては忙しくなる。これで十二月までは会えないことが確定した。

「多分、だけど。アリーチェ妃のお産が近いだろう?大叔父上はその事を気遣っているんじゃないか?王都にいれば否が応でも出産の報せは彼女に届くから。生まれれば誕生から五十日、百日の祝いがあって、もし王女なら七十五日の祝いもある。」
「それが理由だとすれば、春まであちらにいるつもりだと?」
「その方が、良いんじゃないかってこと。ただでさえ年中行事で忙しくなる中で、彼女のケアまで手が回らないだろう?すっかり娘を溺愛する父親になった大叔父上も気落ちする彼女を見ていられないだろうし、ここは領地へ引っ込ませるのが良いと思ったんだろう。それに、王宮から足が遠くなったのも、彼女に産所の建設を見せないために大叔父上か彼女の侍女辺りが断わるように言っていたのかもしれないぞ。」

 手紙すら簡単に交わせる距離ではなくなる。一言あれば、転移魔法で手紙を渡せる様にしたのに…レオナールはクロヴィスの言葉にため息交じりで頷いた。


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 馬車に揺られること五日。ヴァロア領へ到着した。ロベールも初めて長期休暇を取得して、十一月頃までは里桜と一緒に領地で過ごす予定にしていた。
 ロベールの紋章付きの馬車と、里桜の紋章付きの馬車、それと荷馬車が数台に騎士団の護衛が馬車道を走る姿はなかなか見応えのある行列で、ひっそりと静かだった頃が嘘の様な華やかさだった。