私は前世で「仕事が出来ない人間」として会社から認識されていた。昔から物事を覚えるのが苦手で、1つのことに注力すると他のことを忘れてしまう。善意でやろうとしたことが空回りしたことも多々あった。社会人4年目なのにもかかわらず、研修で教えていた後輩に業績を追い抜かされたときは一晩中自分を罵り泣いた。よくクビにならなかったなと思う。
(やっぱり私は転生しても失敗ばかりだな。)
「…ほ、本当に申し訳ございませんでした、お父様。お怪我はございませんか?」
1人の人間に猛スピードで体当りされたのだ。痛かったに決まっている。今はシャーロットのことについて質問できる雰囲気ではなさそうだ。もしかしたらシャーロットの話題をストレートに出したら、公爵がどの場合でも好感度が低くなるかもしれない。
◯ツンデレだった場合
「気に入らんからといってシャーロット嬢のせいにするつもりか!!我が娘ながら一族の恥だ!でていけ!!!」
◯シャーロットを嫌いだった場合
「ただでさえお前のせいで今かなり気分が悪いのに、あんな小娘の話題をそこにかぶせるつもりか?!」
(ここはシャーロットのことは抜きにして、走ってた理由を軽く説明してさっさと戻ろう。)
「実は…まだ確定ではないんですけど、えっと…悪い人?動物?が公爵邸の敷地に入り込んだ可能性があるので、それを確かめるために、ほ、奔走しておりました…!」
緊張しすぎてめちゃくちゃ噛んだりつっかえたりしてしまった。
「それは本当か?『また』お前が厄介事を起こしたのではあるまいな??」
またとは…?とても呆れられているみたいだ。元々のイザベラはそんなにやばい人間だったのだろうか。ここは適当に謝っておこう。
「今まで犯した過ちについては深く反省しております。今後は失敗を活かし、フィルナーレ公爵家の娘として恥ずかしくないよう精一杯の努力をしていく所存です。いつかお父様やお兄様の仕事も手伝いたいと思っておりますゆえ、お手すきの際にお仕事を教えていただけたら幸いです。それでは着替えのため部屋に戻らせていただきます。失礼致します。」
最後に、対策講座でみっちり教わった微笑みを添え、会釈をして立ち去った。
(イザベラは昨日から一体どうしたんだ…。突然気が狂ったのか?あいつ何故か謝罪の言葉だけ恐ろしく流暢だったぞ…。)
唖然とした顔で公爵がイザベラの背中を見送る。そしてこう思う。あの最後の引きつった笑顔は何だったんだと──。うまく切り抜けられたとウキウキしているイザベラは知る由もなかったが。
(うわあああ!!ザ・異世界って感じの町だー!!)
心の中で叫ぶ。ここは公爵邸から見下ろせる賑やかな通りだ。ネットで見たドイツの街並みを思い出す。
(シャーロットの話題は夕食の時に出すとして…。この世界に魔法という存在があるか確かめないと。)
別にそれくらい使用人にでも聞けば一発で分かるのだが、まだ公爵邸に慣れてないし、ジョシュアに会いに来たシャーロットに鉢合わせたら絶対めんどくさい。それに国をよく知るには庶民の暮らしを見るのが一番だ。
「新聞だよー!最新の新聞は入りませんかー!!」
向こうで少年が新聞を売っているようだ。
「買います〜。」
「毎度あり!どの新聞社にしますか?」
「うーん、とりあえず普通の大手のものと…、あとゴシップ誌なんてありますか??」
「たくさんありますよ、大手から小規模のものまで!ゴシップはみんな大好きですから。」
「じゃあ全部の出版社のを1部ずついただきます!ありがとうございました。」
ゴシップ誌はきちんと裏がとれていない情報を流すこともあるが、圧力に屈せずバンバン世間で噂になっていることを流していて、この世界のことを知るのにちょうどいいと思ったからだ。それに前世でも好きだったし。
1面を飾っている《スクープ!フィルナーレ小公爵とキャンベル伯爵令嬢、結婚間近?!》の記事をスルーして中の記事を読んでいくと、広告欄に《魔法使い管理局からのお知らせ》というのがあった。
《現在密輸された生分解性魔力の不正取引が横行しております。違法魔力識別サービスをご利用される方はお気軽に管理局までお越しください。また不審者・不審物等を見かけましたら近づかず、高速魔法郵便にてご連絡ください。》
厳かな感じの建物の写真とともにこう書いてある。この建物がきっと魔法使い管理局なのだろう。そして人々にとって魔法が身近な存在であることが分かる。でも多くの人々は魔法を使える感じでは無さそうだ。見ている限りごくごく普通の一般人。
でも魔法使い管理局がある世界だから、どこかに魔法関連のショップでもあるだろう。そう思って町を歩いていると、ダリア魔法百貨店という看板が目に入った。
「いらっしゃい。珍しいお客さんだね。」
中に入るとめちゃくちゃ普通な感じのおじいさんが出てきた。
「すみません。初めて来たんですけど、ここはどんなお店なんですか?」
「普通の小さな魔法関連物取扱店だよ。でもね、他の店より品揃えは豊富さ。奥に黒魔法関連の書籍なんかもある。この店を開いた妻のダリアは魔法の扱いに優れていたんだ、もう亡くなってしまったけれどもね。」
黒魔法か。クレイヴン先生が、黒魔法を使ったと濡れ衣を着せられることはよくあると言っていた。それにわざわざこの物語の作者が魔法の要素を入れたのには、何か意味があるのだろう。用心するに越したことはない。
「ところで…お前さんこの世界の人間ではないだろう?転生者なんて初めて見たよ。」
おじいさんの目が鋭くなったような気がした。店に入った時に言われた、「珍しいお客さんだね。」は客がこの店に来るのが珍しいのではなく、転生者だとわかったうえでの発言だったのか。
(このおじいさん…何者…?)
