目を覚ますと、どこまでも白が続く不思議な空間にいた。
山間の道をバスで走っていたはずなのに、辺り一面は白い無機質な床が延々と広がっている。そして、僕と同じようにクラスメイト達が制服姿のまま横たわっていて、続々と目を覚ますところだった。
「ここは……。今、何時だ?」
最初に言葉を発したのは直樹だった。スマホを探すようにポケットに手を突っ込むが、見当たらなかったのか周囲を見渡す。僕のポケットにはスマホが残っていたので、いつの間にか切れていた電源をつけてみる。
「なんだ、これ」
「どうなってんだ」
「わけわかんない……」
戸惑いの声があちこちから響いてくる。電源こそ入ったものの表示はメチャクチャだった。時間表示は文字化けして、通信状況は圏外。マップを開いてみると目の前に広がる光景と同じように白い空間がどこまでも続いている。
バスが山間の道から飛び出したところまでははっきり覚えている。
それにしては、僕たちは誰も怪我を負っている様子はないし、乗っていたはずのバスはどこにもない。まるで夢でも見ているようだ。もしそうなら、夢から覚めたら待っているのは目を覆いたくなる現実なのかもしれないけど。
「さあて、諸君。お目覚めみたいね」
ただ広いだけの空間に、女性の声が響き渡る。
声の方を見ると、真っ黒な装束に身を纏った女性がゲームでしか見ないような大鎌に腰を掛けるようにして浮いていた。箒に乗った魔女みたいだけど、その女性は静謐で、冷酷で、薄ら寒い気配を纏っている。
「貴方は、誰ですか」
蒼い顔で立ち上がった亜沙子が尋ねると、女性は口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「私は死神」
女性――死神の言葉に僕達は誰も言葉を続けなかった。
死神なんて非現実的だ。
だけど、白い床がどこまでも続くこの場所も、大鎌に乗って浮かんでいる女性もリアルの欠片もなくて、僕たちが既に現実の存在ではないことを叩きつけてくる。その奇妙なリアルは共振して大きな波となり、小さな悲鳴や嗚咽が寄せては返す。
「私たち、死んだの?」
「嘘だろ。そんな急に」
「いやっ……。嫌っ!!」
心臓が嫌な高鳴り方をする。さっきまで、普通に明日のことを考えていて、夏帆と巡る自由時間を楽しみにしていた。でもそれが決して訪れない明日だなんて。
ああ、でも。この場所に夏帆がいないことに少しホッとした。もしこの場に夏帆がいて、死にゆくところだとしたら、僕はとっくにおかしくなっていたかもしれない。
「はい、注目ー。別に私だってアンタたちの命をガキの使いみたいにただ刈り取りに来たわけじゃないの」
死神の一言で場の空気がしんと沈まる。死神はそんな僕たちを一瞥して、不敵な微笑みを浮かべた。
「アンタたちにチャンスをやるわ」
死神は大鎌から降りると、右手のひらを空に掲げてみせる。その手の上にポウっと茜色をした炎のような物が浮かび上がった。神秘的な光を宿した炎は音もなく燃えている。
「これはね、一人分の寿命」
死神の言葉にざわりと空気が揺れる。
「この寿命の使い方はアンタらに任せるわ。三十二人で綺麗に分け合ってもいいし、誰か一人が独占すれば本来歩むべきだった人生を取り戻せる」
死神はその炎をワイングラスのように揺らす。まるでそれは僕達に見せつけているようで。ひゅうひゅうと乾いた呼吸が聞こえたと思ったら、その音は僕の口から漏れていた。
一人分の寿命が一体どれくらいなのかはわからないけど、全員で分け合ったら二年か三年。このまま死ぬよりマシかもしれないけど、残された時間はあまりに短い。けれど、そうしない限り、このクラスの誰かが。
