急遽、鬼塚から誘われた水族館、”マリンワールド”への招待状。
 優子ちゃんは「そんなもので許せとか、どうかしてる!」と怒っていたけど……。
 なぜか俺の心の中では、満たされていく自分がいた。
 どうしてだろう?

 この世界でも俺みたいな男の子を鬼塚が過去にいじめていたから、自分のことじゃないのに、話を聞いただけで前世での俺を思い出した。
 20年以上前の出来事が昨日のことのように、すぐ思い出せてしまう。
 それぐらい、俺の中では大きな出来事だった……。

 だからこそ、この世界であいつが俺に気をつかってくれると、なんだか気が安らぐんだ。
 もちろん、今俺が接している鬼塚 良平という少年は、前世の人間とは別物だと分かってる。
 でも、嬉しく思ってしまうんだ。またあいつと友達としてやり直せることが……。
 いじめさえ無ければ、本当は仲良くなれそうな気がする。

 ~それから、数日後~

 約束の日曜日になり、俺は朝早くから起きて洗面台で顔をキレイに洗い上げる。
 朝食もひとりで済ませて自分の部屋に戻ると、すぐさまクローゼットを開いて何を着るか、考え込む。

「う~ん。こういう時って、なにを着るべきなんだ?」

 とりあえず、真っ白なワンピースを一つ取り出してみた。
 レースの刺繡が入っており、正にデートぽい格好だな……って、アホか俺は?
 違う、違う。ただの友達だろ、鬼塚は。
 まあ上にカーディガンでも羽織ってりゃ、目立たないだろ。

 
 先ほどの服を着て、ドレッサーの前で全身をチェックする。

「うっ……目立ってるな、藍ちゃんの身体は」
 
 紺色のカーディガンを羽織っても、彼女の肉体である部分が目立ってしまう。
 それは、ぶ厚い胸部装甲だ。
 とりあえず、今日は学校じゃないから髪は括らず、肩に下ろしていこう。
 そう考えながら、ドレッサーの上に置いてあったブラシで長い髪をとかしていると……。

「藍っ、私のポケベル知らない?」

 隣りの部屋にいたお姉ちゃんがノックもせず、入って来た。

「お、お姉ちゃん……ポケベルとか知らないよ……」
「あんた、今日デートでもすんの?」

 あらぬ疑いをかけられて声が裏返ってしまう。

「は、はぁ!? で、デートなんかするわけないじゃん!」
「いや、どう考えても男ウケする格好でしょ」
「……」

 黙り込む俺を見かねて、お姉ちゃんは深いため息をつく。

「はぁ……別にお父さんとか、お母さんにチクろうなんて思ってないよ。ただ、これだけは言っておくよ?」
「え?」
「絶対に避妊だけはしなよ」

 そう言うと財布を取り出し、中から見慣れぬ物体を差し出してきた。
 銀色のキラキラと眩しい、小さなビニール製のなんだろ?

「お姉ちゃん、なにこれ?」
「見たことない? コンドーム」
「!?」

 見たことあるわけないだろ! 俺は前世でも未経験なんだから、買ったこともないわ!

「まあ、藍も中一だしね。これはお姉ちゃんからのお祝いってことで」

 いるかっ!
 絶対に使うわけにはいかないんだよ!
 断固として拒否しようとするが……。

「お、お姉ちゃん。本当に私はそんなんじゃないから、要らないって!」
「年長者であるお姉ちゃんの言うことを聞きなさい! そんな気持ちじゃない時こそ、したくなるもんなの! 自分の身は自分で守りなさい!」

 飛んだどビッチじゃん、お姉ちゃん。
 中一でもう処女を喪失してたのかよ……。
 頑なに断ろうとしたが、お姉ちゃんが無理やりカーディガンのポケットに入れ込んでしまった。

「んじゃ、もしまた欲しくなったら、次からは自分で買いなさいよね~」

 バタンと扉が閉まると、俺はドレッサーに向かって叫んだ。

「絶対に使うかっ!」