「はぁ、はぁ……」

 俺の隣りを現役の女子中学生が、ブルマ姿で走っている。
 前世でなら、素晴らしい光景なのだけど……。
 なんでかな? あまり興奮できない。
 相手が腐女子の優子ちゃんだからかな。

 3時間目と4時間目は、2時間続けて体育なのだが。
 教師のやる気が無いのか。軽く体操をしたあとは、ずっとグラウンドを走ることになった。
 男時代の俺ならば、体重は3桁を超えていたけど。
 転生したこの身体は、かなり身軽だ。昨晩、風呂上りに体重を計ったけど、前世の半分以下。
 50キロぐらい。
 だから、マラソンするのも楽だ。

 友達の優子ちゃんがいるから、ペースを合わせているけど。
 正直、余裕で追い越せちゃう。

「ほっ、ほっ」

 しかし、こんな身体を持っているのに虚弱体質ってのが分からんな。
 そんなことを考えながら、走っていると、背後から誰かが俺を追い抜いていく。
 男のくせに、小柄で華奢な身体の少年。
 
「あ」

 その後ろ姿を見て、すぐにわかった。
 褐色の肌にツンツン頭だから、鬼塚で間違いない。
 クソっ……。そう言えば、元の世界のあいつも運動神経は良かったな。
 この世界でも追い抜かれるとか、許せん!

 本当なら、優子ちゃんと並んでゆったり走るつもりだったけど。
 鬼塚だけに追い越されるのはムカつく!
 負けてたまるか。この肉体なら、あいつにも勝てる。

「フンっ!」

 地面を力強く蹴って、全力で走り始める。
 女の子走りとか可愛いことは無視。
 とにかく鬼塚に勝つため、手をピンと伸ばして、ブンブン振って走る。
 俺がいきなり全力で走り出したので、後ろをのろのろと走る優子ちゃんが、「あっ、藍ちゃん?」と驚いていた。

 悪い、優子ちゃん。
 この世界でもあいつだけには、負けたくないんだ。
 にしても……胸が揺れて痛い。
 さすが巨乳の持ち主だ。走れば走るほど、激しく揺れて邪魔で仕方ない。

 周りを走っていた他の生徒たちも、バインバイン揺れる俺の姿を見て驚いていた。
 だが、そんなことより今は先頭を走っている鬼塚だ。
 ようやく、彼の後ろ姿が見えてきた。

 バタバタという足音が聞こえてきたのか、鬼塚が振り返る。

「え? 水巻?」

 かなり驚いてるようだ。
 そうだ、お前は負けるんだよ。か弱い女の子にな。
 今の俺なら勝てる。そしてクラスで笑い話にされて恥をかき、ずっと引きずっていろ。

「お先に……」

 そう言って、鬼塚を追い抜いた瞬間だった。
 身体に違和感を覚えたのは……。
 
「げほっ……かはっ……」

 息が出来ない。
 風邪なんか引いていないのに、咳が止まらない。
 苦しい。

「げほっ! げほっ!」

 あまりの苦しさに、走るのをやめてコースから出てしまった。
 胸に手を当てて謎の咳を抑えようとするが、一向に止まらない。
 なんなんだ? この症状は……。

 
「おい! 水巻、大丈夫か!?」

 そう声をかけてきたのは、ツンツン頭の白い体操服を着た少年。
 さっきまで先頭を走っていた鬼塚だ。
 なんで? 俺を置いていけば、ずっと一位だったのに。

「かはっ……咳が、止まらなくて……」
「え? お前、顔色悪いぞ。保健室まで連れて行ってやるよ」
「……は?」

 なんで、こんなクソ野郎に心配されてんだよ!
 どの口さげて、保健室まで連れて行くだと?
 絶対に嫌だね。優子ちゃんに連れて行ってもらうわ。

「げほっ……大丈夫。私はへい、き……」
 
 と言いかけたが、俺は次の瞬間。
 この世で最も憎い男の手によって、抱えられていた。
 つまりお姫様抱っこというやつだ。

「そんな状態じゃ、歩けないだろ? 俺は平気だから、このまま連れていくよ」

 はあぁ!?
 こいつ、なにを考えてんだ。
 まさか女体化したからって、嫌らしいことをしたいとか?
 ないない! こいつだけは絶対ないから。

「俺、じゃなくて……私、重たいし」
「は? 全然軽いけど。俺、バスケ部だし。日頃から鍛えてるから、水巻みたいな女。楽勝だね」
「……」

 クソすぎるだろ! この世界!