ドンッ! という鈍い音と共に、俺の身体は宙を舞っていた。
 自慢じゃないが、俺の身長は165センチで体重は110キロ以上ある、超肥満体型だ。
 その俺でも大型トラックにかかれば、簡単に吹っ飛ばすことが出来るんだな……。

 そんなことを考えていると、何かすごく硬い棒で頭を殴りつけられた。
 後頭部から温かい液体がたくさん吹き出ているのを感じる。
 分かった。きっと、トラックに吹き飛ばされ、歩道の電柱で頭をぶつけたんだ。
 
 お次はコンクリートへ向かって、急降下。
 全身を強く叩きつけてしまった……。頭から流れ出る血液で、顔中が血だらけだ。
 その証拠に口の中が、鉄の味がする。唇の中にまで入ってきたのか。

「あ、あの大丈夫ですか! 私の息子のためにすみません!」

 重たい瞼を一生懸命、開いてみせる。
 そこには、スーツ姿の男性が立っていた。
 話からして、先ほどの少年の父親か……。

 リア充って感じのお父さんだな。
 髪型もツーブロックが似合う爽やかなイケメン。
 ちょっと肌が浅黒く日焼けしているが、それがまた色気を感じさせる。
 左手に指輪なんてしやがって……。
 
 いや、待てよ。
 こいつは……俺が一番憎んでいる男、鬼塚 良平じゃないか!
 なんで、地元の福岡にこいつがいるんだ?
 あ、正月だから帰省か。

 頭から大量の血液が溢れ出るため、意識がもうろうとして来たが、俺は声を振り絞る。

「お、おまえ……鬼塚」
「はい? 私のことを知っているんですか? と、とりあえず、すぐに救急車を……」

 こいつ、まさか。あれだけ俺のことをいじめておいて……忘れたって言うのか!?
 そんなこと絶対、許さないぞ!
 頭にきた俺は鬼塚のネクタイを掴み、こちらへ引き寄せる。

「お、お前だけは、絶対に許さないからな……鬼塚」

 そう言って、彼を睨みつける。
 しかし、こいつは俺の怒りや憎しみなど一切、感じていない。
 むしろ俺の身体を心配している。

「え? 何か言いましたか? もう救急車が来ますから、絶対に助かります!」

 クソッ……。
 人のことを平気でいじめていたこいつも、年を重ねて家庭を持てば、良識ある大人に成長したとでもいうのか?
 ふざけんな! お前の子供だって知っていたら、絶対に助けてない。
 ちくしょう……このまま、俺は死ぬのかよ。
 まだ父さんと母さんに、何も親孝行できていないのに……俺の人生って一体なんだったんだ?

  ※

 どこからか、声が聞こえてくる。
 優しそうな若い女の声だ。

「目を覚ましてください、水巻(みずまき)さん」
「う……」

 瞼をおそるおそる開いて見ると、目の前に美しい女性が立っていた。
 金色の長い髪を肩から下ろし、碧い瞳で微笑む。外国人みたいだ。

「水巻さん。”水巻(みずまき) 健太(けんた)”さんでよろしいですね?」
「え? あ、はい」
「残念ながら、あなたは先ほどの交通事故で亡くなってしまいました……」
「はぁっ!? いや……でも、そうだよな。死んだ時の記憶があるもんな」

 ってことは、ここは天国? いや、違う。
 この展開、見たことあるぞ!
 異世界へ行けるシーンだ。ついでに事故死だから、神様からチートをもらえるやつだ!

 やった! 父さんと母さんとは、離れ離れになるけど。
 異世界で無双すりゃ、モテモテ男になれる!
 巨乳からロリ、エルフにケモ耳までハレームし放題!

「どうやら、私の存在を理解しているようですね?」
「は、はい! もちろんです! 早く異世界へ行かせてください! チートはなんでもいいです!」
「ダメです」

 俺は耳を疑った。

「ど、どういうことですか? 異世界へ転生させてくれるために、俺をここへ呼んだんでしょ?」
「いえ……その転生はできますが、異世界へは行けません」
「は? 何でですか?」
「近年、異世界ブームにより、事故死が大変多く。異世界へ行きたがる人が多かったので。現在飽和状態なのです。だからダメです」
「……」