「なに､､､してるんだ？」
　美加子じゃない声が教室に反響した。
この声は､､､
「しょう､､ま、くん？」
　今日もゲームをしに、家に帰ったんじゃ。
美加子の動きが止まった。
「誰？あんた､､､」
　美加子が翔真くんに向かってガンを飛ばす。
「俺は、犬飼翔真だ。俺の友達になにしてるんだ？」
「この子とカラオケ行こうとしたら、金持ってない、って言い出すから、お仕置き、してたの」
「､､､あっそ」
　今まで聴いた中で一番低い声だ。
私はゾクリと背筋が凍った。
「痛ッ！､､､なにすんのよ！」
　いつのまにか翔真くんは美加子の目の前にいて、美加子の手を捻り上げていた。
「､､､僕(､)の友達をいじめた、お仕置き、だよ」
「翔真､､くん？」
　翔真くんが、そんなことすると思っていなかった。
ていうか、そんなことできるなんて､､知らなかった。
「､､､な、なに、あんた？」
「僕の友達､､､､､､」
　翔真くんが顔を近づけて、美加子になにか囁いた。
「ヒィッ！？､､ご、ごめんなさい。も、もう、しません！」
　いきなり土下座して額を床につけた。
「今後いっさい、七叶に近づかないでね？わかった？」
「は、はい。ご、ごめんなさい！」
　ともう一度謝ると、廊下に勢いよく走って出ていった。
唖然として、美加子が出ていった廊下を眺めた。
「へぇ､､､彼女は自分の立場が悪くなると謝って逃げるタイプの人間か､､､」
「翔真、くん？」
　この場には冷静すぎるような淡々とした翔真くんの声が響いた。
私はそんな翔真くんに怯えを抱き震える声で彼の名を呼んだ。
「あ、ごめん七叶、大丈夫か？」
　翔真くんが優しく問いかける。
さっきまでとは全く違う雰囲気だ。
いつもの、翔真くん、だ。
「､､､う、うん」
　少し私は身を引いて頷いた。
足は固まったまま、動かすことができない。
床にへたり込んだまま、翔真くんを見つめる。
「せっかくゲームしに帰ったら、学校にゲーム機持っていってたの忘れてたんだ。それで取りに帰ってきたら、お前が蹴られてて、マジビビったわー」
　何事もなかったように翔真くんは話し出した。
「あ、ありがとう」
「とにかく、七叶が無事でよかった」
　安心したようにため息を吐いた。
「ねぇ､､どうして、助けてくれたの？」
　何故、こう訊いたのか、わからない。
けれどふと、訊いてしまった。
「なんでって､､友達だから、だろ？」
　その時私に見せた笑顔が、何故か怖かった。
美加子と対峙した時に見せた表情に、似ていた。
「あ、あなたは､､､誰？」
　私は怯えながら、そう訊いた。
やっぱり、いつもと、翔真くんの雰囲気が違う。
まるで、獲物を狙うような､､そんな、雰囲気。
「俺は、犬飼翔真だ」
「で、でも､､､いつもと雰囲気が､､､」
　私が訴えようとすると、
「それは、こっちのセリフだぜ」
　いつもの翔真くんに戻った。
ような気がした。
「え､､､？」
　引き攣った表情になるのが自分でもわかる。

「お前､､､誰？」