殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 スペースワールドから帰って来て、俺はすっかりチュロスの味にハマっていた。
 鬼塚が100本も取ってくれたけど、二日間で食べきってしまう自分が怖い。
 40歳近いおっさんが若い女の子に転生して、更に大食いになったのかな?

 あと数日すれば、もう冬休みも終わってしまう。
 また苦手な勉強を強いられるのだけは嫌だな……。
 リビングのソファーに寝転がってテレビを見ていたら、お母さんがキッチンから顔を出す。

「藍っ! そろそろ、お風呂に入ってきなさい!」
「あ、は~い!」

  ※

 風呂から上がって素っ裸のまま、洗面台の鏡を見つめる。

「あれ?」

 この藍ちゃんという美少女の裸体を見ても、最近は慣れてしまい何も感じない。
 それよりも俺はとある部分を見て異変に気がつく。
 元々、細身な体型ではあるがたくさん食事を取れば、当然お腹が膨らんでしまう。
 しかし、現在の状態だがほっそりとした体型に戻っている。

「一体、どうして……」

 鏡に映る濡れた少女の裸体を眺める。
 どう考えてもあれだけ食べたなら、太っていないとおかしいだろ?
 気になった俺は洗面台の隣りに置いてある体重計の上に足をのせてみた。

「なっ、なんだこれ!?」

 転生して間もないころに計った時と同じ体重だ。
 50キロしかないぞ……なんで太ってないんだ!?
 驚いた俺は体重計から降りて、もう一度鏡に映る自身の肉体を眺める。
 
 すると、鏡の中から眩しい光が放たれ、どこからか声が聞こえてくる。

『さん……水巻 健太さん……久しぶりですね』

 鏡が喋った!?

「な、なんだこれ!?」

 ビックリして裸のまま、脱衣所から逃げ出すと。キッチンにいたお母さんがフライパンを持ったまま、固まっていた。
 ガステーブルのスイッチは入ったまま、つまり火がついているということだ。
 なのに、火事が起きてない。

 どういうことだ? リビングでパソコンを触っているお父さんもキーボードを指で叩きながら、固まっている。
 試しに二階にいるお姉ちゃんの部屋も確認したが、指にマニキュアを塗りながら固まっていた。
 なんなんだ、この状態は!? 俺以外、誰も動いてないぞ。

『水巻さん……こちらにお戻りください』

 誰かの声が直接、頭の中に入り込んでくる。
 俺は恐る恐る脱衣所へ戻ることにした。
 先ほどの鏡の中をのぞいてみると、そこには俺をこの並行世界に転生させたクソ女神が立っていた。

「あ~! お前っ、あんときのクソ女神じゃねーか!」
『水巻さん、男時代に話し方が戻ってますよ? 今は女の子らしくしないと』
「うるせぇ! こんなクソみたいな並行世界に連れて来やがって!」
『そんなこと言って……じゃあ元の世界に戻りたいですか?』
「いや、それは……」
 
 女神の言う通り、前世の世界に戻りたいとは思わない。
 でも、俺はこのクソ女神に騙されたと思っている。
 もっと美少女として、ちやほやされる世界を欲していたのに……。

『その様子だと、この世界を楽しんでいるようですね』
「誰も楽しんでねーよ!」
『そうですか。実は水巻さんにお伝えすることがありまして……』
「伝えること? なんだよ?」
『結構、大事なことなんです。それを転生する前に伝え忘れてぇ~』

 そう言うと、鏡の中で舌を出して笑う女神。
 ムカつく。この鏡をぶっ壊せばコイツが消えるか確かめたい。

「早く言えよ……」
『この並行世界では、チート能力を与えることはできないと言いましたよね?』
「うん、現実の世界と変わらないからだろ」
『そうです。でも、さすがに元ひきこもりの中年男性へ何もあげず、転生させるのはかわいそうなので。一つだけ水巻さんに”ギフト”を与えておきました』
「ほ、本当かよ!? どんなチート能力なんだ!?」
『慌てないでください。この世界に転生する前、水巻さんが願ったのは女性としての美ですよね? だからそのスキルをマックスにしておいたんです』
「は……?」

 つまり男にモテモテってことなのか?