「なにそれ。めっちゃ性悪じゃん。いいからその命、っての? 全員に頂戴よ!」
「残念だけど、アンタたちは不慮の事故でもう殆ど死んでるの。助かる道があるだけありがたいと思いなさい」
「はあ、何なの!」
玲美の言葉に死神は取り付く島もない。死神のその態度に玲美は立ち上がると、死神が持つ茜色の炎目掛けて駆け寄った。
「調子乗って――ひっ!」
近づいてきた玲美を死神は大鎌を突きつけて制する。その鎌の刃先は寸分の狂いなく玲美の首筋に突き立てられていた。
「それ以上ゴタゴタ喚くなら、先にあの世へ送り届けてあげようか?」
これまでの中で最も冷たい死神の声。玲美がぺたりとその場にへたり込む。その首筋を死神の鎌はピタリと追い続ける。死神が少しでも力を込めれば、その首はあっさりと落ちてしまうだろう。
「待って。分かった。その命の使い方、決めるから……」
亜沙子が震える声で一歩踏み出す。震えているのは声だけではない。足はガクガクと震えていて、その顔は今にも泣き出してしまいそうだった。死神の瞳が亜沙子に向くと、元から震えていた身体がビクリと竦み上がる。それでも立ち続けてるのは、委員長としての使命感みたいなものだろうか。そんな使命を感じるほどのクラスかは甚だ怪しいけど。
「その命をどうするか、僕たちは自由に選べるの?」
僕が立ち上がると、死神の顔がこちらを向く。死神の視線が外れた途端、亜沙子は逃げるようにその場にしゃがみ込み、ホッとした顔で僕を見た。
でも、立ち上がって尋ねてみたのは決して亜沙子のためとかではなくて。
ただ、どうすれば夏帆とまた会えるのか、考える必要がある。死神は僕の顔をじっと見てから、ニッと不気味な笑みを浮かべた。
「命を分け合うなら、残っている全員の同意が必要。もし奪い合うというなら、ちょっとしたゲームで勝敗を決めてもらうわ」
「ゲーム?」
「一対一で勝負するゲームよ。ルールは難しくないわ。そのゲームで勝ち残った人が、この命を手にすることができる」
死神はようやく大鎌を玲美の首筋から外し、右肩によいしょと担ぐ。それからもう一度僕たちを見渡す。その瞳は僕達を試すようだった。
「そうね。最後の一人までゲームを続けて勝ち残った人には願い事を一つ叶えてあげる。完全に死んでしまった人間を生き返らせるとか、時間を巻き戻すみたいなのは無理だけどね。さあ、どうする。たった一人分の命の使い道、アンタらで決めなさい」
しばらくの間、僕たちはお互いの様子を伺いつつ誰も言葉を発さなかった。
今、目の前にかかっているのは自分たちの命だ。どれだけ悩んでも正解なんてわからなかった。
ただ、怖かった。死神の言葉に乗せられて、ゲームに挑戦しようという生徒が出てくることが。
「ど、どうする? 私としては皆で分け合った方がいいのかなって。だって、そうじゃなきゃ……」
しばらくキリキリとした沈黙が続いた後、立ち上がったのは亜沙子だった。だけど、亜沙子は最後まで言い切らずに口を噤む。
死神が持つ命を平等に分け合わないということは、僕たちの中で誰が死ぬかを決めなければいけないということになる。例え僕達が既に死んでいて、その決め方がゲームなのだとしても。
亜沙子の言葉の重さが染みわたり、それまで静まり帰っていた空間にポツリポツリと声が生まれる。
「……そうだな、生きるとか死ぬとか、重すぎるってか」
「うん。無理。そんなゲーム、勝っても負けても辛すぎるよ」
「仮に生き延びても、絶対しんどすぎるって」
誰からともなく発せられた言葉。そんな言葉が続き、緊張感が少しずつ緩まっていくのを感じた。「帰ろう」と誰かが零す。そうだ、帰りたい。その先に残されているのが二、三年の命ということはまだ受け入れられないけど、今すぐ死んでしまうよりずっとマシに思えた。
