再び取材班が揃って会議室に顔を合わせたのは、あの地下施設からの帰還後、三日目の夜だった。場所は都内の小さな貸し会議室。普段はオンラインでやり取りすることが多い俺たちだったが、このときばかりは「直接顔を突き合わせないと話にならない」と、わざわざ互いに移動時間をかけて集まることにしたのだ。理由はもちろん、**樹海における闇バイトの実態**や、**そこに関連して起こっている行方不明事件の真相**を整理するためであり、何よりこれまで撮影してきた映像データに“異常なノイズ”や“不審な映り込み”が多発しているからだ。

 白いテーブルを囲んで座るのは、俺(ディレクター)、カメラ担当の杉山、リサーチ担当の長沼、音響や編集を兼任する牧野の四人。全員が疲弊した顔をしており、顔色は悪い。特に牧野はここ数日、夜中に悪寒で目が覚めては奇妙な囁きを聞くという。俺や杉山、長沼も同様の不調を抱えていたが、下手に休んでいる暇はない。というのも、**第3章**の時点で旧研究所の内部や封印めいた祭壇を垣間見た結果、俺たちの中で「これ以上踏み込むのはヤバいのでは」という意見と、「いや、行方不明者の謎を解明するためには避けられない」という意見に分裂しかけていたからだ。

 しかし、俺たちが今回ここへ集まったのは、一つの重大な手掛かりを検証するためでもあった。すなわち、「前回の潜入撮影データをくまなく解析した結果、フレームの端に“かつて行方不明になった人物によく似た姿”が映り込んでいる」という、にわかには信じがたい現象が確認されたのだ。

---

### 1. 取材映像の検証:歪む画面と映り込む“もう一人”

 まずは杉山がノートパソコンを起動し、過去数回の樹海潜入時に撮影した動画クリップを順番に再生する。とりわけ問題となっているのは、**第2章**終盤の「森の奥で闇バイトの一団と合流した夜」の映像と、**第3章**で「旧研究所の地下施設へ足を踏み入れた際」の映像だ。どちらも暗視モードや小型カメラを駆使して撮影したが、照明が不十分だったりノイズが強く入ったりで、お世辞にも鮮明とは言えない。

 杉山は慎重に早送りと逆再生を繰り返しながら、問題の“人影”が捉えられているという時間軸を特定してみせた。そこで画面に映し出されたのは、木々の隙間から覗くように立つ人物らしき影――カメラのブレも相まって幽霊のように見えるが、よく観察すると顔立ちや髪型が、既に行方不明とされている若い男性に酷似しているという。その男は、以前ネット掲示板に「友人が闇バイトへ行ってから消息不明」という書き込みをしていた人の写真と似ているのだ。

 「これ、本当に同一人物なのかな……」と牧野が震え声で言う。確かに、画質が荒く、はっきり断定はできない。しかし、その影は一瞬こちらを振り向いたかのような動きを見せ、次の瞬間にはスッと木立の奥へ消えていく。“自然消滅”という表現がしっくりくるほど、いかにも不可解だ。

 さらに、地下施設での映像にも似たような現象があった。コンクリートの崩落した通路を照らしながら移動しているとき、カメラのフレーム右端に人影が一瞬横切る。それは長い髪をした女性のようにも見えるし、陰気な色の作業着を着た人間にも見える。ただし、リーダー格の男や作業員たちがいた場所とはまるで別の方向だ。「こんなところに誰が?」と疑問を抱かざるを得ない。

 俺たちが再生を止め、フレームを一コマずつ確認していくと、その女性らしき影は半透明な輪郭を持ち、次のフレームでは消え失せている。CG合成でもしたのかと言いたくなるほど不可解な映像だ。杉山が困惑の表情で口を開く。

 「これ、普通に撮ってるだけじゃあり得ない歪み方をしてるよ。俺だって色んなドキュメンタリーで暗所撮影やってきたけど、こんなノイズは見たことがない。意図的に合成した形跡もないし、いったい何がどうなってるんだ……」

 もはやオカルトと言われても仕方ないレベルの奇妙な映像だが、実際にカメラを回していた杉山が言うのだから、デマや偽装ではないだろう。ただ、これを世間に公開しても「編集でしょ」「仕込みだろ」と一蹴されるのがオチだ。そう思うと徒労感が胸に押し寄せる。とはいえ、**そこに映っているのが失踪者本人や、その“亡霊”のような存在だとしたら**――これはかなり重大な事実ではないか?

