鬼塚が作ってくれた弁当箱をきれいに平らげると、俺は満足して眠たくなってしまう。
「ごちそうさま!」
「……また今度作る時があったら、弁当箱を買い直すかな」
「へ? なんで?」
「いや、水巻が考えることじゃないよ……」
「?」
そのあと、一通り水族館を歩いて回り、さすがにヘトヘトになったので帰ることにした。
しかし、このまま帰るのは気が引ける。
だって弟の翔平くんが高熱を出して、家で寝ているのだから。
鬼塚の作った弁当が美味いからと、翔平くんの分まで食べてしまったし。
出口付近にお土産ショップがあることに気がついた俺は、鬼塚に「ちょっと見て行きたい」と一人で店の中へ入ることにした。
イルカやラッコのぬいぐるみとかあるけど、男の子だものなぁ。
それに俺のお小遣いも、千円札が一枚しかない。
何が良いだろう? と店の中を探していたら、一つの商品が目に入った。
「あ、これ。いいかも……」
※
「ごめん、おまたせ~」
「別にいいけど。なんか欲しいものがあったのか?」
「そ、それなんだけど……。これを翔平くんへおみやげに」
と白いビニール袋を鬼塚へ差し出す。
それを受け取った彼は、袋の中を確認する。
「え、これ? マリンワールドのクッキー?」
「うん……。クッキーなら翔平くんの体調が良くなった時、食べられるだろうし。今日来られなかったのがかわいそうだったから」
そう言い終えると、なぜか鬼塚は頬を赤くして、身体を震わせていた。
「こ、こんな気を使うなよ!?」
「え? だってかわいそうじゃん……楽しみにしていたのだろうし」
「だからそういうの、いらないって言ってんだよ!」
なにをそんなに怒っているんだ?
ひょっとして、翔平くんはクッキーが苦手だったのかな……。
「ごめん、勝手に私が選んで買ったから……」
「そういう意味じゃないよ! ちょっと、水巻はここで待っていろ! 動くなよ、迷子になるから」
「……え?」
鬼塚はかなり興奮しているように見えた。
顔を真っ赤にしたまま、お土産ショップへ入って行く。
ひとり残された俺は、仕方なくその場で黙って待つことに……。
~10分後~
まだかな? 一体、何を買いに行ったんだろう。
それにしても、俺のことをどんな女の子だと思っているんだ?
放っておくと迷子になるなんて……ガキじゃないのに。
「み、水巻。悪い、待たせたな……」
「あぁ、別にいいよ。何を買いに行ったの?」
俺がそう問いかけても、鬼塚は黙り込んでしまう。
頬を赤くして、視線は俺の足元を見つめている。
「こ、これ……女の趣味とか分からないから」
そう言って、小さな紙袋を差し出す。
「?」
意味が分からないがとりあえず、彼から紙袋を受け取る。
この紙袋、プレゼント用の包装紙だ。マリンワールド限定の。
ラッコやイルカのイラストが描かれている。
肝心の中身を開けてみると、可愛らしいゴマフアザラシのキーホルダーが入っていた。
「なっ!? これって……」
ようやく意味を理解した俺は、改めて鬼塚の顔を見つめる。
視線を向けられた彼だが、恥ずかしいようで俯いてしまう。
「その……俺、お金も無いし、女に物をあげたこともないから」
「お返し、ってこと?」
「まあ、うん。そういうこと」
「……」
アホかっ!?
これじゃ、マジで俺たち初めてのデートをしているみたいだろ……。
しかも、この世界じゃ鬼塚は、まだ女の子にノータッチの状態。
正真正銘、童貞の少年と処女の少女が健全なデートしているだけとか。
辛すぎる……しかし、このキーホルダーを何に使えば良いんだ?



