一方、白木蓮と龍胆は激しい鍔迫り合いをしていた。
「貴様は何者だ!?」
攻防戦の中、白木蓮はしきりに語りかける。
「その面差し(おもざし)、あの人斬り龍胆か? それとも他人のそら似か!?」
「――よくしゃべる」
龍胆はそれだけいうと一旦後ろへ飛び退った。鋭い視線の中には、ほのかなぬくもりが見て取れた。
「お前にはどう見える? 俺は人間か? あやかしか?」
龍胆はその桜色の唇に笑みを含ませる。白木蓮は眉間にシワを寄せた。
「どういう意味だ」
「俺は人間でもない。あやかしにもなりきれない。半端な存在。なぜなら俺は人を喰わないからだ」
「そのものの言い方。貴様、間違いなく人斬り竜胆だ」
白木蓮は刀をおろした。
「だがわからん。なぜ人間が鬼になる? 今の貴様は人殺しではないと言った。人も喰わないと。ならばこんな場所で何をしている」
龍胆は刀を鞘に納めた。
(戦うつもりはないのか)
それでも相手は鬼だ。白木蓮は油断なく刀を構える。
刹那、龍胆の姿が掻き消えた。
――!?
残像を残し、ようやく目が存在を認識した頃には、龍胆は拳を振り上げ眼前に迫っていた。
ゴッ!!
重い拳が、白木蓮の右頬にめり込む。身体は吹っ飛んだ。取り落とした刀はカラカラと地面を転がった。
かろうじて意識を保った白木蓮は「貴様・・・っ!」とうめく。
龍胆はおもむろに立ち上がり、雪に埋もれて動けない男を、ゆうゆうと見下ろした。
「寒風の中、雪を木に縛り付けた罰だ」
隊長! と隊士たちが駆け寄る。それを片手で制し、白木蓮はにやりと笑う。
「まだ俺の上官気取りか。お前が抜けた今、討伐隊の隊長は俺だ」
唇の血を拭い、白木蓮は悔しげに笑う。
龍胆はさばさばと言った。
「半端者はお前だったようだな、白木蓮よ。――隊の統率が取れていない。新人の仕込みもなってない。お前はこの十数年間なにをしていた? たるんでいるぞ」
――愚か者ども。
龍胆は吐き捨てるように言うと、今度は雪と菫のもとへと歩いて行く。
一連のやり取りを見ていた雪は、(怒られるっ)と身体を小さくしたが、降ってきたのは、かわいいげんこつだった。コツンと音を立てる。
「こーら、雪。勝手に出ていくからこういう目に遭うのだよ。身にしみてわかったかね?」
先ほどとは全く違う、甘い声。幼い頃に聞いた叱り文句だ。雪は肩の力が抜けた。
白木蓮は目を丸くする。それは隊士たちも同じだった。
「鬼と人間が仲睦まじく・・・」「なんだ、あの女は。鬼を虜にする魔物か?」
雪は「ごめんなさい・・・」とつぶやく。その体を龍胆は抱きしめ、耳元で「帰るよ」と言った。
菫は再び火車へと変化する。その背に雪を乗せると、龍胆は満足げに笑った。
凄まじい突風が吹く。
隊士たちが目を開けたときには、そこにはだれもいなかった。
「隊長、どうします? 追いますか?」
白木蓮はゆっくりと上体を起こした。
「いや、居場所は薄々わかっている。問題は『入れるか』どうかだが・・・」
白木蓮はぼうっとした目をしていた。手袋を見つめる。
(そういえば、奴もまだ手袋をしていたな)
龍胆は戦う際、いつも黒い手袋をしていた。ふと懐かしい痛みを思い出し、男は密かに笑った。
「懐かしいご挨拶だったよ、隊長」
「貴様は何者だ!?」
攻防戦の中、白木蓮はしきりに語りかける。
「その面差し(おもざし)、あの人斬り龍胆か? それとも他人のそら似か!?」
「――よくしゃべる」
龍胆はそれだけいうと一旦後ろへ飛び退った。鋭い視線の中には、ほのかなぬくもりが見て取れた。
「お前にはどう見える? 俺は人間か? あやかしか?」
龍胆はその桜色の唇に笑みを含ませる。白木蓮は眉間にシワを寄せた。
「どういう意味だ」
「俺は人間でもない。あやかしにもなりきれない。半端な存在。なぜなら俺は人を喰わないからだ」
「そのものの言い方。貴様、間違いなく人斬り竜胆だ」
白木蓮は刀をおろした。
「だがわからん。なぜ人間が鬼になる? 今の貴様は人殺しではないと言った。人も喰わないと。ならばこんな場所で何をしている」
龍胆は刀を鞘に納めた。
(戦うつもりはないのか)
それでも相手は鬼だ。白木蓮は油断なく刀を構える。
刹那、龍胆の姿が掻き消えた。
――!?
残像を残し、ようやく目が存在を認識した頃には、龍胆は拳を振り上げ眼前に迫っていた。
ゴッ!!
重い拳が、白木蓮の右頬にめり込む。身体は吹っ飛んだ。取り落とした刀はカラカラと地面を転がった。
かろうじて意識を保った白木蓮は「貴様・・・っ!」とうめく。
龍胆はおもむろに立ち上がり、雪に埋もれて動けない男を、ゆうゆうと見下ろした。
「寒風の中、雪を木に縛り付けた罰だ」
隊長! と隊士たちが駆け寄る。それを片手で制し、白木蓮はにやりと笑う。
「まだ俺の上官気取りか。お前が抜けた今、討伐隊の隊長は俺だ」
唇の血を拭い、白木蓮は悔しげに笑う。
龍胆はさばさばと言った。
「半端者はお前だったようだな、白木蓮よ。――隊の統率が取れていない。新人の仕込みもなってない。お前はこの十数年間なにをしていた? たるんでいるぞ」
――愚か者ども。
龍胆は吐き捨てるように言うと、今度は雪と菫のもとへと歩いて行く。
一連のやり取りを見ていた雪は、(怒られるっ)と身体を小さくしたが、降ってきたのは、かわいいげんこつだった。コツンと音を立てる。
「こーら、雪。勝手に出ていくからこういう目に遭うのだよ。身にしみてわかったかね?」
先ほどとは全く違う、甘い声。幼い頃に聞いた叱り文句だ。雪は肩の力が抜けた。
白木蓮は目を丸くする。それは隊士たちも同じだった。
「鬼と人間が仲睦まじく・・・」「なんだ、あの女は。鬼を虜にする魔物か?」
雪は「ごめんなさい・・・」とつぶやく。その体を龍胆は抱きしめ、耳元で「帰るよ」と言った。
菫は再び火車へと変化する。その背に雪を乗せると、龍胆は満足げに笑った。
凄まじい突風が吹く。
隊士たちが目を開けたときには、そこにはだれもいなかった。
「隊長、どうします? 追いますか?」
白木蓮はゆっくりと上体を起こした。
「いや、居場所は薄々わかっている。問題は『入れるか』どうかだが・・・」
白木蓮はぼうっとした目をしていた。手袋を見つめる。
(そういえば、奴もまだ手袋をしていたな)
龍胆は戦う際、いつも黒い手袋をしていた。ふと懐かしい痛みを思い出し、男は密かに笑った。
「懐かしいご挨拶だったよ、隊長」