帰ろう、帰ろう、帰ろう。その声が木霊し、積み重なる。亜沙子が一つ頷いて口を開き――かけたとき、ゆらりと健介が立ち上がった。
「お前ら、バカじゃねえの! みんなで仲良く分け合って、二年とか三年生きたくらいでどうすんだよ!」
健介は僕達を見下すように眺めてから、吐き捨てるように言い放つ。
「おい健介、本気かよ!」
健介の言葉に突っかかったのは、いつもは健介と極力関わらないようにしている直樹だった。僕らが呆気にとられる間に、健介は躊躇いなく直樹の胸ぐらをつかみ上げた。小柄な直樹の体がギリリと持ち上がっていく。
「ああ、本気だよ! 死ぬよりは三年でも生きた方がマシ? そんなの俺は御免だね!」
「ククク。そこまでよ」
それまでじっと様子を静観していた死神の声で、直樹の胸ぐらをつかんでいた健介の腕がほどける。直樹はうずくまって喉に手を当てると、数回咳き込み「だから嫌なんだよ」と気怠く地面に向かって吐き捨てた。
「命を平等に分け合う場合には、この場にいる全員が同意しないといけない。今は、その条件に当てはまらないみたいね」
歌うように語る死神はブオンと何もない空間に向かって大鎌を振るう。
すると、何もない空間がブチリと裂けた。真っ暗な暗闇から小さな蟲のような集団が飛び出して来て、僕たちに飛び掛かってくる。
悲鳴を上げる間もなく蟲はヌプリと体の中に入ってくる。頭をゴチャゴチャにされる感覚。支離滅裂に浮かんでは消える過去の記憶に意識がすうっと遠くなっていく。
必死に目をこじ開けて見えたのは、頭を抱えてうずくまる波奈の姿だった。咄嗟に手を伸ばしたところで、ブチリとスイッチが切れるように視界が暗転する。
「さあ、始めましょう。思い出と命を懸けた、愉快なゲームを」
山間の道をバスで走っていたはずなのに、辺り一面は白い無機質な床が延々と広がっている。そして、僕と同じようにクラスメイト達が制服姿のまま横たわっていて、続々と目を覚ますところだった。
「ここは……。今、何時だ?」
最初に言葉を発したのは直樹だった。スマホを探すようにポケットに手を突っ込むが、見当たらなかったのか周囲を見渡す。僕のポケットにはスマホが残っていたので、いつの間にか切れていた電源をつけてみる。
「なんだ、これ」
「どうなってんだ」
「わけわかんない……」
戸惑いの声があちこちから響いてくる。電源こそ入ったものの表示はメチャクチャだった。時間表示は文字化けして、通信状況は圏外。マップを開いてみると目の前に広がる光景と同じように白い空間がどこまでも続いている。
バスが山間の道から飛び出したところまでははっきり覚えている。
それにしては、僕たちは誰も怪我を負っている様子はないし、乗っていたはずのバスはどこにもない。まるで夢でも見ているようだ。もしそうなら、夢から覚めたら待っているのは目を覆いたくなる現実なのかもしれないけど。
「さあて、諸君。お目覚めみたいね」
ただ広いだけの空間に、女性の声が響き渡る。
声の方を見ると、真っ黒な装束に身を纏った女性がゲームでしか見ないような大鎌に腰を掛けるようにして浮いていた。箒に乗った魔女みたいだけど、その女性は静謐で、冷酷で、薄ら寒い気配を纏っている。
「貴方は、誰ですか」
蒼い顔で立ち上がった亜沙子が尋ねると、女性は口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「私は死神」
女性――死神の言葉に僕達は誰も言葉を続けなかった。
死神なんて非現実的だ。
