「そ、それで、その人はどうなったんですか?」
 俺の前に座る後輩が前のめりになりながら訊いた。
俺の所属している文芸部の後輩に、なにか小説のネタになる話を教えてくれ、と頼まれ話し始めたのが数十分前。
もうクライマックスに入った。
「そのあと自傷行為を繰り返して、ホントの自分を探し続けた。たぶん、、、今も何処かで『ホントの私』を探し続けているだろうな」
「今も、、、ですか」
「今も、だな。でも、もしかしたら幽霊になって彷徨ってるかもしれないな。鏡の前に立ったら、鏡の中に彼女がいるかもだぞ。『ホントの私、教えて?』って」
「ちょ、ちょっと、怖がらせないでください!」
 後輩が体を震わせながら口を挟んだ。
そして、恐る恐る、と言う風に
「あ、あの、、それを、、仕組んだのは、先輩なんですか?」
 こう訊いてきた。
「、、、は?」
「え?違うんですか?」
 呆気に取られたように俺を見つめる後輩。
「おいおい、最初に言っただろ?これは知人から聞いた話だって」
「で、でも、犬飼翔真って、先輩の名前(、、、、、)じゃないですか?」
「あぁ、それは、その方がフィクションとして面白いだろ?」
「そ、そうですけど、、、って、これ、フィクションなんですか?」
 驚いたようにそう訊いてくる。
「さぁ?」
 俺ははぐらかした。
「もう!先輩ったら!話はこれで終わりですか?ちゃんと最後まで話してくださいよね!」
 怒ったように頬を膨らませた。
まるで、あの時の彼女のようだ。
俺の嘘に、気づかない。
俺の言動に疑いを抱かない。
本当に、彼女とそっくりだ。

「次のターゲット、、、見つけた。次は、どんなゲームにしようかな」
俺は誰にも気づかれないようにそう呟いた。
そして、俺は心の中で、あの頃を思い出した。