碧と春    【ボカデュオ2025『 Azulight 』  原案・原作】

「響、ちょっとお洋服を見てもいいかな?」


「____うん」
僕が言うと、ぱぁぁっと笑顔を咲かせて「ありがとうっ!!」とスキップしながら歩き始める。


「いるか、ずっと見てたもんね」


「あははー、ばれてた?」


「そわそわしてたから」


「わー‥‥‥‥恥ずかしいなぁ」



そんな会話をしながら、カジュアルな雰囲気のお店に入っていく。

今日の私服にりぼんやフリルがついているから、もっとこう‥‥‥お姫様みたいなところに行くのかなと思っていた。
そういうところに自分がそぐわないことは知っているので、内心ほっとしつつ、「響も一緒に見よ!!」という彼女を追う。



「いるか、それ持つよ」


お財布とケータイしか入らなそうな鞄だったのに、どこからともなく紙袋を取り出して、買ったものを詰めていた。

さすがに、買い物中にガサガサとしてしまうのは邪魔だろうし。



「ありがとうっ!!」彼女は僕に袋を預けて、「これ、かわいいねぇ!!」と鏡で合わせてみたり、店員さんに話しかけられたりしていた。

なにか買うわけではないみたいだったけど、楽しそうにしているのを見て、僕も楽しい。

親がファッション関係の仕事をしているから、こういう形の服もあるんだなとか、思いながら。





「____ねぇ、どっちがいいかなっ!!」くるっとこちらを振り向いて、パーカーを合わせている。


「なんかこういう感じの、淡い色のが欲しくて!!」


いくつか回って、この店までたどり着いたけれど。そう言われると、淡い色の服ばかり見ていた気がする。




「いるかは肌が白いから、鮮やかなのも似合うと思うよ」


「えっ!!そーかな!!」あんまり挑戦してみたことないやぁ!!と言いつつ、嬉しそうにしている。


彼女のこういうところを見ていると、気持ちがほんわかする。

小さくて、パタパタしているのが、仔犬を見ているような気分になる。




「さっきのお店の、赤いのも似合ってたよ」


「ほんとっ!?嬉しい〜!!」さっきのも、シルエットがかわいいなって思ってたんだぁ〜!!と白が揺れる。


「これか〜、これかな〜?」とハンガーにかかったパーカーを見ている。


「ピンクとグレーだったら、ピンクかも」


「え〜とぉ、こっち??」ひとつ、掲げてみせる。


「えっと、それじゃなくて____」彼女が取ったのは、グレーだった。






なにかが、カチッとはまった気がした。




____信号待ちで、青に変わってもなかなか渡らなかったこと。

____僕からジュースを受け取る時、どちらか迷っていたこと。

____そして今、グレーとピンクが分からなかったこと。




彼女は洋服についたタグを見て「わっ!!ほんとだ!!グレーだったかぁ〜!!」といつもの調子で、特に気に留めた様子もない。


「また間違えちゃった〜、ごめんね?」とこちらに向かって申し訳なさそうな表情をする。


「あっ、こっち見ておけばよかったんだぁ〜、バカいるか!!」とスマホを眺めている。





____いるかは、僕と同じ景色が見えないのかもしれない。













「____どしたの?響」


「‥‥‥あっ、いや、」なんでもない、と口にしようとして。自分の表情が少し硬くなっていることに気がつく。


そんなつもり、なかったのに。





「____あは、やっぱ、厳しい?」



彼女はそう言って、店をあとにした。

いつもきらきらしている瞳に、少しだけ哀しさが混ざっていて。

そのことが、とても哀しかった。