だけど、白い床がどこまでも続くこの場所も、大鎌に乗って浮かんでいる女性もリアルの欠片もなくて、僕たちが既に現実の存在ではないことを叩きつけてくる。その奇妙なリアルは共振して大きな波となり、小さな悲鳴や嗚咽が寄せては返す。
「私たち、死んだの?」
「嘘だろ。そんな急に」
「いやっ……。嫌っ!!」
心臓が嫌な高鳴り方をする。さっきまで、普通に明日のことを考えていて、夏帆と巡る自由時間を楽しみにしていた。でもそれが決して訪れない明日だなんて。
ああ、でも。この場所に夏帆がいないことに少しホッとした。もしこの場に夏帆がいて、死にゆくところだとしたら、僕はとっくにおかしくなっていたかもしれない。
「はい、注目ー。別に私だってアンタたちの命をガキの使いみたいにただ刈り取りに来たわけじゃないの」
死神の一言で場の空気がしんと沈まる。死神はそんな僕たちを一瞥して、不敵な微笑みを浮かべた。
「アンタたちにチャンスをやるわ」
死神は大鎌から降りると、右手のひらを空に掲げてみせる。その手の上にポウっと茜色をした炎のような物が浮かび上がった。神秘的な光を宿した炎は音もなく燃えている。
「これはね、一人分の寿命」
死神の言葉にざわりと空気が揺れる。
「この寿命の使い方はアンタらに任せるわ。三十二人で綺麗に分け合ってもいいし、誰か一人が独占すれば本来歩むべきだった人生を取り戻せる」
死神はその炎をワイングラスのように揺らす。まるでそれは僕達に見せつけているようで。ひゅうひゅうと乾いた呼吸が聞こえたと思ったら、その音は僕の口から漏れていた。
一人分の寿命が一体どれくらいなのかはわからないけど、全員で分け合ったら二年か三年。このまま死ぬよりマシかもしれないけど、残された時間はあまりに短い。けれど、そうしない限り、このクラスの誰かが。
「なにそれ。めっちゃ性悪じゃん。いいからその命、っての? 全員に頂戴よ!」
「残念だけど、アンタたちは不慮の事故でもう殆ど死んでるの。助かる道があるだけありがたいと思いなさい」
「はあ、何なの!」
玲美の言葉に死神は取り付く島もない。死神のその態度に玲美は立ち上がると、死神が持つ茜色の炎目掛けて駆け寄った。
「調子乗って――ひっ!」
近づいてきた玲美を死神は大鎌を突きつけて制する。その鎌の刃先は寸分の狂いなく玲美の首筋に突き立てられていた。
「それ以上ゴタゴタ喚くなら、先にあの世へ送り届けてあげようか?」
これまでの中で最も冷たい死神の声。玲美がぺたりとその場にへたり込む。その首筋を死神の鎌はピタリと追い続ける。死神が少しでも力を込めれば、その首はあっさりと落ちてしまうだろう。
「待って。分かった。その命の使い方、決めるから……」
亜沙子が震える声で一歩踏み出す。震えているのは声だけではない。足はガクガクと震えていて、その顔は今にも泣き出してしまいそうだった。死神の瞳が亜沙子に向くと、元から震えていた身体がビクリと竦み上がる。それでも立ち続けてるのは、委員長としての使命感みたいなものだろうか。そんな使命を感じるほどのクラスかは甚だ怪しいけど。
「その命をどうするか、僕たちは自由に選べるの?」
僕が立ち上がると、死神の顔がこちらを向く。死神の視線が外れた途端、亜沙子は逃げるようにその場にしゃがみ込み、ホッとした顔で僕を見た。
でも、立ち上がって尋ねてみたのは決して亜沙子のためとかではなくて。
ただ、どうすれば夏帆とまた会えるのか、考える必要がある。死神は僕の顔をじっと見てから、ニッと不気味な笑みを浮かべた。
「命を分け合うなら、残っている全員の同意が必要。もし奪い合うというなら、ちょっとしたゲームで勝敗を決めてもらうわ」
