《 ごめん、おまたせ!! 》
メッセージを送ると、すぐに既読がつく。
キョロキョロと辺りを見てみるけど、いるかはいなかった。
あのよく通る声もしない。
____いや、そもそも遅れた僕が悪いんだけど。
《 今出るから、ちょっと待ってて!! 》とメッセージが届く。
《 公園の入り口にいるね 》
じわじわじわ、と熱気の籠った大合唱を聞きながら、近くの木陰に避難する。
ここの駅は、近くに自然公園があるから日差しをセーブできるのはありがたい。
「あっつ‥‥‥‥」サングラスを外して涼んでいると、少ししてふわふわと白が揺れているのが視界の奥に映る。
____ぴろんっ♪
《 今、公園の前の交差点!! 》
見えてるよ、と思いながら《 公園の入り口にいる 》と返して、交差点の信号に向かう。
少しして、僕と目が合った。ぶんぶんと手を振っている。
信号が青に変わって、しばらくしてもなぜかいるかは動かなかった。
キョロキョロと周りを見てから、急いでこちら側に駆け寄ってくる。
「おはよっ!!響!!ごめんね、待たせちゃって!!」
「おはよう。いや、僕が寝坊したから。ごめん。暑くなかった?」
「んーん、へーき!!近くに図書館があって、本読んでた!!」
「へぇ」いるか、本読むんだ。
「響、今私のこと、【本読むんだ】って思ったでしょ」
「いや、全然」
「そんなおバカじゃないもん!!」
「‥‥‥ごめんなさい」
「響の私服ー!!初めて見る!!」
そう言った彼女は、フリルのついたキャミソールとデニムのミニスカート。
明るい空色のパーカーが、白い肌によく似合っていた。
「「水色」」
「「あ」」
「「またそろった」」
「水色、お揃いだねっ!!」むふふふ、と嬉しそうに跳ねている。
「今日、いい天気だったから」
「だねっ!!うわー!!サングラス!!」かっこいー!!と瞳をきらきらさせている。
「強いから。陽射し‥‥‥‥」
「むふー!!実はぁ、私もサングラス持ってるんだぁー!!」これでお揃いだねっ!!と鞄を弄る。
「____ほにょ?忘れてきちゃったみたい!!」まぁいっか!!と白が揺れる。
「大丈夫なの?」
「うんっ!!なくても平気だから!!」
「僕はどうしてもないとキツくて」
「そうだよね、瞳の色薄いもんね‥‥‥‥」そう言って、僕をじいぃ‥‥‥‥‥っと見てくる。
「んぇ、なに」
「なんか、新鮮だなぁって思って!!」
「学校でもしてるよ」
「えっ!!?うそ!!見たことない!!」
「いるかと会うの、いつも部活のときだから」たまに、廊下ですれ違うけど。
「見たいなぁ、響が制服でサングラスしてるとこ!!」SPみたいでかっこよさそう!!と瞳をきらきらさせる。
「SPって‥‥‥」まぁ、背は高いし、見た目だけはそれっぽくなるかもだけど。
「いるか、もしかして僕と並んでお嬢様気分、とか思ってたりしない?」
「え?そんなことないですけどー」思ってるな、これ。
「僕、世界一使えないSPだよ。いるかより弱いから」むしろ護られるの僕の方‥‥‥。
「はっ!?確かに!!護ってもらえないかも!!鍛えてきて!!」
「SPクビになっちゃった‥‥‥」
「響が鍛えてきたら、復活させたげる」
「当分むりそう」僕が言うと、「‥‥‥ふふふ」と楽しそうにする。ひどいなぁ。
「制服のときは、違うサングラスなんだ」
「えっっ!?そーなの!?」
「あんまり目元が隠れてるのはダメって。メガネみたいなやつだよ、レンズの色も結構薄いし」
「んぇぇ、SP‥‥‥!!」
「僕はクビになったので、お嬢様のSPじゃありません」
「じゃあ、お嬢様やめるから一緒にいましょう!!」
「あは、なにそれ」
「響ー」
「なに?」
