電車は、大きな川にかかる橋梁を越え、気が付いたら、いなべ市に入っていた。
 山沿いの緑の光景が広がる。
 犯人は車両の一番前に突っ立って、常に銃口を私たちに向けていた。
「よーし、それじゃあ、そろそろクイズの続きをするかへ」
 時計を見ながら、犯人はクイズを出題しようとしている。

 また、誰かが、殺されるかもしれない。

「第2問。奥岡は、ハイキング部の誰かの指示に従って、自分が拓磨からいじめられている、と周りや学校に訴えた。それなのに調査機関がいじめの実態調査に乗り出すと、ソイツは裏切って『いじめなんてない。奥岡が嘘をついているだけ』と言い出した。その醜い裏切り者はだーれだ?」

「そもそも、オレは奥岡をいじめたりなんかしない。それなのに、奥岡が嘘を突き出したからおかしいとは思っていた。……誰かが奥岡を操っていたということか」
 拓磨先輩は落ち込んでいた。そして、全員の顔を見る。
 犯人の言っていることが正しければ、この中に裏切り者がいる。
 少なくとも私と拓磨先輩は違うし、……奥岡先輩と接点がなかった建松くんも違うだろう。
 すると、……春奈先輩!?

「考える時間は5分だ。時間がきたら、裏切り者だと思う奴をせーの、の合図で指差せ」
 犯人は銃口を私たちに向けたまま、車両のシートに座った。

「どういうこと? そんな……。奥岡くんが操られていたなんて……酷い」
 春奈先輩は、悲しい表情になった。
 これって、演技?
 私たちを騙そうとしてる?

「拓磨、私はそんなことしてないよ。だって、奥岡くるとは昔からの友だちだもん」
 春奈先輩は、急に拓磨先輩にすり寄る。
「オレも違いますよ。そもそも、オレ、奥岡先輩のこと、知らないですもん」
 建松くんの言うことは、もっともだ。
「私も違います!部活で何度か奥岡先輩とは喋ったことはありますけど、深くは知りません」

「オレは誰も疑いたくない。この中に、あの犯人が言うように裏切り者がホントにいるなら、正直に言って欲しい」
 拓磨先輩は、困り果てた顔つきで言う。

「そういえば、さ。奥岡くんて、すごい好きな女子がいたらしいね」
 春奈先輩の声つきが、急に変わった。とても攻撃的だ。

「ねえ、拓磨も知ってるでしょ? 奥岡くんが好きな女の子は誰か?」
「ああ。奥岡から相談されたこともある」
「だからって、そんな奥岡くんの気持ちを利用するなんて、あまりにも酷いんじゃないかしら。……真帆ちゃん?」

 え? ええ? 私?
 奥岡先輩が私のこと、好きだった?
 そして、私が疑われているの?

「私のこと、奥岡先輩がそんな風に思っていたなんて、初めて知りましたし、当たり前ですけど、操ったりなんてしてません!」
 私は必死で弁解する。
 建松くんも、私を怪しんでいて、つらい。

「は? 奥岡くんの気持ち、知らなかったっていうの?」
「はい!」
「奥岡くんが退部する直前、真帆ちゃんに『好き』って告ったでしょ?」
 え?
 記憶をたどっていくと、……あ、アレ?

「確か、『オレは真帆さんが好きだ』って一度言われたことがあるけど、それは人として印象がいいって意味だと思っていました」
「はあ? なんてあざといの? そりゃあ、好きな女子に言われたら、奥岡は何でも言うことを聞くよね」
 春奈先輩は、どんどん私を追い詰めていく。

「違います。信じてください!」
 私は拓磨先輩に訴える。拓磨先輩は困っていた。

 春奈先輩、許せない。
 この人がきっと裏切ったんだ。
 でも、拓磨先輩と建松くんは信じてくれるだろうか?

「しゅーりょーっ!」
 犯人は、私たちに近付いてくる。

「ここに円になって立て。今から、せーの、って言うから、裏切り者だと思う奴を指差せ。いいな」
 ついに、この時がきた。
 怖い。
 私が陥れられようとしている。
 お願い、拓磨先輩、建松くん。信じて!
 あ、春奈先輩……笑ってる。
 勝ったつもりになってる。

「じゃあ、いくぞ。せーの!」

 怖くて私は目を閉じて、春奈先輩を指差した。
 拓磨先輩と建松くんは、どうだろうか?

 おそるおそる、目を開ける。
 すると、拓磨先輩も建松くんも、春奈先輩を指差していた。
 そして、春奈先輩は、……自分自身を指差している!

「こうしないと、私、殺されちゃうんでしょ」
 春奈先輩は泣きそうだ。

「じゃあ、正解発表だ。裏切り者は、……春奈! お前だ」
「ふん、そうよ」
「どうして……?」
 拓磨先輩が春奈先輩を問い詰める。
「あなたが、私に振り向いてくれないから。しかも、あなたは真帆さんのことばかり見てる。それが許せなかったの。拓磨の悪い噂を流せば、真帆ちゃんもはなれていくんじゃないかと思った」

 え?
 拓磨先輩、私のこと……?

「じゃあ、春奈。お前は脱落だ」
 犯人は、非情なことを言い出した。
「え? どうして? 正解したじゃない?」
「お前だけ、最初から答えを知っていた。これは、タブーだ」
「そんな!」
「あばよ」と言って、犯人は銃口を春奈先輩に向ける。
「嫌ー!」
 その瞬間、ピストルからけたたましい音が発し、春奈先輩は倒れる。
 嘘嘘嘘。

 犯人は車両の扉を手動でこじ開けて、春奈先輩を車外に投げ捨てた。

「なんてことするのよ!」
 パニックになって咄嗟に叫ぶと、犯人は銃口を私の額に当てた。
「うるさい。このサバイバルトレインは、オレがルールだ」
 私たちは放心状態のまま、電車はいつまでも走り続けた。