「須賀ちゃーん！」
　誰もいないはずの教室で美加子の声がした。
慌てて振り向く。
「今日はカラオケ行こ〜！そこでポテトとか食べよ〜」
　いつも母親が夕食を作って待っているのだが、今日はカラオケ飯か、と覚悟を決めた。
「はい、いいですね」
　笑顔で肯定する。
「カラオケはやっぱポテトっしょ！てか何円持ってる〜？」
「えーっと、今日は二千円くらいです」
「え〜？少なくな〜い？」
　不満そうに頬を膨らませた。
「､､､すみません。明日はもっと持って来ます」
　素直に頭を下げてそう続けた。
「あぁ？､､､なにその態度？」
「え､､､？」
　いきなり美加子のキレた声が教室に響き、私は肩を上下させた。
ま、待って､､いつも、笑顔で許してくれるじゃん！
それに、二千円くらいで足りるんじゃない？
も、もしかして、徹夜のつもり？
「今日、カラオケ行くんだから、今すぐ金、取ってこいよ。いつも笑顔で謝れば済むことじゃねぇんだぞ！」
　怒鳴り声が教室を震わせた。
「す、すみません。今日、本当にお金なくて」
「だ〜か〜ら〜､､､そのヘラヘラな笑顔で、いかにもあたしの味方です〜的な態度、ウザい」
　いきなり私の胸ぐらを掴んできた。
最初の時と一緒だ。
「最初にも言ったでしょ？､､､あんたなんか、あたし、簡単に潰せるんだから。今まで黙ってたけど、あんたのそういう態度、あたし大っ嫌いだから。でも、お金潔く出す態度は気に入ってた。なのに､､､今日は、お金がないって？今までずっと出してきたでしょ？今日はない？ナニサマのつもり？」
　喉に手が食い込んで、息が、うまく吸えない。
かろうじて少ない空気で頭を働かせる。
本当に、今日は、お金がない。嘘を吐くのも良くない。だからと言ってお金は出せない。
どうしたら？
「っ！？」
　美加子はいきなり、胸ぐらを掴んでいた手を離した。
私は床に放り出される。
激しく咳き込んでしまう。
「ないなら､､､盗んできてよ」
　私の咳の音の隙間から美加子の声が聞こえた。
「え？」
　耳を疑う内容だった。
「お金、今日ないんでしょ？だから、あんたの母親の財布から、金、盗んできてよ」
「､､､､､､」
　盗む？お金を？
そんなこと､､､絶対に無理だ。
「出来ねぇのか？」
　黙り込んだ私を上から覗き込んだ。
そして、足で私の体を蹴る。
「ッ！！」
　何度も、何度も、蹴り上げた。
痛い、痛い、痛い。
こうならないために、私は､､､演じてきたんじゃ､､､なかったの？
体の痛み、心の痛み、それらから、耐えるために、守るために、私は色々な人を演じてきた。
そうじゃ､､､ないの？
違うの､､､？