「きゃぁあ!!天文部って!!天文部って言ったぁ!!」

きゃぁきゃあとはしゃいでいるスカートの裾を見ないようにしながら、「部活じゃないけど」と(こぼ)す。



「夢みたい!!こんなところで天文部なんてっ!!」


「こんなところ、とか言うなよ」仮にも学校だぞここは。あと、この建物古いから、あんまり飛び跳ねたりすると床が抜けそうなんだけど。


「だってここスポーツ強豪じゃんっ?ないと思ってた!!部活紹介には載ってなかったよ?」


「聞いてくれ。他人(ひと)の話を」とにかく落ち着いてほしい。


「はぁ~い、怒られちゃったぁー」うさぎみたいに跳ねていた髪がしゅん、と垂れ下がったように感じて、ちょっと申し訳なくなる。


「そもそもここ、部室じゃないし。天文部とは言ったけど、部活でもない」


「じゃぁ、なんで君はこんなところで星観てるの?

____好きなんでしょっ?星、観るの」


「‥‥‥‥ぅ」至近距離で星空のような瞳に照らされると、どうしてか動けなくなる。


柔らかい髪が、頬に触れる。 

頭の中が熱い。




「____あっ、!!ごめんね?」僕が仰け反ったのを見て、2つの星空が遠ざかる。


僕が起き上がると、少し距離を置いたところで「また、やっちゃったなぁ‥‥‥‥」と小さくなっている。

しゅん、とその小さい身体がさらに小さくなる。



さっきから喜んだり悲しんだり忙しい人だな。

よく通る声のせいで、落ち込んでいるのに全くそう感じないのは、僕だけなんだろうか。




「まぁ、星は‥‥‥‥好きだけど」心臓の音が収まってきたところで、ようやく返事をする。


「だけど?」


「別に、他人に話すほどのことでもないだろ。地味だし」こういうの、他人に話すのは初めてだ。


「えええ、地味?かなぁ?‥‥‥うーん確かにあんまり、好きな人いない気がするね?
でも、そういうのとは、違う気がするんだよね〜。

だって君、ちゃんと観てたし!!

私がそう思うんだから、たぶん、そうなんじゃないかなぁ?」


「____あ、ごめん。また色んなこと言っちゃった」


「あぁ、____いや、いいよ」否定、されなかった。




「好きなの?星‥‥‥‥」


「うんっ!!大好き!!どこがなんの星座とかは、ぜんぜんだけど!!」


「そっか」そういう人も、いるんだ。


「んね、また来ていいっ?」


「だから、部活じゃないって」


「えぇ〜‥‥‥‥でも、また一緒に見れるといいなぁ!!」


「‥‥‥‥」


「じゃっ、私帰るねっ!!」ばいばーい!!と小さな身体をドアの向こうに消していく。




「なんだったんだ、‥‥‥‥‥あれ」

冬からいきなり夏になってしまったような、直射日光を長時間浴びたあとに似た疲れが押し寄せる。

「‥‥‥‥あ」そういえば、名前を聞きそびれた。



____ピピピッ。
閉門時間5分前を知らせるアラーム。

液晶画面をタップして、カシャン、と望遠鏡を片付ける。


初めて、一緒に夜空を見上げる人ができた気がして。
嫌な気は、しなかった。

せめて学年だけでも聞いておくんだったな、と思いながら、青く照らされた部屋をあとにする。




____それから数日後。


「ねぇねぇねぇみて!!部室の鍵っ!!借りてきたよぉお!!」

彼女は太陽のような笑顔で、また僕の前に現れた。