---

### 2. 行方不明者の家族証言:浮かび上がる共通点

 衝撃的な映像を前に悶々としていた俺たちだが、ほぼ同時期に**家族や知人からの証言**が複数寄せられるようになった。これは牧野が中心になってネットで「樹海の闇バイトに関する情報提供」を呼びかけたところ、いくつかのメールが届いたのだ。その中には、明らかに具体的な内容を伴うケースがあり、「うちの息子が“夜間作業で高額報酬をもらえる仕事がある”と言って出かけたっきり戻らない」とか、「友人が『樹海で働くと一晩で10万円稼げるらしい』と言い残して失踪した」という話が何通も出てきた。

 これらの共通点を整理すると、おおむね以下のような事実が浮かび上がる。

 1. **高額報酬の闇バイト**:日給数万円から10万円超という常識外れの条件。
 2. **場所は樹海の奥**:本人は「夜だけ森の中で軽作業」としか説明しない。
 3. **帰ってこない**:数日後、連絡が途絶え、そのまま行方不明に。
 4. **警察は動かず**:遭難の可能性を示唆する程度で、本格的な捜索には進まない。

 このほか、あの“リーダー格の男”やプレハブの存在を示唆する内容も散見されたが、警察や行政が取り合わなかったり、家族が周囲に相談しても「本人が勝手に出ていったんだろう」と放置される場合が多いという。つまり、**数多くの失踪が樹海の闇バイトに関連していると疑われているにもかかわらず、公的機関は事実上動いていない**のだ。俺たちはこの状況に暗い怒りとやりきれなさを抱えた。

---

### 3. 絶望の境界:消息を絶った若者の痕跡

 さらに長沼が独自に調べるうち、森の入り口近くの廃棄物置き場で、誰かが書き残したメモや携帯メモリーカードが散乱しているのを発見する。どうやら樹海に入る前に不要な荷物を捨てたのか、あるいは逃げ戻ろうとした人間が途中で落としていったのかはわからない。そのメモには、日記のような走り書きがあり、

> 「俺は明日から森で働く。金が欲しいからしかたない」
> 「あの人たち、何だか怖い。夜になると奇妙な歌を歌うみたいで……」
> 「ヤバいかもしれない。でももう引き返せない。森が呼んでいる」

 といった、生々しい文言が残されていた。中には携帯の下書きメッセージらしき文章をコピーしたような記述もあり、

> 「ママごめん、こんな形で……でもこれで借金が返せるんだ」
> 「森の奥に行くほど頭がおかしくなりそうだ。声が聞こえる」

 等々、到底正気とは思えないフレーズが多い。どうやら彼らは行方不明になる直前、“樹海に呼ばれる”かのような感覚に襲われていたと推測できる。

 実際、第3章までの俺たち自身の体験でも、森からの“呼び声”を感じる場面は多かった。これは単なる恐怖心や暗示で済ませられる問題ではないのでは……。闇バイトに勧誘された者たちが、意図的にそこへ誘導され、そのまま意識を奪われるように失踪しているのだとしたら? もしくは、森が抱える異様な“磁場”や“呪術的力”によって自ら踏み入ってしまうのか。どちらにせよ、その深部で何が起こっているかを突き止めなければ、被害は増える一方だ。

---

### 4. 闇バイト従事者の思惑:再び村上からの衝撃告白

 そんな中、久々に連絡がついたのが、“村上”だった。彼は**第2章**で登場した内部告発者の若者であり、かつて樹海の闇バイトに参加しつつ、そこでの不気味な儀式や失踪の実態を恐れて逃げ出した人物だ。一度行方がわからなくなっていたが、ネット経由で俺たちにコンタクトを取ってきたので、早速指定のファミレスで会うことになった。

