クラスには今、坊主頭の男子生徒が5人いる。
鬼塚と過去に彼の子分だった取り巻きたちだ。
バスケ部に所属していた人たちは、被害者も加害者も含めて関係者はみんな丸坊主になってしまった。
いじめに関与してない人間は、別にしなくてもいいと思うのだが。
そこら辺は、顧問の教師が昭和な人間だから、考え方が古いと思う。
ただ、俺が鬼塚の折れた右腕を見て、天ケ瀬先輩がやったと思い込み、ひとりで暴走してしまったことは罪悪感を感じている。
それが無ければ、いじめの発覚には至らなかったけど……。
しかし、もっと上手いやり方を思いついていたら、鬼塚の頭はこんなツルツルじゃなかったし。
中休みに入ると、俺は鬼塚を連れて渡り廊下へと誘いだす。
右腕が折れてるから、優しく左腕を掴んで。
「本当にごめん……俺じゃなかった、私が勘違いしたから、こんなことになって」
そう言って、彼に頭を下げてみせる。
「おい、そんなやめてくれよ。こんなところ、誰かに見られたら誤解されるよ!」
「でも……私のやり方が下手だったから、鬼塚の頭も坊主にしちゃったし」
「別に水巻のせいじゃないって。元々、天ケ瀬は素行が悪い奴だったから、いつかトラブルを起こしていたよ」
「うん。でも結局、私のせいでバスケ部がめちゃくちゃになったんでしょ?」
「それも時間の問題だったんだよ。俺が水巻に『先生には言うな』って言ったから、お前は約束を守ってくれたじゃん」
「……」
罪悪感に押し潰されそうになった俺を見て、気を使う鬼塚。
「でもさ、俺は今回の水巻がしてくれたことで感謝してるぜ?」
「え? なにが?」
「天ケ瀬だけど、バスケ部をやめることになったんだ。だから、これからあいつが俺を狙ってくることは無いと思うんだ」
「ってことは……天ケ瀬先輩が今回のことで辞めさせられるの?」
「うん、後から聞いた話だけど。先生や先輩たちから『責任を取るように』って怒られたらしいぜ」
話の中では触れられていないが、きっと教師を含めてバスケ部全員で天ケ瀬先輩を恫喝したんだろうな……。
たまに暴力も取り入れて……想像するだけで恐ろしい。
「じゃあ、他にも天ケ瀬先輩と一緒になって鬼塚を狙っていた、あの同級生たちは?」
「ああ、あいつらか。本当は気が小さな奴らだからさ。天ケ瀬が辞めるっていたら、自ら退部を申請してきたらしいな」
先ほどから俺は、鬼塚の言い方が気になって仕方なかった。
「ねぇ、あの同級生たちは自主的に退部したのはわかるけど。天ケ瀬先輩は強制的に退部させられたんでしょ?」
「いいや」
その答えに俺は耳を疑った。
「なんで? いじめの問題で責任を取るから、先生からバスケ部をやめるように言われたんでしょ?」
「だから違うって。そうなったら、バスケ部にも傷がつくし。学校も何かと評価が下がるだろ? だから、あくまでも天ケ瀬は自主的に退部することになったんだ」
それを強制的に退部させられた。と言うんだよ……。
つまり大人の都合で、いじめを隠ぺいするために天ケ瀬先輩もやめることをみんなから促されたんだ。
確かにすごく怖い人だったけど、あの人もハーフで言葉の壁が弊害になっていたもんな。
それはそれで、天ケ瀬先輩もかわいそうに思えてきた。
俺の考えが読めたのか、鬼塚が眉間に皺を寄せる。
「水巻! だからってお前が罪悪感を感じることなんて無いからな! もう、天ケ瀬には近づくなよ!?」
「う、うん……」
「絶対だからな! お前を泣かす奴は俺が許さない!」
右腕が折れてくるせに、なにを格好つけてんだか……。