「だいすき!!」んへへ、と笑顔を向けてくる。
「‥‥‥」
「あり?響?大丈夫?」
「ちょっと、そういうのやめて‥‥‥‥恥ずいから」
「まっかじゃん‥‥‥‥」
「だめだめ、見ないで‥‥‥」
「____ほいっ!!」
「あ」
「うわー!!響のサングラスー!!どうかなぁ‥‥‥‥‥って、うわ!!でっか!!」私にはでっかいやぁ、とこちらを見てくる。
「顔、半分埋まっちゃうね」
「響が大きいんだしー」ほっぺたを膨らませながら、僕の胸ポケットにサングラスを返してくれる。
「ありがとう‥‥‥かけてもいい?」
「どーぞっ!!」暗くなった視界に、また彼女の大きな瞳が覗いている。
「‥‥‥なに?」
「んー、やっぱ似合うなぁって」そんな難しい表情しなくても。
「見にくくないの?」
「うん、慣れちゃったから」
「そーなんだぁ」と嬉しそうにする。
「やっぱり、いるかって犬みたいだね」
「んぇ、そーかなー!!」
「うん」
「サングラス、響と一緒だから、嬉しいっ!!」
「ふふ‥‥‥そうだね」
かけてると、怖いとかチャラいとか言われるけど。
彼女もかけてると知って、ちょっと安心する。
「響、買うもの決めたっ?」
「うーん、模造紙とかマーカーとか、大体は学校で貸し出してもらえるからなぁ。写真も、僕の撮ったのがあるし‥‥‥」
「写真?」
「うん。空の写真」
「響、写真撮るんだ」
「たまにね。1年に何回かくらい。現像しなきゃだから、ちょっと大変だけど」
「えっ!?スマホじゃないの!?」
「うん‥‥‥‥普通のカメラ?っていうか、レンズが伸びるでっかいやつ」
「カメラマンさんみたいなやつ!!一眼レフ?ってやつだよね?」
「そう、それ」
「すっご‥‥‥!!持ってる人初めて!!」
「星の撮影とかに使わない?」
「えっ!?星って撮影できるのっ!?夜暗いのに!?」
「色々やり方はあるんだけど‥‥‥レンズが高いからね」
「うわっ、そーなんだぁ‥‥‥‥私も星、撮ってみたいなぁ」
「今度、僕の家にあるやつ持っていくよ」
「やったぁ!!‥‥‥‥で、文化祭の展示はなににするの?」
「科学部ぽいのがいいみたいだから‥‥‥‥研究?」
「ううぅ、けんきゅー‥‥‥‥」しおしおと元気がなくなっていく。
「僕たちのところだし、せっかくなら色々と置いたりもしたいなって思って‥‥‥‥人工衛星の模型とか、星座盤とか天文儀とか」
「ふぉっ‥‥‥‥!?模型!?」いいかも!!と瞳をきらきらさせる。
「てんもんぎ??ってなに?」
「‥‥‥あ、こういうやつ」ちょうど映っている写真があったので、僕の家にあるストラップ型のものを見せる。
「うわ!!かわいい!!」微かにシャンプーの香りがする。
「でしょ」
____天文義、というのは、地球儀のような惑星の動きを可視化したもので。
土星の輪のようなものがいくつも重なって、そこに木星や水星などの星がくっついている。
実物は僕もあまり見たことがないけど、小学校の社会科見学で行ったプラネタリウムで買ったやつだった。
まさかこんなところで役に立つとは、思わなかったけど。
「科学室にもあるから、そういう資料も少し使わせてもらおうかと思って」コピーとかして。
「うわー!!いいと思うっ!!」響、天才っ!!と拳を向けてくる。
「ありがとう」
こつん、と拳をタッチすると、「うへへぇ」と溶けた笑顔が返ってくる。
この笑顔が、たまらなく安心するんだよね。
「いるかの手、小さいね」
「響が大きいのー!!」
そんな話をしていると、いつのまにか目的地にたどり着く。
暑いから飲み物を飲むことになって、いるかの提案でフードコートにあるジュースショップに寄ることにした。



