大型のトラックが近所の工場に衝突し、壁をぶち壊してしまったので現場は大混乱となった。
 もちろんすぐにパトカーや消防車に救急車が駆けつけてくれたが、奇跡的にけが人は1人もいなかった。
 トラックの運転手も無事らしい。
 まあトラックはボコボコに変形して、工場の壁には大きな穴が空いてしまったけど……。

 現場が混乱に陥る中、俺は緊張と恐怖のせいで未だに翔平くんを抱きかかえていた。
 
「あの……藍お姉ちゃん? もう離れてもいいかな……」

 そう言われるまで、ずっと自身の胸に彼の小さな顔を埋めていた。

「ご、ごめんね。翔平くん、トラックが見えたから。危ないと思って……」

 翔平くんの顔を引き離すと、なぜか彼の顔は真っ赤に染まっていた。
 どこか照れているように見える。

「うん、ありがとう……お姉ちゃんこそ、女の子なのに危ないことをさせてごめんね」
「そんな性別とか、関係ないよ~ 大切な友達が困ってたら、助けるのが普通だもん」
「普通……なのかな? 藍お姉ちゃんはお兄ちゃんの友達なのに。なぜ弟の僕なんかを……」
「うっ!?」

 それは「君の未来を知っていたからだよ」とは言えないもんな。
 とにかく大切な友達であることを強調しておこう。

「だって翔平くんは、一緒に”ミニモーターカー”の大会を競った仲間じゃないか!」

 すると彼は大きな目を丸くして、俺を見つめる。

「仲間……お姉ちゃんにとって、僕は大事な仲間なの?」
「そうそう! 仲間だから、命をかけて守ってもお釣りが返ってくるぐらい」
「そっか……」

 どうやら納得してくれたようだ。

  ※

 しかし、このあとが大変だった。
 テレビの取材は来るし、俺が勝手に中学校を早退したもんだから、担任のねーちゃん先生も現場に駆けつけて説教が始まる。
 それだけならまだしも……友達の優子ちゃんも心配して泣きながら、俺の胸を叩くし。
 弟の事故の知らせを聞いて来た鬼塚まで、俺に怒り始める。

「水巻! 翔平を助けてくれたのはありがたいけど……。なんで一言でも良いから、話してくれなかったんだよ!」
「……」

 そんなこと、言えるわけないだろ。
 確かにこの世界は、前世とは違うけど。限りなく現世に近い、25年前に起きた出来事なんだ。
 と説明しても、誰も理解してくれないだろう。

 俺が黙りこんでいると、ついには泣き出す鬼塚。

「そんなに俺が頼りないのか!? 少しは頼ってくれよ……うう」

 これにはその場にいた全員から、同じことを言われてしまった。
 優子ちゃんや担任の先生、それに警察から呼ばれて来たお母さんやお姉ちゃんまで。

 そんなことを言われてもな。俺はただ少しでも悪い歴史を正しく修正したと思いたいが……。
 いや、待てよ。未来を知っている俺からすると、今後のことを思い出せば、株とかで大金持ちになれるんじゃ?
 よっしゃ! 転生して初めてチートスキルを発動できるぞ。