 村上は以前にも増してやつれて見えた。眉間に皺を寄せ、神経質そうに貧乏ゆすりをしながら周囲を警戒している。コーヒーのカップを握る手が微かに震え、「あれからも、俺の知り合いが二人、行方不明だよ。やっぱりあの森なんだ。逃げろって言ったのに、誰も聞かなかった」と嘆く。

 俺たちは村上に最新の情報――特に旧研究所の存在や謎の祭壇、失踪者の痕跡など――を伝え、何か知っていることはないかと問いかけた。すると、彼は息を詰めたまましばらく沈黙した後、ぽつりとこう言った。

 「……あの組織の上のほうは、ただ植物を採ってるわけじゃないと思う。確かにキノコやら薬品やらをどこかへ売りさばいてるって噂はあるけど、それだけじゃない。むしろそれは“おまけ”みたいなもんで、本命は“儀式”……人の魂を捧げるような、そういう奴だって……」

 思わず背筋が寒くなる。魂を捧げる――まるで生贄のような行為が暗黙のうちに行われているのだろうか。村上はさらに続ける。「具体的にはわからないけど、俺が見た限り、リーダー格の連中が夜な夜な森の石碑や祭壇で祈るんだ。そこに参加した奴は一様におかしくなって、次々消えていく。もしかしたら“魂を吸い取られる”みたいなことが起きてるんじゃないかって、本気で思うくらい恐ろしかった」。
 どこまでが事実で、どこからが彼の妄想・誇張なのか判断は難しい。しかし、彼の震えようが真実味を帯びており、俺たちはやはり“儀式”の黒幕はこの森に潜んでいるのだろうと確信せざるを得なかった。

---

### 5. 急増する心霊現象:編集ソフトが勝手に“語り”始める

 取材資料が集まる一方で、俺たちが次に直面したのは、より直接的かつ強烈な“怪異現象”だった。データを編集するためにスタジオにこもっていた牧野が、突然悲鳴を上げる。「ちょっと、これ……勝手に再生が止まらないんだけど!」
 見れば、映像編集ソフトが意味不明なエラーを連発し、一部のクリップだけが繰り返し再生されては音声がループしている。そこには森の夜景がノイズ交じりで映し出され、画面端に何かの人影がちらつく。その人影の口が動いているかのように見え、ノイズの裏から低い呻き声が聞こえるのだ。

 しかも、その音声を解析してスペクトログラムを確認してみると、通常の音波パターンとは異なる奇妙な波形が浮かび上がっていた。そこに人の声や言葉が含まれているように思えるが、再生速度を変えたり逆再生したりしてみても、はっきりした内容はわからない。はたから見るとただの雑音に見えるが、長沼が強引にフィルタリングを施すと、微かに「たす……けて……」という日本語の音節らしきものが聞こえるような気がする。まるで**行方不明者の“最後の声”**でも混じっているかのように。
 この事態に、俺たちの精神的疲労は一気に増していった。映像や音声を扱うプロである牧野が「こんなの原理的にあり得ない」と言い募るほど、おかしなノイズが頻発するのだ。データが破損しているのか、外部からハッキングされているのか――そんな技術的な仮説を立てても、説明がつかない部分が多い。いや、そもそもハッキングして何の得がある? やはり**樹海そのものが干渉している**としか思えない。

---

### 6. 地元警察の動き:消極的すぎる捜索と“闇バイト否定”

 ここで気になるのは、これだけ行方不明者が出ているにもかかわらず、地元警察が大きなアクションを起こさないという事実だ。確かに樹海は迷いやすく、昔から自殺や遭難が多い土地である。警察は定期的に巡回や捜索をしているが、公式発表によれば「闇バイトの噂は確認できない」と言う。まるで、証拠が出てこないことをいいことに、事件性を認めるのを避けているかのようだ。
 俺たちが情報提供しようと試みても、「具体的な証拠はあるのか?」「プレハブは私有地かもしれない」などと言われ、歯が立たない。さらに、警察内部に闇バイト組織と繋がる者がいるのではないか、あるいは強大な後ろ盾が動いているのではないか――そんな疑念まで湧いてくる。こうして正規の捜査が進まない限り、**樹海での事件は“行方不明”という曖昧な形で処理されてしまう**のだろう。

