「あなたは洞察力がなさすぎる!!」
授業開始早々お説教を食らう。ここは私が前世の学生時代に使っていた教室だ。私の記憶を元に作られたものらしい。
「悪役令嬢にはじっくり相手の行動を注視し、弱点を突き止め、徹底的に叩く力が不可欠。まずは物事をよく見る目と、それを理解する頭を身に付けないといけない。それによっていち早くフラグを見つけて回避するのよ。」
確かに悪役令嬢って頭が良いことが多いように感じる。だからうまく世の中を立ち回って痛快な復讐劇を繰り広げることができるのか。SNSで、爽快!って話題になってたのがわかるかも。
「あなたは昼間のんきに庭を散歩していたみたいだけれど、気にかけるべきことがしっかりあったわよ。どれがそれだか分かる?」
黒板に文字が浮かび上がる。
【問題】次の選択肢の中からイザベラが気にかけるべきことを選びなさい。
①朝食の場で父親(公爵)が無愛想だった。
②庭にいた猫。
③シャーロットとジョシュアの逢瀬。
「うーん…やっぱり③ですか?シャーロットはジョシュアを味方につけることで、家族をバラバラにさせつつイザベラに近づこうとしていると思うので…。黒幕だったらそういうこと考えそうですから。」
「それも正解。だけど正解は全部よ。完答問題だから残念だったわね。」
【解説】
①ジョシュアと結婚して義娘となる可能性がある人が来ている場で、全く話すことがなくずっと堅苦しい顔をしているということは、シャーロットのことを何とも思ってない、もしくは少し嫌悪感を抱いている可能性がある。つまりこちら側につけることが出来るかもしれない人物であることを意味する。
「公爵はイザベラを守ることができる権力を持っているわ。この人は一刻でも早く取り込むべきだし、この人が向こう側についたら一気に不利になる。急いで公爵の好感度を高めるべきよ。」
「なるほど…人の顔色をよく見て、どっちの陣営かを見極めるんですね!」
「ただ、この世には『ツンデレ』という性格の人間がいるの。むずかしい顔して心の中でシャーロットを溺愛してたら終わりね。」
「はあ?!そしたらどうすれば?!」
「それを確かめるのが今回の宿題!!!明日までにやりなさい!!」
(スパルタだ……!)
早くも少し嫌になってきて月謝1億なんて詐欺かもしれないと思ったが、きっと成長できると信じたくて素直に頷いた。まあ、詐欺でもあの神がお金払ってくれてるんだし。
②この猫に関しては、違和感に気付けるかが重要。野良猫は外で生活していることが多いため、少なからず汚れが付いていたりするはず。それにも関わらず「美しい毛並み」を持っている点が引っかかる。また、シャーロットの元へ行っている点から、訓練されて諜報活動に使われているor手下が化けている可能性がある。
「あんたは可愛い猫を追いかけたつもりかもしれないけど、中身はどす黒い魔力を持つ黒魔法師かもね。悪役令嬢の世界では、黒魔法を使ったと濡れ衣を着せられるのは結構定番だから。テストにもよく出るわよ。」
そう言いながらクレイヴンは少しだけ悲しそうな顔をした。
「…日々皆さん大変なんですね…。てかこの世界って魔法あるんですか?」
「私達フラグ対策講座の教師陣は、どんな場面にも対処できる力を伸ばすだけで物語の展開を教えるわけじゃない。だからそんなの知らないわ。それも明日自分で確かめなさい。ただ西洋を舞台とした悪役令嬢ストーリーではよく出てくるってだけ。」
質問1つで課題が2つに増えてしまった。
③周りに草木が生い茂っていて暗くなっているということは、他の建物から距離が離れていたりあまり見えないようになっていることが分かる。公爵邸の中ではなくわざわざ薄暗い小さな建物に来るということは何かやましいことがあったり、公爵(父親)と夫人(母親)に見つかると気まずい理由がある可能性が高い。
「あなた、ゼエゼエしながら自分の部屋に戻っていたでしょう?距離が遠かったんじゃない?」
「…確かにそうでした!」
「はぁ…。あと1年半で立派な悪役令嬢になれるのかしら…。」
「すみません(泣)」
「すぐ頭を下げるなと言ったでしょう?あとあなたは感情を表に出しすぎ。貴婦人らしく、常に静かに美しく微笑まないと。」
クレイヴン先生も思いっきり感情出てるじゃないですか、と言いそうになったが慌てて飲み込んだ。
「ほら、美しく笑ってみて。」
頑張ってお淑やかに口角をあげようとするのだが、私は昔から作り笑いが下手くそすぎてどうしても引きつってしまう。
「違う!ちがうちがうちがう!!(ニコッ♡)こうよ!!もう1回!」
「(ニコォ…)こうですか?」
「違う!もっと自然に!もう1回!!」
「(ニコォ…)」
このやり取りを何回繰り返したのだろう。朝までずっとやらされた。
「ふんっ、まだまだ下手くそだけど今回はこれで許してあげる。あと明日、課題やってこなかったらヒールで足の指をグリグリするから。」
ああ…、痛いやつだ…。
やっとクレイヴン先生から解放されて起き、何気なく朝日に照らされている外を見る。
(あっ、こいつ対策講座でやった奴だ!)