一方、天界にある天空省 霊魂管理部 別次元転生課──。
「お前、しばらくの間停職。」
上級神オルシスは、お馴染みの失礼下級神じじいの上司である。
「お前が担当している例のイザベラの件で、自分の失敗にも関わらず、講師への給料を国庫から横領しようとした。そこで昨日厳重注意をされたにも関わらず、今日は地獄にいる犯罪者集団が運営する闇金に手を出そうとした。よって許可が出るまで停職とする。」
「一ヶ月にこんな値段なんて払えるわけがないじゃないですか!」
「違法サービスとして取り締まられていないんだ、後から申告するにしても今は金をきっちり払わなければ。ああそうだ、停職の間は俺がイザベラの件を担当し、特別に金を代わりに払ってやる。もちろん利子はつけさせてもらうがな。」
「ありがとうございますオルシス課長!!」
失礼下級神じじいが去っていったあと、オルシスは席を立ち、そしてガッツポーズをした。
「あー快感!!!!こういう上司っぽいことしてみたかったんだよなー!!!」
パラリと転生記録を開く。そのページにはイザベラの顔写真や物語のことが詳しく書いてある。
「ようやく、ここまでこれた。」
小さくつぶやいて、窓の下に広がる天界を見下ろした。
(やっぱり私は転生しても失敗ばかりだな。)
「…ほ、本当に申し訳ございませんでした、お父様。お怪我はございませんか?」
1人の人間に猛スピードで体当りされたのだ。痛かったに決まっている。今はシャーロットのことについて質問できる雰囲気ではなさそうだ。もしかしたらシャーロットの話題をストレートに出したら、公爵がどの場合でも好感度が低くなるかもしれない。
◯ツンデレだった場合
「気に入らんからといってシャーロット嬢のせいにするつもりか!!我が娘ながら一族の恥だ!でていけ!!!」
◯シャーロットを嫌いだった場合
「ただでさえお前のせいで今かなり気分が悪いのに、あんな小娘の話題をそこにかぶせるつもりか?!」
(ここはシャーロットのことは抜きにして、走ってた理由を軽く説明してさっさと戻ろう。)
「実は…まだ確定ではないんですけど、えっと…悪い人?動物?が公爵邸の敷地に入り込んだ可能性があるので、それを確かめるために、ほ、奔走しておりました…!」
緊張しすぎてめちゃくちゃ噛んだりつっかえたりしてしまった。
「それは本当か?『また』お前が厄介事を起こしたのではあるまいな??」
またとは…?とても呆れられているみたいだ。元々のイザベラはそんなにやばい人間だったのだろうか。ここは適当に謝っておこう。
「今まで犯した過ちについては深く反省しております。今後は失敗を活かし、フィルナーレ公爵家の娘として恥ずかしくないよう精一杯の努力をしていく所存です。いつかお父様やお兄様の仕事も手伝いたいと思っておりますゆえ、お手すきの際にお仕事を教えていただけたら幸いです。それでは着替えのため部屋に戻らせていただきます。失礼致します。」
最後に、対策講座でみっちり教わった微笑みを添え、会釈をして立ち去った。
(イザベラは昨日から一体どうしたんだ…。突然気が狂ったのか?あいつ何故か謝罪の言葉だけ恐ろしく流暢だったぞ…。)
唖然とした顔で公爵がイザベラの背中を見送る。そしてこう思う。あの最後の引きつった笑顔は何だったんだと──。うまく切り抜けられたとウキウキしているイザベラは知る由もなかったが。
(うわあああ!!ザ・異世界って感じの町だー!!)