「ゲーム?」
「一対一で勝負するゲームよ。ルールは難しくないわ。そのゲームで勝ち残った人が、この命を手にすることができる」
死神はようやく大鎌を玲美の首筋から外し、右肩によいしょと担ぐ。それからもう一度僕たちを見渡す。その瞳は僕達を試すようだった。
「そうね。最後の一人までゲームを続けて勝ち残った人には願い事を一つ叶えてあげる。完全に死んでしまった人間を生き返らせるとか、時間を巻き戻すみたいなのは無理だけどね。さあ、どうする。たった一人分の命の使い道、アンタらで決めなさい」
しばらくの間、僕たちはお互いの様子を伺いつつ誰も言葉を発さなかった。
今、目の前にかかっているのは自分たちの命だ。どれだけ悩んでも正解なんてわからなかった。
ただ、怖かった。死神の言葉に乗せられて、ゲームに挑戦しようという生徒が出てくることが。
「ど、どうする? 私としては皆で分け合った方がいいのかなって。だって、そうじゃなきゃ……」
しばらくキリキリとした沈黙が続いた後、立ち上がったのは亜沙子だった。だけど、亜沙子は最後まで言い切らずに口を噤む。
死神が持つ命を平等に分け合わないということは、僕たちの中で誰が死ぬかを決めなければいけないということになる。例え僕達が既に死んでいて、その決め方がゲームなのだとしても。
亜沙子の言葉の重さが染みわたり、それまで静まり帰っていた空間にポツリポツリと声が生まれる。
「……そうだな、生きるとか死ぬとか、重すぎるってか」
「うん。無理。そんなゲーム、勝っても負けても辛すぎるよ」
「仮に生き延びても、絶対しんどすぎるって」
誰からともなく発せられた言葉。そんな言葉が続き、緊張感が少しずつ緩まっていくのを感じた。「帰ろう」と誰かが零す。そうだ、帰りたい。その先に残されているのが二、三年の命ということはまだ受け入れられないけど、今すぐ死んでしまうよりずっとマシに思えた。
帰ろう、帰ろう、帰ろう。その声が木霊し、積み重なる。亜沙子が一つ頷いて口を開き――かけたとき、ゆらりと健介が立ち上がった。
「お前ら、バカじゃねえの! みんなで仲良く分け合って、二年とか三年生きたくらいでどうすんだよ!」
健介は僕達を見下すように眺めてから、吐き捨てるように言い放つ。
「おい健介、本気かよ!」
健介の言葉に突っかかったのは、いつもは健介と極力関わらないようにしている直樹だった。僕らが呆気にとられる間に、健介は躊躇いなく直樹の胸ぐらをつかみ上げた。小柄な直樹の体がギリリと持ち上がっていく。
「ああ、本気だよ! 死ぬよりは三年でも生きた方がマシ? そんなの俺は御免だね!」
「ククク。そこまでよ」
それまでじっと様子を静観していた死神の声で、直樹の胸ぐらをつかんでいた健介の腕がほどける。直樹はうずくまって喉に手を当てると、数回咳き込み「だから嫌なんだよ」と気怠く地面に向かって吐き捨てた。
「命を平等に分け合う場合には、この場にいる全員が同意しないといけない。今は、その条件に当てはまらないみたいね」
歌うように語る死神はブオンと何もない空間に向かって大鎌を振るう。
すると、何もない空間がブチリと裂けた。真っ暗な暗闇から小さな蟲のような集団が飛び出して来て、僕たちに飛び掛かってくる。
悲鳴を上げる間もなく蟲はヌプリと体の中に入ってくる。頭をゴチャゴチャにされる感覚。支離滅裂に浮かんでは消える過去の記憶に意識がすうっと遠くなっていく。
必死に目をこじ開けて見えたのは、頭を抱えてうずくまる波奈の姿だった。咄嗟に手を伸ばしたところで、ブチリとスイッチが切れるように視界が暗転する。
「さあ、始めましょう。思い出と命を懸けた、愉快なゲームを」