優子ちゃん家で”ふしぎなお遊戯”の原作を一気読みしていたら、あっという間に時間が経ってしまった。
部屋の壁にかけてる時計の針は、夕方の5時を指している。
ヤバい、早めに帰らないとお母さんに怒られる……。
ゆっくりと畳から立ち上がり、本棚にマンガを直して、優子ちゃんに別れを告げようした瞬間。
「藍ちゃん! お腹空いてない?」
「え? まあ、空いてないこともないけど、なんで?」
「今晩はね、カレーなんだ! 藍ちゃん、カレーが好きだったよね? 私がお姉ちゃんとたくさん作っておいたから」
「本当? いいなぁ……あ、でももう帰らないと、お母さんに怒られちゃう」
「大丈夫だよ! おばさんには私から電話で『今晩は泊まります』って伝えておいたから!」
えらく準備がいいな……。
「でもさ、優子ちゃん家にお泊りするなら、着替えとか持って来てないよ?」
「それも大丈夫! 用意しているから!」
「え?」
「藍ちゃんがいつお泊りしてもいいように、パジャマと下着は常に私のタンスに用意していあるもん」
「ちょ、ちょっと待って。さすがにサイズが合わないでしょ? 私と優子ちゃんじゃ……」
「ううん! 私、藍ちゃんのサイズなら常に計ってるから、間違えないよ!」
俺のサイズを常に計っているだと?
一体、彼女はいつどこで藍ちゃんのサイズを計っているんだ。
恐る恐る聞いてみると「学校で昼寝している時とか、たまに私服のラベルを抜いてチェックしてる」らしい。
優子ちゃんの独占欲は、計り知れないな……。
※
晩ご飯を食べるため、俺たちは一階に降りてリビングに来ている。
なんだかんだ言いながら、俺は優子ちゃん特製のカレーライスを食べてみると、美味すぎて何回もおかわりしてしまった。
6皿食べたところで、炊飯器の中の白米が尽きてしまい、諦めることに。
「美味しかったのに……もう食べられないのか」
「藍ちゃん、ルーならまだ残っているから、ご飯さえ炊けばまたおかわりできるよ?」
「本当!? ならまた食べたいな~ あんなに具だくさんでまろやかなカレーライスは初めてだよ~」
「なら嬉しい。明日の朝にでも、食べたらいいよ」
俺が食べ過ぎたので、優子ちゃんは一皿しか食べられなかった。それも控えめに入れてだ。
しかし、当の本人は嬉しそうに食べ終えた茶碗をシンクの中で洗い始める。
まるで新婚夫婦みたいだな。
それもそのはず、今晩は優子ちゃんのお父さんとお母さんは旅行に出かけており、お姉ちゃんは深夜までバイト。
待てよ……つまり、俺と二人きりで一晩を過ごすのか?
一度は優子ちゃんと二人きりになることを恐怖したが、そんな心配はいらなかったようだ。
食べ終えた俺に対して「先にお風呂へ入ってて」と笑う優子ちゃん。
「え、いいの? 私だけ先に入って……」
「もちろん、藍ちゃんはお客さんだし、私は洗い物が残っているから」
そう言ってキッチンで茶碗を洗っている。
なら、お言葉に甘えて先にお風呂へ入らせてもらうか。
リビングから廊下へ出て洗面所へ向かうと、洗濯機の隣りにランドリーバスケットが置いてあった。
中には、バスタオルとピンク色のもこもこパジャマが入っていた。
ついでにダサいファーストブラとパンツの上下セットも入ってる……間違いなく、俺のつけているサイズだ。
優子ちゃんの徹底ぶりに少し恐怖を感じながら、服を脱いで裸になると浴室へ向かう。
「うわっ、すごい! ヒノキ風呂じゃん!」
どうやら、この家は和式にこだわっているようだ。
まるで温泉旅館のような広さで。2、3人は余裕で入れそう。
それにヒノキの香りが落ち着くなぁ。
すぐにでも、お風呂の中に飛び込みたい気分だが、ここはマナーを守って先に身体を洗おう。
木製の椅子に腰を下ろし、シャワーヘッドからお湯を流してみる。
自宅でも俺は頭から洗うので、長い髪を濡らして前に下ろし、シャンプーを手の平に数プッシュ落とす。
手の平でよく泡立ててから、髪につけて頭皮をマッサージしていたら自然と泡が瞼に垂れてくる。
そのため、目は閉じている。
しばらく頭皮マッサージを続けていると、脱衣所の方から何か音が聞こえてきた。
『藍ちゃん? お湯、ぬるくなってない?』
あ、優子ちゃんか。ビックリした……。
「うん! 大丈夫だよ! あ、本当にパジャマと下着まで用意してくれてごめんね!」
『別に構わないよ。藍ちゃんのものなら、いくらでも揃えるから……』
「え? どういうこと?」
しかし、優子ちゃんが俺の問いに答えることはなく……。
いきなり冷たい手の平で、俺の大きな二つの胸を持ち上げられた。
俺の両手はずっと頭の上に置いているから、無防備だ。防ぎようがない。
「ギャーーーッ!」
俺の叫び声を無視して優子ちゃんは悪びれる様子も見せず、冷静に胸を揉み続ける。
「藍ちゃん、やっぱり胸のサイズ。また大きくなっているよ? これじゃ私が用意したブラだと小さいな」
触るだけで胸のサイズを計れるのか……。



