碧と春    【ボカデュオ2025『 Azulight 』  原案・原作】





「こらー!!おと!!寝ない!!立って!!」


「寝てない!!休んでるの!!」


「もぉ!!今の(おと)じゃぁ、走ってるんじゃなくて早歩きだよ!!」


「ぅ゙っ‥‥‥‥‥!!」


「ほら、お水」


「ありがと‥‥‥‥‥」



ぷは、と飲み干したのを見て、
すかさず「もう1回だよ!!」と笑顔で言ういるか。なにこれ地獄すぎる。

女の子にコーチしてもらうのはもちろんだけど、僕の体力のなさが地獄すぎる。

「体力がおじいちゃん」と言われるのも、今なら分かる。
僕、やっぱりおじいちゃんかも…‥‥‥。




僕の「色別対抗リレーに選ばれた」という言葉を聞いてすぐ、「じゃぁ、特訓しないと!!」と言い出して、これである。

体力ないっていうのに、スポーツ部用のランニングコースを走らされる羽目になるとは‥‥‥。
体育の持久走だって、終わったあと溶けそうなくらいだというのに。



「うーん、ここじゃあ無理かぁ‥‥‥」ランニングコースに五体投地している僕を見下ろして、彼女が言う。




「じゃあ、僕は帰るね‥‥‥」


「おーと♪」


「‥‥‥‥はい」いつもの笑顔が怖い。


「じゃ、(おと)がやりやすいとこにしよ!!コースも、ここだと距離が長くて休みにくいし‥‥‥‥」


「うん、そうだね」僕がつらいことはわかってくれたらしい。


「んじゃ、(おと)!!星観に行こ!!」



____そして、冒頭である。







「むっ、むり、もう休ませて‥‥‥‥」


「あと300mだよ!!」とスマホの位置情報をこちらに向けてくる。




「無理です‥‥‥‥」なんとか五体投地は免れているものの、もう僕の脚はガクガクで動けそうにない。

近くにあった住宅の、比較的綺麗そうな壁に手をついて息を整える。




「んもー、体力ないんだからー」


「いるかは、ありす、ぎ、だよ‥‥‥‥」


「んぇー」つまらなそうに声を上げたあと、心配そうに僕を見つめてくる。




「んじゃ、一緒に歩く?」


「そうしてくださると助かります」


「あは、なんで敬語?」言いながら、僕の手を引っ張ってくる。その勢いに、危うく転びそうになりながらなんとか耐える。

僕が転んだら、いるかを押しつぶしてしまう。




「ほらー、行くよー」


「‥‥‥‥はい」


「なんか、犬の散歩してるみたいー」ぶんぶんと手を大きく振り上げて、僕の前で白が揺れる。
僕の方は、へっぴり腰でなんだか情けなくなる。




(おと)はぁー、わんちゃんだったらぁ、ゴールデンレトリバーとかかなー?」なんて言っている。


「いるかは、チワワだよね」


「えー?私そんなかわいいの!?」


「かわいいっていうか、ちいさいし、細いし、折れそうだし‥‥‥‥」


「見た目の問題っ!?」


「まぁ‥‥‥‥」あと、僕は白くて小さい犬の種類を、そのくらいしか知らない。


「いろいろあるじゃん!!トイプードルとか!!マルチーズとか!!」言いながら、液晶画面を見せてくる。いるかと同じ、白くてふわふわした毛の犬がたくさん映っている。


「ふわふわしてるのがいいの?」


「そういうのじゃないけど!!」


「どっちかっていうと、いるかは‥‥‥うさぎっぽいかも」


「うさぎ?」


「ずーっと跳ねてるし、髪もふわふわしてて、なんか耳っぽいし」


「うさぎかぁー!!」そう言って、いるかは僕を見て、嬉しそうに跳ねている。

楽しそうだな、と思う。





「ついたよ!!」


「ついたね‥‥‥」


「練習は、ここにしよ!!」


いるかが僕の練習コースに選んだのは、この前教えたばかりの星見台だった。
学校からここまではそれほど遠くないけど、今まで走ろうとまでは思わなかった。


全身が重たくなって、東屋に寝転ぶ。

上から、「えぇー、響、寝ちゃうのー??」と見下ろしてくる。


「疲れた」


「んぇぇー、これからなのにー!!」1人で星観ちゃうよ!!と東屋から出ていく。



ずるい。そんなこと言われたら、僕だって観たいのに。


「____っぷは」ペットボトルの水を飲み干して、ぼんやりとした視界が、スマホの星図と格闘している彼女を映す。

猛烈な眠気が襲ってきて、僕はまたベンチに寝転んだ。