昨日、洗って干しておいたスニーカーだが、ちゃんと乾いてくれたようだ。
これで今日も履いていけるぞ。
しかし、こんな陰湿ないたずらをしている暇人は一体どこの誰だろう?
今日も朝ごはんを何杯もおかわりして、元気に中学校へ向かおうと準備していると。
お父さんが顔色を真っ青にして仕事に出かけていた。
最近、元気がないけどなんでだろ? リストラとか?
※
いつものように優子ちゃんと仲良く学校へ向かう。
今日は珍しく、俺の方から話しかけてみた。
「でね! その深夜番組、超おもしろいんだよ! あの全国的にも、有名な高塩アナウンサーが色んな事に挑戦して……」
「誰、それ? ただのローカルテレビの新人アナでしょ?」
「いやいや、本当にすごい人なんだから! それこそ、あの博多駅にでっかい穴が空いた時なんか、たったの一週間で元に戻したんだから!」
「一体、何を言っているの? 藍ちゃん、あんまり私をバカにしないでくれる? 博多駅に穴なんか空いてないよ」
「……」
つい前世での出来事、つまりこの世界で未来に起きる出来事を話してしまった。
これは話したらダメなことだ。我慢しないと……。
「ご、ごめんね。優子ちゃん……」
「最近の藍ちゃん、変な妄想に振り回されていると思う!」
優子ちゃんを怒らせてしまった。
学校について、いつものように下駄箱で上履きに履き替えていると。
どこからか、視線を感じる。
周りにいた女子生徒たちがみんなこちらの方を見て、ひそひそ話をしていた。
「ほら、あの子だよ……」
「うわぁ……本当だ。胸も大きいし間違ってないかも」
「真面目そうな顔しているのに、最低」
一体なんなんだ? 胸が大きな女子中学生は藍ちゃんぐらいだろう。
噂の内容が俺だと知った優子ちゃんが辺りの女子生徒たちを睨みつける。
「いきなり朝からなんなの? 絶対に藍ちゃんのことを言ってるよね!?」
「う、うん……私がまた何か悪さでもしたのかなぁ~」
「最近の藍ちゃんはかなりアホなことをするけど、いい子だよ! 悪さなんてしない! 私が知ってるもん!」
優子ちゃんも、俺のことをアホな子だと認めていたのか……。
しかし自分たちの教室に入っても、クラスメイトの反応がどうも妙だ。
確かに俺と優子ちゃんは腐女子ぽいキャラで少し浮いている女の子だけど。
ここまで、あからさまな態度を取られたのは初めてだ。
みんな、俺たちからだいぶ離れた所でヒソヒソと耳打ちしている。
「やっぱり、あの話。本当なのかな? 水巻さん、真面目だと思ってたのに……」
「でも、私。友達が見たって言ってたもん。彼女がホテル前で中年のおじさんと仲良さそうに笑ってたって」
声が大きいから、話がこっちまで聞こえてくる。
それにしても、俺がホテル前でおっさんと密会だと? とんだビッチじゃないか……。
誰だ? 根も葉もない噂を流したのは……。
※
担任のねーちゃん先生が教室に入ってきた。
しかし、落ち着きのない生徒たちを見て一喝する。
「ちょっと! うるさいよ~! 朝のホームルームが始まるからねぇ~」
それでも周りの生徒たちは、”水巻さんビッチ疑惑”で盛り上がっていた。
もちろんそれを聞いて怒っているのは、俺の後ろに座る優子ちゃん。
「藍ちゃんがそんなことするわけないじゃん! いつもずっと私の隣りにいるのにね?」
「う、うん……」
ここで隣りに座る鬼塚も変な噂に怒るかと思ったが、彼はきょとんとした顔で俺に質問する。
「なぁ、水巻。ビッチってなんだ? ピッチじゃないもんな……」
「え……?」
こいつはなんでここまで性に対する知識が乏しいんだ?



