約束の土曜日の夕方。
5時ごろに俺の自宅の前で、鬼塚と待ち合わせの約束をしていた。
ディナーデートだから、自室にある服をいろいろとベッドの上に並べてみたが……。
どうやって着こなせばいいのか、わからん。
ひとりその場で唸っていると、お姉ちゃんがノックもせずに俺の部屋に入って来た。
「藍~ 私のポケベル、知らない?」
「知らないし、勝手に部屋へ入らないでよ……」
「お、反抗期か……って、こんなに服を並べてどうしたん?」
「いや、鬼塚のおばさんからお礼って……レストランへ鬼塚と食べに行くことになったんだ。あ、もちろんお母さんの許可は取ったよ」
「ふ~ん。ならさ、今日のコーデはお姉ちゃんに任せてみない?」
「え? お姉ちゃんが?」
「藍の初ディナーデートなんでしょ? 大成功できるファッションにしてあげる!」
~30分後~
「うしっ! こんなもんでいいでしょ!」
そう言われて、お姉ちゃんに着せられたファッションだが……。
「お姉ちゃん……これって攻めすぎじゃない?」
「全然っ! ディナーデートなら、相手をいつでも落とせるファッションじゃないとね」
落とすと言うか、自ら落としに行っている格好じゃないのか。
お姉ちゃんがコーディネートしてくれたファッションだが、上から黒のタートルネックセーター、下はチェック柄のミニスカート。
そして「貸してあげる」と言って、俺に差し出したのは厚底ブーツだ。
これは昔流行った”アムラー”というやつなのでは?
さすがにこれだけで外へ出るのは寒いので、コートを羽織ることにした。
ミニスカートは初めて履くので、クッソ寒い。それに歩きづらいな。
玄関の前で寒さに耐えながら鬼塚を待っていると、家の前を歩く通行人の視線が気になる。
「スケベなファッション」
「あういう子をなんだっけ? ”援助交際”できるんだろ? いくらぐらいかな……」
「嫌らしい女ね……きっと、ろくな親じゃないわよ」
みんな無茶苦茶に言いやがるな。
約束の5時になると、辺りは一気に暗くなってしまった。
俺の自宅周辺の道路は外灯が少ないので、とても暗い。だから冬場はひとりで歩くのが怖い……と思っていたら、目の前に鬼塚が現れた。
「よう、悪い! 翔平のやつがぐずって遅れちゃったよ」
そう言って俺の前に立つ褐色の少年は、とても中学生らしい格好をしていた。
上着は中学校で使用する紫色のジャージ。下はなぜかデニムのショートパンツを履いている。
寒くないのか?
というか、バリバリに攻めた俺がアホみたい……クソビッチじゃん。お姉ちゃんのバカ。
「翔平くんがぐずったの? ひょっとして、一緒に来たかったとか?」
「まあ、そんなところ。でも今日は母ちゃんが水巻へお礼をしたいから『お兄ちゃんと二人きりにしなさいって』と止められてさ」
気のせいか、以前”いじめ問題”で丸刈りにされた頭は少しずつ髪が伸びてきたようだ。
まだツンツン頭には戻っていないけど、ちょっと可愛げがある。
さすがに今夜は自転車で向かうことはないようだ。
まだ折れた右腕が治ってないからな。
二人して肩を並べ、JRの線路沿いにまっすぐ歩き始める。
鬼塚が言うには。ここから30分ほど歩いた先にパスタ屋さんがあるらしい。
緩い坂道に入ると、私立”両刀工業大学”のキャンパスが見えて来た。
どうしてもここを通らないと遠回りになってしまう……と鬼塚が教えてくれた。
俺が歩く度に「ボカッボカッ!」と厚底ブーツの音が周囲に響いてしまう。
すれ違う大学生たちからは「エロッ」と言われる始末。
その度に鬼塚が相手を睨んでいた。
「なんかさ……今日の水巻。ずいぶんと大人っぽいんだな」
「う、うん。お姉ちゃんがコーディネートしてくれたんだけど……」
「そっか。どうりで……でも、俺はいつもの水巻の格好も嫌いじゃないぜ?」
「へ?」
いつもの俺の格好って、セーラー服のことか?
ひょっとして、鬼塚って制服フェチなのかな……。



