今日の給食は、大好きなカレーライスだ。
いつもならあるだけおかわりしているところだが……今日の俺にはそんな余裕がない。
それは俺の格好に理由がある。
周りは長袖の学ランとセーラー服姿だってのに、俺だけ半袖の体操服と紺色のブルマで食事している。
寒さから手が震えて、スプーンをうまく使えない。
隣りに座っていた鬼塚が心配して、声をかける。
「おい、水巻……お前、大丈夫か?」
「ん? だ、大丈夫だよ……今日は私の大好きなカレーライスだし……」
「そんなこと言って、全然食べられてないだろ。そうだ、これで少しは暖かくなるんじゃないか?」
何を思ったのか、鬼塚は机から立ち上がると、学ランのボタンを上から外し始める。
そして学ランを脱ぐと、自身は白いカッターシャツ姿になった。
俺が「なにしてんの?」と聞いてみたが彼は何も言わず、脱いだ学ランを俺の肩にかける。
「ほら、袖を通せよ……少しは寒くないだろ」
「あ、うん。ありがとう」
鬼塚のさり気ない紳士的パフォーマンスにクラス中は、騒ぎ始めた。
辺りにいた男子生徒が鬼塚へ「お前、水巻のことが好きなのかよ?」とからかっていたが、彼は黙り込んで相手にしなかった。
まあ確かにこんな寒い状態では、カレーライスを美味しく食べられないからな。
鬼塚のぬくもりってのがムカつくけど、ここは彼の善意に甘えるとしよう。
「まだ使っていていい」というので、午後も俺は体操服姿に鬼塚の学ランで過ごしていた。
下がブルマだけだから、なんか彼氏の家へ遊びに来た彼女みたいなファッションだな……。
今日の廊下掃除は俺と鬼塚のペアだったから、二人だけの空間になってしまう。
特に話すこともないし……なんか空気が重たく感じる。
「あ、そうだ。昨日借りたバスケットシューズ、後で返すよ」
「おお、そっか……でも、お前のセーラー服も見つかるといいな」
「うん。ないと目立つから、ちょっと困るよね……」
「一体誰がそんなことをしたんだ! 俺が犯人を見つけてやるよ!」
「そ、そんな犯人探しなんてしないでいいよ……」
「前にも言ったろ! 泣いているお前の姿は見たくないって!」
「……」
あの、今日は一度も泣いてないけど。
※
掃除が終わって帰りのホームルームが始まる前に、鬼塚へバスケットシューズを返すことにした。
俺が磨き上げたシューズを笑顔で受け取る鬼塚。
「磨いてくれたんだ、ありがとな水巻」
「いや、こっちこそ……そのずっと制服を借りてごめんね」
そう言って、彼が着ていた学ランの袖に触れてみる。
「別にいいって。俺はこう見えて鍛えてるからさ……そうだ、お前のセーラー服が見つからなかったら、そのまま着て帰れよ」
「え? それはさすがに悪いよ……」
と断ろうとした瞬間だった。
誰かが俺の肩に体当たりしてきて、思わずよろめいてしまう。
「うわっ!」
「大丈夫か、水巻」
すかさず鬼塚が俺の身体を支えてくれたので、助かった。
しかし、俺にぶつかってきた相手は謝りもせず、舌打ちをして教室を出て行く。
「ちっ!」
あれは……鞍手 あゆみか?
もしかして、わざと体当たりしてきたのか。
そうか! 俺と鬼塚が仲良くしていると誤解して、嫉妬したんだ。
俺って転生しても、損な役回りばっかなんだよ。



