お前､､､誰？
口角を上げたまま、翔真くんが私に向かってそう言った。
その一言で、私の中のなにかが、壊れる感覚がした。
私は､､､誰？
「ど、どういう意味？､､､翔真くん？」
　私はそのなにかが壊れないように懸命に耐えながら訊いた。
「そのままの意味だよ。今のお前､､､誰？いつものお前じゃねぇじゃん」
「ど、何処が？」
「いつも、お前、俺の真似して生きてるだろ？でも、今のお前はいじめられてる女の子。ホントのお前は､､､どっちなんだ？それとも､､､どっちでもないのか？」
　首を傾げながら、そう聞いた。
「ホントの､､､私？」
　弱々しく繰り返す。
ホントの､､､私？
「そうだ。ホントのお前は､､､誰なんだ？」
「ホントの､､､私､､､」
　呪文のように私はその言葉を繰り返した。
「人には、誰だって、ウラの顔と、オモテの顔があるんだ。例えを出すとすれば､､､今のお前の、いじめられてる方がウラの顔だとしたら、俺に見せてる顔がオモテの顔、って具合に」
「ウラの顔。オモテの顔」
「そう」
　しっかりと話を聞く私に満足そうに翔真くんが頷いた。
「じゃ、じゃあ､､､翔真くんは？」
「え？俺？」
　私の問いに虚をつかれたように間抜けな声を出した。
だが、次の瞬間、面白いものを見たとでも言いたげにニヤリと歯を見せた。
「そんな質問を受けるとは思ってなかったな､､､」
　私の質問を噛み締めるように何度も頷いた。
そして、
「今の俺は､､､オモテ、かな。でも､､､オモテでもウラでもない、ホントの顔も、もちろんある」
　と楽しそうに答えた。
「じゃあ、私は？私にも、オモテの顔と、ウラの顔があって、ホントの顔もあるの？」
　食い気味に私は訊いた。
「さぁ？そういうのは、自分で考えなきゃいけねぇんじゃねぇの？」
　また、面白そうに首を傾げた。
「自分で？」
「あぁ。自分で、見つけるんだ。ウラでも、オモテでもない、ホントの顔を見つけられたら、俺みたいに、生きれるんじゃないか？真似、じゃなくて、本当に」
「ほ、本当に？」
　そうだ､､､私は翔真くんの前では、翔真くんの真似をして、生きてきた。
翔真くんのように、自由に、自分の好きなように生きたい、そう願ったから。
演技じゃなくて、本当に、翔真くんみたいになるためには、ホントの私を見つければいいんだ。
ホントの私を見つけることができたら、私は､､､。
「そのためには、ホントの私を見つけるためには､､､どうすればいいの？」
「それは､､､さっき、見たんじゃない？」
「え？」
「さっき、僕が北條美加子にしたことだよ」
「あ､､､」
　私の反応に、満足そうに頷いた。
だが、私は気づいていなかった。
また、翔真くんの雰囲気が変わっていたことを。
それと同時に、私の雰囲気も､､､変わってしまっていたことを。
「須賀七叶､､､君の負け。そして僕の勝ちだ。これにて､､､ゲームクリア！」
　犬飼翔真は不敵に微笑みながら静かに呟いた。