「うはー!!屋上ー!!」
「いるか、走ると危ないよ」
「うへー!!だいじょーぶだいじょーぶ!!」
なにが大丈夫なんだか、と思いながら彼女の声のする方へ進んでいく。
____18時半。
夕焼けの空が青くなってきた時間。
僕たちは待望の『屋上の天体観測』に来ていた。
「響ー!!はやくはやくっ!!」僕が屋上に着いた頃には、もう梯子の上まで登っていた。
「そこで観るの?」ここの、広いところを使わせてもらおうと思ってたのに。
「んぇえ!?違うのぉ!?」という声を聞いて、僕も梯子を登る。
「よーこそっ!!」嬉しそうないるかが出迎えてくれる。
「どうも」
その横に膝をついて、天体観測の準備を始める。まずはシートからだ。____なにもなかったので、先生が使っていないブルーシートを用意してくれた。
「うわーい!!」とそこにダイブするいるか。「ぷわっ!!」と変な鳴き声が聞こえた。どうやら鼻の頭をぶつけたらしい。
「‥‥‥‥お布団じゃないからね?」
「ち、ちょっとはしゃいじゃっただけ!!」と赤くなった鼻の頭を触っている。
「星、好きだねぇ」
「響だって」
「そうだね」相槌を打ちながら、なんだかくすぐったいような、嬉しいような気がした。
持ってきた椅子の上に、望遠鏡を取り付ける。
しばらくすると目が慣れてきて、藍色の中にぽつぽつと星が浮かんでいるのが肉眼でも見えてきた。
「わぁあ!!すごぉい!!」いるかは僕の横でずっと飛び跳ねている。
「響、部室と同じなんだね?」
「ん?」
「私、星ってこういうとこで、寝転んで観るものかなって思ってたの!!」そう言ってブルーシートに仰向けになる。
「いるか、見えてるよ、パンツ‥‥‥‥」
「うそっ!?」がば!!っと起き上がる。
「‥‥‥‥うそー」やっぱ面白いな。
「からかわないでよー!!」とほっぺたをフグみたいにしている。
「こっちのセリフなんですけど‥‥‥‥僕、男だよ」
「?‥‥‥だからなに?」
「なにって‥‥‥‥ちょっとは警戒しなよ」
「響、おじーちゃんだから、私が走ったら追いつけないのに‥‥‥‥」
「ぅ゙っ‥‥‥‥たしかに」それはそう。
「さっきのお返しー!!」けらけらと笑って、また寝転ぶ。僕に気を遣う気はないらしかった。
「今日は、流星群なんだって」
「えっ!?ほんとにっ!?」がば!!っと起き上がる。さっきから寝転んだり起き上がったり忙しいな。
「____だから、近いって」
「ふぁ、ごめんっ!!忘れてた!!」目の前の星空が、ぱっと離れる。
「なにを」一瞬でもどきっとしてしまうのを、本当にどうにかしたい。
「人との距離感、つかめないとこ‥‥‥‥」
「自覚あったんだ」
「そんなにグサグサ刺さなくてもいーじゃん‥‥‥」どうやら凹んでいるらしい。さっきまで揺れていた髪が、しおしおと悲しそうにしている。
「そういうの、気にしないタイプかと思ってた」いるかみたいな性格の人は。
「気にするよ‥‥‥‥だって、」
「なに?」
「____ううん、なんでもないっ!!」今日はなに観るの!?とはぐらかされてしまった。聞かれたくないみたいだ。
「やぎ座流星群。もしかしたら、放射点も見られるかも」
「ほーしゃーてん?」
「放射点。流れ星が1つの星を中心にして、そこから放射状に降ってきてるみたいに観える‥‥‥‥ってやつ」
太陽を描くときみたく、小さい円と、長い線を放射状に、空中に描く。
「ほぇ~‥‥‥‥」
「わかる?」
「うーんと??‥‥‥‥いっぱい観えそうだねっ!!」よく分かってなさそうだけど、いいか。
「たくさん観えるのは、もうちょっとあとかなぁ。深夜2時くらい」
「んぇぇえ〜!!」
「深夜がいちばん見頃だからね。今日は、早いところだと19時台から観れるみたい‥‥‥‥星、たくさん降ってくれるといいけど」
「観たい観たいっ!!神様お願いしますっ!!」いつの間にか、僕の横で正座になってお願いポーズをしていた。
「____よし、この辺でいいかな」
星座盤を見ながら望遠鏡を調整して、シートの上に横になる。そのままだと痛いので、持ってきた鞄を枕にした。
「んぇぇ、響だけずるーい!!」よじよじと、いるかも隣に寝転ぶ。
「ほんとだ。よく観えるね‥‥‥」
この位置だと、フェンスが邪魔にならない。視界いっぱいの藍色に、ちらちらと星が瞬いている。
「むふふ‥‥‥でっしょぉ〜!!」と横でいるかが得意げに言う。
「ナイス、いるか」
「んへへへぇ、それほどでもぉ〜!!あるけどっ!!」
____7月。
テストが終わってすぐ、「屋上使おう!!」という話になり。テスト休み明けの今日、屋上での天体観測をすることになった。
授業が終わってからずっといるかに「はやくはやく」とせがまれ。
今までの間、「響!!どうしよぉ!!赤点かも!!」と泣きつくいるかと一緒に、再試の勉強をしながら待っていた。
3組だから、僕とはコースが違うみたいで、初歩の内容だった。
だいぶヘロヘロになっていたけど、星空で元気を取り戻したらしい。
赤点、杞憂になればいいけど。