心の中で叫ぶ。ここは公爵邸から見下ろせる賑やかな通りだ。ネットで見たドイツの街並みを思い出す。
(シャーロットの話題は夕食の時に出すとして…。この世界に魔法という存在があるか確かめないと。)
別にそれくらい使用人にでも聞けば一発で分かるのだが、まだ公爵邸に慣れてないし、ジョシュアに会いに来たシャーロットに鉢合わせたら絶対めんどくさい。それに国をよく知るには庶民の暮らしを見るのが一番だ。
「新聞だよー!最新の新聞は入りませんかー!!」
向こうで少年が新聞を売っているようだ。
「買います〜。」
「毎度あり!どの新聞社にしますか?」
「うーん、とりあえず普通の大手のものと…、あとゴシップ誌なんてありますか??」
「たくさんありますよ、大手から小規模のものまで!ゴシップはみんな大好きですから。」
「じゃあ全部の出版社のを1部ずついただきます!ありがとうございました。」
ゴシップ誌はきちんと裏がとれていない情報を流すこともあるが、圧力に屈せずバンバン世間で噂になっていることを流していて、この世界のことを知るのにちょうどいいと思ったからだ。それに前世でも好きだったし。
1面を飾っている《スクープ!フィルナーレ小公爵とキャンベル伯爵令嬢、結婚間近?!》の記事をスルーして中の記事を読んでいくと、広告欄に《魔法使い管理局からのお知らせ》というのがあった。
《現在密輸された生分解性魔力の不正取引が横行しております。違法魔力識別サービスをご利用される方はお気軽に管理局までお越しください。また不審者・不審物等を見かけましたら近づかず、高速魔法郵便にてご連絡ください。》
厳かな感じの建物の写真とともにこう書いてある。この建物がきっと魔法使い管理局なのだろう。そして人々にとって魔法が身近な存在であることが分かる。でも多くの人々は魔法を使える感じでは無さそうだ。見ている限りごくごく普通の一般人。
でも魔法使い管理局がある世界だから、どこかに魔法関連のショップでもあるだろう。そう思って町を歩いていると、ダリア魔法百貨店という看板が目に入った。
「いらっしゃい。珍しいお客さんだね。」
中に入るとめちゃくちゃ普通な感じのおじいさんが出てきた。
「すみません。初めて来たんですけど、ここはどんなお店なんですか?」
「普通の小さな魔法関連物取扱店だよ。でもね、他の店より品揃えは豊富さ。奥に黒魔法関連の書籍なんかもある。この店を開いた妻のダリアは魔法の扱いに優れていたんだ、もう亡くなってしまったけれどもね。」
黒魔法か。クレイヴン先生が、黒魔法を使ったと濡れ衣を着せられることはよくあると言っていた。それにわざわざこの物語の作者が魔法の要素を入れたのには、何か意味があるのだろう。用心するに越したことはない。
「ところで…お前さんこの世界の人間ではないだろう?転生者なんて初めて見たよ。」
おじいさんの目が鋭くなったような気がした。店に入った時に言われた、「珍しいお客さんだね。」は客がこの店に来るのが珍しいのではなく、転生者だとわかったうえでの発言だったのか。
(このおじいさん…何者…?)
一方、天界にある天空省 霊魂管理部 別次元転生課──。
「お前、しばらくの間停職。」
上級神オルシスは、お馴染みの失礼下級神じじいの上司である。
「お前が担当している例のイザベラの件で、自分の失敗にも関わらず、講師への給料を国庫から横領しようとした。そこで昨日厳重注意をされたにも関わらず、今日は地獄にいる犯罪者集団が運営する闇金に手を出そうとした。よって許可が出るまで停職とする。」
「一ヶ月にこんな値段なんて払えるわけがないじゃないですか!」
「違法サービスとして取り締まられていないんだ、後から申告するにしても今は金をきっちり払わなければ。ああそうだ、停職の間は俺がイザベラの件を担当し、特別に金を代わりに払ってやる。もちろん利子はつけさせてもらうがな。」
「ありがとうございますオルシス課長!!」
失礼下級神じじいが去っていったあと、オルシスは席を立ち、そしてガッツポーズをした。
「あー快感!!!!こういう上司っぽいことしてみたかったんだよなー!!!」
パラリと転生記録を開く。そのページにはイザベラの顔写真や物語のことが詳しく書いてある。
「ようやく、ここまでこれた。」
小さくつぶやいて、窓の下に広がる天界を見下ろした。