---

### 7. 森が示す道標:逆再生が描く祭祀の地図

 行き詰まるばかりの状況に、一筋の光が見えたのは、長沼が深夜に何気なく「映像を逆再生して遊んでいた」ときだった。冗談半分で、過去の夜間撮影ファイルを逆再生すると、**点々と撮影されている“赤い印”や“石碑”の映像が、一つのパターンを描いているように見える**というのだ。
 どういうことか詳しく説明すると、通常順方向に再生していると、木の根元や岩に描かれた赤ペンキの印がランダムに現れているだけに見える。しかし、逆再生で流すと、それらが曲線をなぞるように次々とフレームインし、最終的にある一地点で交差しているのがわかる――まさに**“道標”**のようだ。
 長沼曰く、古い祭祀の儀式では、**特定の紋様や配置図を森の中に刻み、それに沿って巡ることで結界を強化したり封印を施したりする**という記述が古文書にあったという。ひょっとして、この赤い印こそがその配置図であり、最終的には“祭壇”へ至る導線を示しているのではないか……。
 もし本当にそれが封印や儀式の要所を指し示すパターンなら、俺たちはそこを辿ることで森の秘密により深く近づけるかもしれない。同時に、失踪者の捜索手がかりにもなり得る。しかし危険も大きいだろう。リーダー格の男たちが護りたい何かがあるはずで、その核心に踏み込めば、命を落とすリスクが跳ね上がる。

---

### 8. 探検隊再結成:失意と恐怖を乗り越えて

 ここまで来ると、チームのモチベーションは大きく二分された。牧野などは「もうやめよう。こんなの命がいくつあっても足りない」と涙声で訴える。一方、杉山は「ここまで来たら逃げても同じだろう。行方不明者がいるってわかってるのに知らんぷりか?」と苛立ちを隠せない。長沼は苦悩しつつも「でも、これ以上放置すれば被害は拡大する。少なくとも情報だけは外へ出さなきゃ」と主張する。
 俺自身も内心グラグラだった。正直、もう嫌だ。この呪われた森に引きずり込まれるような悪夢から逃れたい。しかし、恐怖と同時に、捨てきれない義憤というか、“ジャーナリスト魂”のようなものが疼く。闇バイトの背後で組織的に行われているであろう不法行為、行方不明者の大量発生、そして何より謎めいた儀式による封印の乱れ――そんな問題を見なかったことにはできない。
 最終的に、全員が「もう一度だけ、しっかり取材しよう。だが次が最後の覚悟で」と合意した。どうにも不穏な空気が漂っている以上、ここで中途半端に撤退しても悪夢は終わらない可能性が高い。これまで以上に慎重な準備を行い、万全の体制で樹海へ入ろうというわけだ。

