二日連続でスニーカーをびしょ濡れにして、家に帰って来たからお母さんに怒られてしまった。

「一体、何をしたらこんなに汚れるの!?」と。

 そう言われてもな……誰かが俺のスニーカーにイタズラしたから、洗っただけなのに。
 しかし、この美少女で地元の英雄の藍ちゃんに、こんな陰湿な嫌がらせをしたヤツは誰だ?
 別に恨みを買われた覚えはないけど。

 ~次の日~

 鬼塚に借りたバスケットシューズだが、一応きれいに磨いておいた。
 ムカつくけど、あいつが大事にしているバスケ専用の道具だもんな。

 自宅の扉を開くと、優子ちゃんが待っていた。

「藍ちゃん! 私、もう藍ちゃんに嫌がらせをする奴が許せないの! 今日こそ犯人を捕まえてやる!」

 何やら鼻息を荒くして、拳を作っている。
 まあ優子ちゃんは人一倍独占欲が強いから、正義感も強いよな。

「ま、まあ……見つけても、無理やり捕まえなくていいよ」
「なにをのんきなことを言っているの? 私が見つけたら、すぐ担任の先生に突き出してやる!」
「ははは、無茶しないでね」
 
 俺はこの時、たかが子供の嫌がらせだと甘く見ていた。
 それがあんな大事になるとは、思いもしなかった。

  ※

 学校に着くと早速スニーカーを下駄箱に入れて、上靴を取り出す。
 この時、いつもの嫌がらせは学校帰りが多かったので油断していた。
 上靴にかかとを入れた瞬間、何かがチクッと刺さった。

「あ、いたっ!」

 上靴の中にゴミでも入っているのかと思い、上靴から足を抜いてみる。
 よくみると白いソックスには、金色の画びょうが3個ほど刺さっていた。
 隣りで見ていた優子ちゃんが叫び声をあげる。

「藍ちゃんっ!? それ画びょうじゃん! もう嫌がらせとかのレベルじゃないよ! 犯罪だよ、担任の先生に報告しよう……」

 しかし、俺は冷静にかかとから画びょうを抜いて、近くにあったゴミ箱へ捨てる。
 確かに血は少し出ているから、白いソックスが赤く染まってしまったが……。
 前世の鬼塚に凄惨ないじめを繰り返し味わった俺からすれば、可愛いもんだ。

「これぐらいじゃ、別に先生へ報告する必要ないよ。優子ちゃん」
「なに、のんきなことをいってんの!? 女の子の身体を傷つけられたんだよ?」
「まあ……そうだけどさ。私はこれぐらいじゃ、傷つかないし」

 面と向かって、いじめてこない辺り許容範囲かな。
 いじめられまくったこの俺を舐めないで欲しいぜ。

 ~数時間後~

 3時間目と4時間目は、男女合同で体育の授業だった。
 そのため、俺はセーラー服の下に体操服とブルマを着用している。
 俺が通っている真島中学校では、更衣室が無いため、夏でも制服の下に着ることを義務付けされていた。
 まあ今は12月なので、これが暖かい。

 授業は何個かのグループに分かれて、バレーボールを運動場で行うことになった。
 運動音痴だった俺は格好の的となってしまい、2時間ボコボコにされてしまう。
 相手チームにゴリラみたいなスポーツ女子がいたからな……。

 チャイムが鳴ってようやく試合終了。
 優子ちゃんと一緒に運動場を歩く。

「はぁはぁ……大丈夫? 藍ちゃん?」
「いや……靴の嫌がらせより、ちゃんとしたいじめだと思う」
「え? なんのこと?」
「ごめん。なんでもない……」

 愚痴を漏らしながら教室に戻ると、自身の机の前で立ち止まる。
 机の上に畳んでおいたセーラー服が……無い!?

「え……えぇ!? 私のセーラー服がないんだけど!?」

 俺がその場で叫び声をあげると、隣りで着替えていた鬼塚が声をかけてきた。

「どうしたんだ? 水巻」
「え、あの……私のセーラー服が無いんだよね」
「ちゃんと探したのか?」
「ううん……まだ」
「なら、俺も一緒に探してやるよ」

 鬼塚はそう言ってくれたが、その後セーラー服が見つかることは無かった。