「七叶(なのか)って､､､馬鹿だよな？」
　私の前の席の男子、翔真(しょうま)が真っ直ぐな眼差しでそう言った。
「は？」
　言っている意味がよくわからない。
成績は平均。体力テストも平均。
自分ではそう思ってるんだけどな。
「あー､､､お前、今成績の話とかだと思ってるだろ？全く違ぇよ」
　呆れたような声が返ってきた。
それ以外でなにがあるんだろう､､､。
「うわ、その顔はそれ以外でなにがあるんだ、あんたの方が馬鹿なんじゃない？って顔だな！」
「､､､､､､」
　相変わらず、よくわかっていらっしゃる。
さすが翔真くんだ。

犬飼(いぬかい)翔真。
私と翔真くんの関係は、いわゆる幼馴染。
そして、中学3年生にして同じクラス、同じ班の前後の席。
周りから見た第一印象は､､､一言で言うと変わった奴。
髪は寝癖がついたままのノーセット、服装も無頓着。しわくちゃなシャツを着込んでいる。
中学3年生にして、自分に関する常識が皆無だ。
何故なのか、そう問われると。
『ただ、生きていればいいから』
という返事が返ってくる。
ただ、自分の好きなように生きていればいい。
というモットーを元に生きている奴なのだ。
だから自分の大好きなゲームばっかりしている。

「まじお前には悩みなんて無さそー」
　明るく私にそう言う翔真くん。
「､､､その言葉、翔真くんにそっくりそのまま返す」
「俺悩みなんかいっぱいあるけど」
「え？例えば？」
「んー､､､。どうやったらゲーム攻略できるかなーみたいなー？」
「､､､､､､」
　呆れで声が出ない。
私は黙ってニコニコな翔真くんを見つめた。
「あ、そだ、私が馬鹿って、どう言うことなの？」
「鈍感だから」
　ストレートに言われる。
「は？」
　鈍感イコール馬鹿ってこと？
常識なしイコール馬鹿に言われたくない。
私は思わず頬を膨らませた。
「､､､お前、クラスから注目されたくないくせに、俺と喋ってるよな」
　一段と声を顰めて訊く。
「それは､､､友達だから、でしょ」
私も声を顰めた。
「こんな授業中でも？」
　そう、私は1番後ろの席で、翔真くんはその私の前。
いつも私たちは授業中も構わず喋っている。
主に授業の話が多いのだが､､､。
「うん」
　友達、なんだから。
そして、友達と呼べる、心を許して話すことができる人は、私には翔真くんしかいないから。
「ありがと。七叶。けど、俺の生き方に合わせなくていいんだからな」
　私の耳にこっそりと耳打ちしてきた。
「わ、わかってるよ」
　内心ぎくりとしながら肯定した。
正直、翔真くんと同じ生き方がしたい。
だって､､､。
「なら、いいけど」
　私の思考を翔真くんの声が止めた。
そして私にニコッと今日1番の笑顔を見せた。