「藍ちゃん? 一体どうしたの? 私を忘れるなんて……しばらく学校を休んでたけど、まだ体調悪いの?」
「あ、いや……その」

 まさか女子中学生の中身が、中年のおっさんと入れ替わった。なんて言えないもんな。
 どうしよう?
 その場で固まっていると、後ろからお母さんが声をかけてくる。

「藍っ! あんた、まだパジャマ姿なの? ちゃんと制服を着てきなさい! 優子ちゃんを待たしているんだから」
「あ……」

 そう言えば、そうだった。
 可愛らしいキャラクターのパジャマを着たままだ。
 中学生なら、制服を着て行かなきゃ……。

 急いで階段を駆け上がる。
 自室の扉を開くと、クローゼットを開けて制服を探す。
 んと、女物だからな。どれから着たら良いんだ?

 と考えてはいるが、俺は今大きな問題を抱えている。
 それは学校という場所に、かなりの抵抗があるからだ。恐怖、トラウマしか残っていない場所。
 いくら転生したからと言って、いきなりたくさんの生徒と勉強なんて出来るのだろうか?

 でも、せっかくのやり直しが出来る人生なんだ。
 やるだけ、やってみよう。

 真っ白なワイシャツ……いや、ここは福岡だから”カッターシャツ”と表現すべきか。
 袖に腕を通し、紺色のジャンバースカートを頭から被る。
 最後は白いリボンがついたセーラー服を着て、完成!
 じゃなかった……靴下も履かないとな。

 ドレッサーの前でくるりと回ってみる。

「おお……これが現役JCてやつか」

 前世でこんな子が、目の前を歩いていたら”おかず”にしちゃいそうだけど。
 なんでかな? 転生したせいか、何も思わない。
 だって自分自身だし……可愛い女の子とは思えるけど、それ以上の感情がわかない。
 あれ? これって性自認まで女体化したってこと?

 そんなことを考えていたら、一階からお母さんの声が聞こえてきた。

『あ~い! 早く降りて来なさい!』

「ヤベッ」

 机の上に置いてあった黒いカバンを手に取ると、急いで一階へと駆け下りる。

「ご、ごめん……優子ちゃん」

 久しぶりに若い女の子と話して、めっちゃ緊張する。

「いいよ。私も藍ちゃんと一緒に学校へ行かないと、友達いなくてつまらないし」
「そう、なんだ……」

 かなり仲が良いんだな、俺とこの子って。
 玄関に置いてあった白くてダサいスニーカーを手に取ると、その場で履いて見る。
 よし、これで準備OKだな。それにしても、こうして隣りに並んで立って見ると、優子ちゃんとの身長差がすごいな。

「藍ちゃん、その髪で学校へ行くの?」
 
 優子ちゃんに指をさされるが、何を言いたいのかさっぱりだ。

「え? 髪ってなんのこと?」
「だって、そのままじゃ……校則違反で怒られるし、反省文かもしれないよ」
「は……?」

 玄関の壁にかけられていた鏡で、自身の顔を見つめてみるが、特に問題なし。
 普通に可愛い女子中学生だが?

「藍! 優子ちゃんの言う通りだよ! これで髪を括りなさい」

 と母さんが持って来たのは、茶色のヘアゴムだ。
 
 あ、そっか。髪型のことか。
 普通に長い髪を肩に下していたから、校則違反だって言うのか。
 なるほど、中学校は行ってないし知らなかった。
 とりあえず、人生初のポニーテールといきますか。