碧と春    【ボカデュオ2025『 Azulight 』  原案・原作】








「____この辺にしよっか!!」

ショッピングモールから離れたところにあるカフェスペースに、2人で腰掛ける。





「ごめんね、響‥‥‥‥」


席について彼女から出たのは、そんな言葉だった。

こんなに改まって「ごめん」と言われるのも、声が消え入りそうになっているのも初めてで。

それらは申し訳なさよりも、哀しさを映しているように、僕には見えた。




「僕こそ、気付いてあげられなくて‥‥‥ごめん」


「響が謝る必要ないよ。私が____ずっと、響に言わなきゃ言わなきゃって思ってて。言えなかっただけ」


「____」


「そんな表情‥‥‥‥しないで、欲しかった‥‥‥なぁ」



いつもより元気がない笑顔。

僕も、同じ気持ちだ。


  





「____そんでね、響がたぶん、今1番気になってること、なんだけどね」


「たぶん、私が今、話そうとしてるのと、合ってると、思うんだけど」




____ふう。

ひと呼吸置いて、まっすぐ僕を見た。




  




「私、生まれつき、赤が見えないんだ」


「だから、ちょっとだけ響やみんなと____違う景色を、見てる」




やっぱり、なのか、間違っていてほしかったのかは、よく分からなかった。






「‥‥‥‥どういう、こと?」



【赤が見えない】がいまいちピンと来ない。

____ただ、今まで一緒に過ごした中でなんとなく、青色は見えるらしい、というのはぼんやりと分かる。

僕の家の壁の色だったり、空の色は「青くてきれい」とよく言っているし。

今日の僕の服も、「水色」って。分かっていたみたいだったから。




「んーっと‥‥‥、ちょっと分かりにくいかもしれないんだけど、」と前置きして、

「青と黄色と、モノクロしか見えない____って言えば、分かりやすいかなぁ?」あと、黄土色も分かる!!と付け足した。



「そう、なんだ」

それはなんだかずいぶん、色の数が制限されているような。



「専用の眼鏡____っていうか、サングラスをかけると、色が見えるようになるの。

もしかしたら、響とか、みんなが見てるのとは少し違うかもだけど‥‥‥‥。でも、赤と緑がちゃんと、全然違う色だって分かるし、ピンクとか水色とか黄緑も、分かるようになるんだ」