---

### 9. 真夜中の再突入:散り散りになる最悪の展開

 こうして**第二の探検隊**が組織される。とはいえ、前回までのように闇バイト側の車に乗せてもらうわけにはいかない。今回は徹底的に“自力”で、例の赤い印が指し示すルートを辿ることにした。狙いは、リーダー格の男たちに気づかれぬよう封印の核心へ近づき、行方不明者や儀式の痕跡をカメラに収めること。万が一、彼らの活動拠点に出くわすようなら、危険を冒してでも証拠を抑える……そんな半ば捨て身のプランだ。
 深夜0時すぎ、俺たちは樹海のとある入口に車を停めて歩き出した。ヘッドライトや懐中電灯の光量は最小限に抑え、カメラの暗視モードをメインにする。長沼が手元の地図とGPS端末をチェックしながら先頭を行く。杉山が後方でカメラを回し、牧野と俺が中央で周囲を警戒する形だ。
 夜の森は、いつも以上に静寂だった。風もなく、木々も微動だにしない。しかしその静けさがかえって不気味で、踏みしめる土の音がやけに響く。幾度となく背後に誰かの気配を感じながら、1時間ほど慎重に歩いたころ、最初の“赤い印”を発見した。苔むした石に大きな円が描かれ、その外側を三角が囲う形。長沼によれば、これは古代の護符や魔方陣に類する図形だという。
 さらに奥へ進むと、朽ちた木の幹にも赤い記号があちこちに散らばり、やがてそれらが一本の線で繋がるように見えてくる。映像を逆再生で解析したときのイメージが頭に浮かぶ。「この先に何かあるはずだ……」と呟きながら、俺は心臓の鼓動を抑えられなかった。
 ところが、進むにつれ霧が濃くなり視界が悪くなる。何度か方向を見失いかけ、焦りが募る。そのうちに、唐突に遠くから人の声が聞こえた。「……そっちか?」「急げ!」――低い声だ。どうやら闇バイトの作業員か、あるいは別の集団かもしれない。下手に接触しては命取りだ。俺たちはとっさに物陰へ身を潜める。
 すると、木立の向こうに薄いライトの光が揺れ、作業服らしきシルエットが数名通り過ぎていく。彼らは大きな袋やケースを担いでいるようにも見える。そのままこちらには気づかずに去っていったが、冷や汗が止まらない。やはり森の中には“誰か”がいるのだ。しかも組織だって動いている気配がある。
 再び歩き始めた俺たちだったが、やがて予期せぬ事態に陥った。霧で足元がまるで見えず、かつGPSもおかしくなり始め、長沼が位置を特定できなくなる。さらに悪いことに、どこからともなく chanting のような声がかすかに漂ってきて、牧野が怯えだす。「ごめん、耳鳴りがひどい……」と足を止めてしまった。
 「大丈夫か? 一旦休もう」と声をかけるが、突然視界の端でライトが点滅し、俺の背後から杉山が「あっ……」と呻き声を上げる。振り返ると、杉山の姿がない。どうやら足を滑らせたか、何かに引きずり込まれたのか――いずれにせよ、一瞬で闇の中へ消えたのだ。
 「杉山! 杉山ッ!」と叫んでも応答がない。焦って周囲を照らすが、地形の傾斜がわからず、足場を崩せば自分も落ちるかもしれない。牧野は恐怖で泣きそうな顔をしているし、長沼も必死に杉山の名を呼ぶ。すると、少し離れた木々の間に人影が見えた気がした。もしそれが杉山なら助け出さなくては――そう思って駆け寄るが、その人影は異様に長い腕を動かし、木の幹を這うように移動すると、すぐに姿を消した。
 混乱の中、さらなる災厄は続く。どこからか大きな足音が近づいてくるような振動を感じ、俺たちは「やばい!」と直感で逃げ出すしかなかった。だが、逃げる方向もわからず、結果的に三人の足並みが乱れ、**長沼と牧野が別方向へ逸れてしまう**。「待ってくれ!」と叫んでも、森の奥から吹く湿った風が声を呑み込む。強まる霧の中、懐中電灯の光は数メートル先を白く染めるだけ。もう互いの姿は見えない。
 こうして最悪の展開が訪れた――俺、杉山、長沼、牧野の四人は暗闇の樹海で散り散りになる。行方を捜そうにも、足音は吸い込まれ、連絡手段の無線も雑音ばかりで繋がらない。あるのは、さっき見かけた作業服集団や謎の人影、そして不気味なchantingの気配だけ。
 視界と意識が揺れたまま、俺は森の中をさまよい続ける。あちこちに見える赤い印が、誘うように闇の奥へ進めと言っているかのようだ。かすかな理性で「ここから出なくては」と思うが、足がもつれて何度も転倒する。そのたびに、石碑や倒木に塗られた赤い紋様がチラリと見え、「封印の崩壊」を暗示しているように思えてならない。
 こうして、**第4章**は最悪の形で幕を下ろす。行方不明者の家族証言や、映像に残る失踪者の姿、一連の儀式の片鱗――それらを結びつける糸口が見えかけたところで、取材班自身が森の闇に呑まれようとしているのだ。真夜中の樹海は、これ以上ないほど冷たい気配をまとい、まるで「さらなる獲物を逃がすまい」と手招きしているように感じられた。
 果たして杉山や長沼、牧野は無事なのか。そして、“封印を乱す”行為がどんな結末をもたらすのか。森の奥に何が待ち受けているのか――すべては闇の中。俺たち取材班の運命は、この先さらに深い迷宮へ足を踏み入れることになるだろう。