少しでも彼女の心に残るように、僕はいつも優しく、丁寧に彼女を扱う。声を漏らさないようにする姿さえ、愛おしい。
「カノン」
限界が近いのを感じたのだろう。キスをすると、彼女は僕の舌を甘く吸った。僕は彼女を掻き抱き、腰の動きを強めた。

シャワーを浴びに行った彼女の後ろ姿を、ぼんやりと見つめた。当てつけの様に付けた紅い花が彼女の全身に咲いているのを見て、僕は自嘲の笑みを浮かべた。彼女は、誰のものにもならない。あんな印をつけた所で、意味なんてものは無い。それをわかっていても僕は、彼女を愛している。あの日、死にそうな顔をして雨に濡れていた彼女を、守りたいと思っていた。それなのにいつの間にか、こんな関係が続いている。
「お風呂、先ありがとう。」
「ちゃんと、あったまれた?体は大丈夫?」
僕は彼女を抱きしめ、聞いた。
「ありがとう。あったまったよ。」
「ねぇ、カノン。」
腕から抜け出した彼女に、僕は何度目かも分からない言葉を口から吐き出した。
「愛してる。」
彼女は何も言わずに、部屋を出ていった。
あぁ、また今日も届かない。