窓際にあの猫がいたのだ。この部屋は一階だから、私が気づいたと同時にビュンッ!と全速力で庭に逃げていってしまう。
「待てっ!」
ベランダから庭に出ようと柵を全力で飛び越える。学生時代、陸上部でハードルをやっていた私をなめるな。
(絶対に捕まえてやる…!!!)
庭をパジャマ姿で走っていると、猫に気を取られて誰かにぶつかってしまった。
「なんだ危ないな!ちゃんと前を見ろ!……ってイザベラか?」
終わった。課題クリアできそうにない。というか復讐成功に早くも暗雲がかかってしまった気がする。なんと公爵に体当たりしてしまったのだ。
先生から令嬢は常に美しくと教わったのに、猫のせいですっかり忘れていたことをひどく後悔する。
(絶対好感度爆下がりじゃん…!!)
次の授業で先生から足の指をグリグリ、いやもはやヒールでねじ切られることを覚悟した。公爵の顔はすごく厳しい顔をしている。
……どうしよう、まじで。
授業開始早々お説教を食らう。ここは私が前世の学生時代に使っていた教室だ。私の記憶を元に作られたものらしい。
「悪役令嬢にはじっくり相手の行動を注視し、弱点を突き止め、徹底的に叩く力が不可欠。まずは物事をよく見る目と、それを理解する頭を身に付けないといけない。それによっていち早くフラグを見つけて回避するのよ。」
確かに悪役令嬢って頭が良いことが多いように感じる。だからうまく世の中を立ち回って痛快な復讐劇を繰り広げることができるのか。SNSで、爽快!って話題になってたのがわかるかも。
「あなたは昼間のんきに庭を散歩していたみたいだけれど、気にかけるべきことがしっかりあったわよ。どれがそれだか分かる?」
黒板に文字が浮かび上がる。
【問題】次の選択肢の中からイザベラが気にかけるべきことを選びなさい。
①朝食の場で父親(公爵)が無愛想だった。
②庭にいた猫。
③シャーロットとジョシュアの逢瀬。
「うーん…やっぱり③ですか?シャーロットはジョシュアを味方につけることで、家族をバラバラにさせつつイザベラに近づこうとしていると思うので…。黒幕だったらそういうこと考えそうですから。」
「それも正解。だけど正解は全部よ。完答問題だから残念だったわね。」
【解説】
①ジョシュアと結婚して義娘となる可能性がある人が来ている場で、全く話すことがなくずっと堅苦しい顔をしているということは、シャーロットのことを何とも思ってない、もしくは少し嫌悪感を抱いている可能性がある。つまりこちら側につけることが出来るかもしれない人物であることを意味する。
「公爵はイザベラを守ることができる権力を持っているわ。この人は一刻でも早く取り込むべきだし、この人が向こう側についたら一気に不利になる。急いで公爵の好感度を高めるべきよ。」
「なるほど…人の顔色をよく見て、どっちの陣営かを見極めるんですね!」
「ただ、この世には『ツンデレ』という性格の人間がいるの。むずかしい顔して心の中でシャーロットを溺愛してたら終わりね。」
「はあ?!そしたらどうすれば?!」
「それを確かめるのが今回の宿題!!!明日までにやりなさい!!」
(スパルタだ……!)
