「‥‥‥‥‥はぁ〜」
「なによぉ響、最近ため息ばっかりで」
____8月に入り、夏休みも中盤。
朝食を食べながら、向かい側で心配そうな碧色の瞳が僕を見ている。
「さっさと食べなさい、冷めちゃうわよ」そう言われて、やっと朝食に口をつける。
「‥‥‥つめた」
「早く食べないからでしょぉ?」呆れた声を背に、レンジに皿ごと押し込む。
くるくるくる____と回っている、昨日の夕飯の残り物を入れたホットサンドを眺めながら、また憂鬱な気分になる。
「なんか最近、元気ない?」
「え?」
「なんか____出かけた日から、変よ?ため息ばっかりで」
「‥‥‥‥」
「まっ、ため息は血流の促進にいいから!!」とわけの分からないことを言う。
「帰ってきたままずっと夜まで寝てたし、星も
観ないし、なんか変だなぁって思っただけよ」
「‥‥‥‥うん」バレていたらしい。見てないのに、ちゃんと見られている。
「お出かけ?なんかあった?」
「____別に、なんでも」特に言うほどのことじゃない。というか、僕の親には全く関係のないことだし。
「ふーん?‥‥‥‥ま、ここはあたしじゃなくって、女の子の助けが必要ってことかもしれないわね」
「‥‥‥‥なにそれ」
「ケンカでもした?」
「ケンカ、っていうか‥‥‥‥」
「____って、なんでそんな嬉しそうに見るんだよ」
「響もやっとそういう子ができたのかしら〜なんて思ったらもう、なんか‥‥‥‥大人になったなぁって」
「‥‥‥‥なにそれ。大袈裟」
温まったそれをテーブルに移動すると、「はいこれ」と横から紅茶が出てくる。
「____」
「あら?いらなかった?」と意地悪な笑みを向けてくる。
「飲む」
ママレードのジャムティーを受け取って、温めたホットサンドを口に押し込む。
____こういう食べ物も、別の色に見えるってことだよな。
「‥‥‥‥別の色?」言われてから、心の声が漏れていたことに気がつく。
「例えば黒とか、黄土色‥‥‥‥とか」
「なに、色のこと考えてたの?」
「んー‥‥‥‥‥なんか、ネットの記事で見て、ちょっと気になって」
「まぁ____一部だけど、そういう人もいるわね」
「うん‥‥‥‥」
「あたしはちょっと畑が違うから____姉さんならデザインの仕事してるし、そういうの分かるかも」
「姉さん」とは、いわゆる親戚だ。
年2回の家族の集まりに来ているのを知っているし、たまに顔を見せる僕にもよくしてくれる。
うちの親と、兄弟姉妹で仲がいいから。
「あっ、____そういう人もいるよって」ほら、とスマホを見せてくる。
「聞いたんだ」
「そういや、姉さんとこの娘さんも、同じ感じじゃなかった?」
「‥‥‥‥僕、あまり行ってないから」
「そうねぇ、たしかに‥‥‥‥‥音に色が見えるとかって話だったから、ちょっと違うかしらね?」
「え、音に色?」
「そうらしいわよ〜!!とってもロマンチック♪」
「‥‥‥‥そうなんだ」そういう人も、いるのか。
「____思い出した!!彩葉ちゃんよ!!」
「‥‥‥‥‥?」
「ほらぁ、髪の色が薄くって、小さくて、姉さんに似てる‥‥‥‥苗字は姉さんがお嫁に行ったから、東雲だけど」
言われてみれば、いたような気もするし、いなかったような気もする。
____話したことないから、覚えてないけど。
親戚の集まりに毎回参加しているわけではないし、
他にもたくさん来るから、どこの誰がどの繋がりなのか、僕にはさっぱりだった。
親も、「最近はみんな大きくなっちゃって、分からなくなってきたわねぇ」とぼやいているし。
あと、親戚だし、苗字はどうでもいい。
「彩葉ちゃん、今大学生だっけ?来るかしら?」
「夏休みに、お祖母ちゃんの家に行くの?」いつもは5月なのに。
「うん。やっとリハビリ終わって、入院から帰ってきたって。この間、兄さんから連絡あったのよ。いつもなら5月だけど____快気祝いのパーティーも兼ねて、って♪」
「あたしはもうお休み取ったけど____あっ、彩葉ちゃん来るって」
「いつ?」
「あら?いつもより食い気味?来週の‥‥‥‥あ、9日ね」
「すぐじゃん」あと5日後。
「そうね」にやにや、といやらしい笑みを浮かべている。やめてほしい。
夏期講習お休みだし、いいんじゃない?と言われて。
「行ってみようかな」と返事をした。
しばらくして、《 彩葉ちゃんの連絡先教えてもらったから送るわね 》と僕のスマホにアカウントが送られてくる。
「いいの?勝手に、連絡先とか‥‥‥‥」
「彩葉ちゃんからも許可取ったって、姉さんが」
「‥‥‥‥」うちの親はだいぶ突っ走るから、あまり信用ならないんだけど。
____ぴろんっ♪
通知音に目を向けると、知らないアイコンと《 「 東雲 彩葉 」 さん が友達になりました 》のメッセージが流れる。
「僕のアカウント、教えたの?」
「うん。姉さんに」
「‥‥‥‥個人情報」
「向こうで会うんだし、いいかなって。受験の話も聞けるわよ?彩葉ちゃん、先輩なんだから」
「____まぁ、」それなら。
「響、人見知りだからあんまり話しかけられないかなって思って」保険よ、保険!!と念を押す。
「保険、ね‥‥‥‥」そんなに頼りないと思われてるんだろうか。