「サングラス、ないと大変なんじゃ____」今日、忘れたって言ってたけど。まぁいいか、でもないような気がする。


「うーん、でも、もう慣れちゃったからなぁ‥‥‥」


「信号機、見えないんじゃない?」


「分かるよっ!!サングラスないと、白と黄色しか見えないけどっ!!」


「白と黄色‥‥‥‥」僕の見てるのとは、だいぶ違う。


「ちゃんと、電気ついてるかも分かるから。それで判断してる」


「生まれつき、だもんね」僕の、碧眼(これ)と同じ。


「うん。赤と緑の見分けがつかなくて____響、あれ何色に見える?」と近くの観葉植物を指す。


「緑色‥‥‥‥‥」


「だよねぇ。私は黄色‥‥‥‥とか、黄土色とか、そんな感じ」


「今日の響のズボンは、何色?」


「ラベンダー色?かな」紫だと、濃すぎるし。


「私は、水色に見える」


「____そんなに、違うんだ」


「だから、秋になると紅葉してる〜ってみんな言うけど。私にはずっと木の葉っぱは黄色か黄土色っぽく見えてるから、1年中紅葉して‥‥‥‥る」


「どうしたの?」


「____って、ごめんね。こんなに一気に話しても、分かんないよ‥‥‥‥ね」


「‥‥‥‥ごめんね。私のこと、変な子って、思ったでしょ?やっぱり変な子でしたぁ〜!!なんっつってぇ‥‥‥‥」




いるかが、足元に目線を向けていることに、今更に気がついた。

何度も「ごめんね」と言うことも。

声に覇気がないことも。


____いつもなら、ないことだった。






「____ありがとう、話してくれて」


「なんて言ったらいいのか、分からなくて。それしか、言えないんだけど」


「変、なんて言ったら。それこそ、僕だってそうだよ。色素薄いし、見た目日本人ぽくないし‥‥‥」


「色の話、だけど。ずっと、僕に合わせてくれてた‥‥‥‥?」



「そんなこと____ないって、はっきりは言えないけど。‥‥‥‥‥‥でも、空の色は分かるんだよ。
朝の空が水色で。夕暮れになると黄色と青になって。夜は暗い青色。

____ちょっと違うかもしれないけど。私は、響と同じ色見てるって、思ってる」



「‥‥‥‥うん」


「‥‥‥‥響」


「ん?」


「私っ____、」そこまで言って、唇を閉じる。

ぎゅっと、なにかを閉じ込めるようにして、
「聴いてくれてありがとう。ずっと、話せなかったから」と、大きな瞳を向けてくる。




「ちょっと、すっきりした」


「‥‥‥‥うん。話してくれてありがとう」


「‥‥‥‥‥」


「‥‥‥‥いるか?」




「私、初めて、こんなに話したの。____響には、絶対話しておきたかったから」

「赤、見えないって言ったけど。____私のこと、今までと同じように、してほしい」  

「私、こんな視界だけどさ、嬉しいんだ。青が、すごくきれいに見えるの。私は、私が好き。私の見る青も大好き」

「だから、響も。これが夕凪いるかなんだって____思って、欲しくて」



「‥‥‥‥‥」


「‥‥‥‥可哀想って、思った?私のこと」


「____え」



「色の数、みんなと違うから。赤と緑が分からなくて、変な色使ったりしちゃうから‥‥‥‥さ」

「チア部もね、練習のとき、床に貼ってあるテープの色が分からなくて。そんで、1人だけフォーメーションぐちゃぐちゃになったりして____。
衣装も、分かりやすいから青っぽいのが良かったんだけど。いるかの意見でしょって言われちゃったりとか____してて、さ。
私、みんなのこと、結構振り回してきて、迷惑、いっぱいかけてた、と思う」



「‥‥‥‥そっか」


「響は、どう、思った‥‥‥‥?」


「僕、は‥‥‥‥‥」なんて、言ったらいいんだろう。


「だいぶ、衝撃が強くて____ちょっとまだ、整理がついてない。考える時間が、欲しい」



「私、響と天文部続けたい。‥‥‥‥‥けど、響が無理だってなったら、私は辞める」


「____え」


「響の好き、取りたくないから。あの場所も」


「そこまで、しなくても____」




「ううん、私が、響に嫌われちゃうのが、嫌なだけだから」



____そう言われて、僕はなにも答えられなかった。

ただ、とても重要なことなのは、理解できた。






「____僕、ちゃんと、考えたくて」


「‥‥‥‥‥ん、分かった」



「ごめんね、急に重い感じになっちゃって‥‥‥‥」苦笑いするのが視界の端で見える。


「大事なことだもんね」


「‥‥‥‥うん。ありがとう」





その日の会話は、そこで終わってしまった。

帰りはいるかの最寄り駅まで送って、家まで帰った。








「____はぁ」ぼす、とソファーに身を投げて、クッションを身体に押し付ける。


まさか、いるかにとってのサングラスが、そういう意味だったなんて、思わなかったし。

あんなに悩んでたのも、知らなかった。




「____バカいるか」


部活辞めた理由、「もういいかなって思った」って、言ってたけど。
____実際はそんな言葉で片付けられるようなものでは、ないような気がした。
 


緑と赤が____黄色か黄土色。

そうだとしたら、この部屋の景色も、壁の色以外は全部黄土色っぽく見えるんじゃないか。

うちのリビングは、色がごちゃごちゃしているけど。赤と緑が多いから。



全然、気が付かなかった。

____けど。
 




____これが夕凪いるかなんだって。今までと同じように、してほしい。




今までと、同じように‥‥‥‥‥できるだろうか。僕が。

ただ、これだけは確かだ。





《 天文部は、続けるから 》



そう、いるかのトークに打ち込んで____既読はつかなかったけど。




あの場所は、そのままにしておきたい。

できれば、いるかと2人がいい。

僕が大丈夫でも____怖いのは、いるかの方だと思うから。




____ただ。


どうしたらいいんだろう、だけが、ぐるぐると重くなって溜まっていた。