早くも少し嫌になってきて月謝1億なんて詐欺かもしれないと思ったが、きっと成長できると信じたくて素直に頷いた。まあ、詐欺でもあの神がお金払ってくれてるんだし。
②この猫に関しては、違和感に気付けるかが重要。野良猫は外で生活していることが多いため、少なからず汚れが付いていたりするはず。それにも関わらず「美しい毛並み」を持っている点が引っかかる。また、シャーロットの元へ行っている点から、訓練されて諜報活動に使われているor手下が化けている可能性がある。
「あんたは可愛い猫を追いかけたつもりかもしれないけど、中身はどす黒い魔力を持つ黒魔法師かもね。悪役令嬢の世界では、黒魔法を使ったと濡れ衣を着せられるのは結構定番だから。テストにもよく出るわよ。」
そう言いながらクレイヴンは少しだけ悲しそうな顔をした。
「…日々皆さん大変なんですね…。てかこの世界って魔法あるんですか?」
「私達フラグ対策講座の教師陣は、どんな場面にも対処できる力を伸ばすだけで物語の展開を教えるわけじゃない。だからそんなの知らないわ。それも明日自分で確かめなさい。ただ西洋を舞台とした悪役令嬢ストーリーではよく出てくるってだけ。」
質問1つで課題が2つに増えてしまった。
③周りに草木が生い茂っていて暗くなっているということは、他の建物から距離が離れていたりあまり見えないようになっていることが分かる。公爵邸の中ではなくわざわざ薄暗い小さな建物に来るということは何かやましいことがあったり、公爵(父親)と夫人(母親)に見つかると気まずい理由がある可能性が高い。
「あなた、ゼエゼエしながら自分の部屋に戻っていたでしょう?距離が遠かったんじゃない?」
「…確かにそうでした!」
「はぁ…。あと1年半で立派な悪役令嬢になれるのかしら…。」
「すみません(泣)」
「すぐ頭を下げるなと言ったでしょう?あとあなたは感情を表に出しすぎ。貴婦人らしく、常に静かに美しく微笑まないと。」
クレイヴン先生も思いっきり感情出てるじゃないですか、と言いそうになったが慌てて飲み込んだ。
「ほら、美しく笑ってみて。」
頑張ってお淑やかに口角をあげようとするのだが、私は昔から作り笑いが下手くそすぎてどうしても引きつってしまう。
「違う!ちがうちがうちがう!!(ニコッ♡)こうよ!!もう1回!」
「(ニコォ…)こうですか?」
「違う!もっと自然に!もう1回!!」
「(ニコォ…)」
このやり取りを何回繰り返したのだろう。朝までずっとやらされた。
「ふんっ、まだまだ下手くそだけど今回はこれで許してあげる。あと明日、課題やってこなかったらヒールで足の指をグリグリするから。」
ああ…、痛いやつだ…。
やっとクレイヴン先生から解放されて起き、何気なく朝日に照らされている外を見る。
(あっ、こいつ対策講座でやった奴だ!)
窓際にあの猫がいたのだ。この部屋は一階だから、私が気づいたと同時にビュンッ!と全速力で庭に逃げていってしまう。
「待てっ!」
ベランダから庭に出ようと柵を全力で飛び越える。学生時代、陸上部でハードルをやっていた私をなめるな。
(絶対に捕まえてやる…!!!)
庭をパジャマ姿で走っていると、猫に気を取られて誰かにぶつかってしまった。
「なんだ危ないな!ちゃんと前を見ろ!……ってイザベラか?」
終わった。課題クリアできそうにない。というか復讐成功に早くも暗雲がかかってしまった気がする。なんと公爵に体当たりしてしまったのだ。
先生から令嬢は常に美しくと教わったのに、猫のせいですっかり忘れていたことをひどく後悔する。
(絶対好感度爆下がりじゃん…!!)
次の授業で先生から足の指をグリグリ、いやもはやヒールでねじ切られることを覚悟した。公爵の顔はすごく厳しい顔をしている。
……どうしよう、まじで。

