天ヶ瀬先輩の家から出て来たお姉さんは、俺の話を聞くと「ここで待ってて」とまた家の中へ戻っていく。
あの人、本当に先輩のお姉さんなのかな? 先輩はハーフって感じの顔つきだが。
さっきのお姉さんは髪の色こそ明るかったけど、顔は普通の日本人女性に見えた。
それに年もかなり上の人。たぶん、20代前半ぐらいじゃないかな?
なんてひとりで考えこんでいると。
門扉がゆっくり開く。そこに現れたのはモデルのような長身のイケメン。
坊主頭だが、スタジャンにジーンズを格好よく履いてみせる。
天ヶ瀬先輩だと分かるまで数秒かかった。
「あ、お前。デカ女だろ?」
「どうも……この前はすみませんでした」
そう言って頭を下げるが、先輩は俺に目もくれず、ジーンズのポケットからタバコを取り出す。
留年しているとはいえ、年齢はまだ15歳だぞ。堂々とタバコを吸うとは……。
本当に不良なんだな。
「で、一体なんなの?」
なんて冷たい声なんだ……この前の一件もあって、更に怖く感じる。
でも、勇気を持って謝らないと。
「あ、あの……この前、私。天ヶ瀬先輩が鬼塚の腕を折ったって勝手に決めつけて……。本当にすみませんでした」
「はぁ? お前さ、一体なにがしたいの? 俺をバスケ部から追い出したかったから、あんな風に文句を言いに来たんだろ」
「いやいや、本当にこんな結果になるとは考えず、やってしまいました……」
「ふぅ~ん。ま、終わっちまったもんは仕方ないよな」
そうは言うが、俺の顔面に向けて口から白い煙を吐き出す。
目に染みるし臭い。嫌がらせのように感じる。
「なんて言ったらいいか……私の勝手な行動で先輩にも迷惑がかかって」
「お前さ。めんどくさい性格って言われない?」
「え?」
「人間何かをする時にさ、全部を捨てたくないとか。ただの偽善者だぜ」
「……」
罪悪感からか、何も答えることができない。
まだ夕方とはいえ、閑静な住宅街だ。
あまりの静けさに耳が痛くなる。
気まずい空気の中、時間だけが過ぎ去ると思っていたその時だった。
また門扉が開かれると、先ほどの若い女性が現れる。
外行きの綺麗な格好をして、どこかへ向かうようだ。
「”ウィリー”、私もう行くから……あんまり他の女に優しくしないでよ?」
そう言うと俺の顔を睨みつける。
なんか、勘違いされてない?
「わりぃ、わりぃ! こいつはそんなんじゃないって……俺は年下の女が嫌いだって言ってるだろ? ”香里”が一番だってぇ~」
先ほどまでの態度とは一変し、天ヶ瀬先輩は甘えるような声で香里と呼ばれた女性の肩を優しく掴む。
「そう言って、この前も他の女を家に連れ込んだでしょ? ウィリーが言うから家の掃除をしたけど、知らない髪の毛落ちてたもん」
「いやだなぁ~ あれはきっと親戚の子じゃないかな、あはは」
「私のこと飽きたなら、もう別れてもいいんだよ……」
なんか急に痴話ゲンカが始まったぞ。
俺、この場にいて良いのかな?
「待てよ、香里。俺にはお前しかいないって!」
そう言うと天ヶ瀬先輩は何を思ったのか、その場で彼女を抱きしめる。
最初は女性側も嫌がっていたが、先輩の甘い言葉と濃厚なディープキスにより、頬を赤く染めて言いなりになってしまう。
一体、俺は何を見せられているんだ?
「っぷはぁ……もうウィリーのばか」
「な? 俺には香里しかいないって」
天ヶ瀬先輩がウインクしてみせると、女性はため息をついて苦笑する。
肩からかけていたショルダーバッグから財布を取り出すと、1万円札を3枚ほど先輩に手渡す。
「また電話してよね」
「もちろんだって! 俺には香里しかいないから、愛しているぜ!」
天ケ瀬先輩って根っからの不良だと思ってたけど。
女癖の悪いナンパ野郎というか、ヒモだったの?



