「こらー!!おと!!寝ない!!立って!!」
「寝てない!!休んでるの!!」
「もぉ!!今の響じゃぁ、走ってるんじゃなくて早歩きだよ!!」
「ぅ゙っ‥‥‥‥‥!!」
「ほら、お水」
「ありがと‥‥‥‥‥」
ぷは、と飲み干したのを見て、
すかさず「もう1回だよ!!」と笑顔で言ういるか。なにこれ地獄すぎる。
女の子にコーチしてもらうのはもちろんだけど、僕の体力のなさが地獄すぎる。
「体力がおじいちゃん」と言われるのも、今なら分かる。
僕、やっぱりおじいちゃんかも…‥‥‥。
僕の「色別対抗リレーに選ばれた」という言葉を聞いてすぐ、「じゃぁ、特訓しないと!!」と言い出して、これである。
体力ないっていうのに、スポーツ部用のランニングコースを走らされる羽目になるとは‥‥‥。
体育の持久走だって、終わったあと溶けそうなくらいだというのに。
「うーん、ここじゃあ無理かぁ‥‥‥」ランニングコースに五体投地している僕を見下ろして、彼女が言う。
「じゃあ、僕は帰るね‥‥‥」
「おーと♪」
「‥‥‥‥はい」いつもの笑顔が怖い。
「じゃ、響がやりやすいとこにしよ!!コースも、ここだと距離が長くて休みにくいし‥‥‥‥」
「うん、そうだね」僕がつらいことはわかってくれたらしい。
「んじゃ、響!!星観に行こ!!」
____そして、冒頭である。
「むっ、むり、もう休ませて‥‥‥‥」
「あと300mだよ!!」とスマホの位置情報をこちらに向けてくる。
「無理です‥‥‥‥」なんとか五体投地は免れているものの、もう僕の脚はガクガクで動けそうにない。
近くにあった住宅の、比較的綺麗そうな壁に手をついて息を整える。
「んもー、体力ないんだからー」
「いるかは、ありす、ぎ、だよ‥‥‥‥」
「んぇー」つまらなそうに声を上げたあと、心配そうに僕を見つめてくる。
「んじゃ、一緒に歩く?」
「そうしてくださると助かります」
「あは、なんで敬語?」言いながら、僕の手を引っ張ってくる。その勢いに、危うく転びそうになりながらなんとか耐える。
僕が転んだら、いるかを押しつぶしてしまう。
「ほらー、行くよー」
「‥‥‥‥はい」
「なんか、犬の散歩してるみたいー」ぶんぶんと手を大きく振り上げて、僕の前で白が揺れる。
僕の方は、へっぴり腰でなんだか情けなくなる。
「響はぁー、わんちゃんだったらぁ、ゴールデンレトリバーとかかなー?」なんて言っている。
「いるかは、チワワだよね」
「えー?私そんなかわいいの!?」
「かわいいっていうか、ちいさいし、細いし、折れそうだし‥‥‥‥」
「見た目の問題っ!?」
「まぁ‥‥‥‥」あと、僕は白くて小さい犬の種類を、そのくらいしか知らない。
「いろいろあるじゃん!!トイプードルとか!!マルチーズとか!!」言いながら、液晶画面を見せてくる。いるかと同じ、白くてふわふわした毛の犬がたくさん映っている。
「ふわふわしてるのがいいの?」
「そういうのじゃないけど!!」
「どっちかっていうと、いるかは‥‥‥うさぎっぽいかも」
「うさぎ?」
「ずーっと跳ねてるし、髪もふわふわしてて、なんか耳っぽいし」
「うさぎかぁー!!」そう言って、いるかは僕を見て、嬉しそうに跳ねている。
楽しそうだな、と思う。
「ついたよ!!」
「ついたね‥‥‥」
「練習は、ここにしよ!!」
いるかが僕の練習コースに選んだのは、この前教えたばかりの星見台だった。
学校からここまではそれほど遠くないけど、今まで走ろうとまでは思わなかった。
全身が重たくなって、東屋に寝転ぶ。
上から、「えぇー、響、寝ちゃうのー??」と見下ろしてくる。
「疲れた」
「んぇぇー、これからなのにー!!」1人で星観ちゃうよ!!と東屋から出ていく。
ずるい。そんなこと言われたら、僕だって観たいのに。
「____っぷは」ペットボトルの水を飲み干して、ぼんやりとした視界が、スマホの星図と格闘している彼女を映す。
猛烈な眠気が襲ってきて、僕はまたベンチに寝転んだ。



