物音のする方へ歩いていくと水車小屋があった。そして小川が流れていた。

「え、建物の中に川が流れているの?」
 何処かの地方にそんな旅館があったと思うが少し不思議な光景だった。

「水車小屋か」と腕を組んで悟くんは考え込んでいる。

 せせらぎ以外の音が確かに水車小屋の中から聴こえてくる。

「入ってみるか」
 
「え、何で?」

 私の疑問を無視して悟くんは水車小屋に入った。
 後について中に入ると音は止んでいた。そして悟くんは屈んで道具場の中から何かを拾い上げた。

「銃?」と私は訊いた。

「散弾銃だな。何であるのかは分からないが」
 
 という悟くんの発言と同時に何かが部屋の中央に落ちてきた。人間よりも巨大な蜘蛛だった。天井から落ちてきたのだ。

「ええ! 嘘でしょ!」と私が叫ぶと同時に蜘蛛はガサガサっと音を立てて動いた。

「ボウッ」と凄い音がした。
 悟くんが散弾銃を蜘蛛に向けて撃ったのだ。
 蜘蛛の体は弾け飛んだ。
「物音の正体はこいつか」

「イヤイヤイヤ、撃つなら一言言ってよ! 耳キーンてしてるわ!」私は叫んだ。

「咄嗟の事態だからな。ともあれ散弾銃か。使える」そう言って悟くんは道具箱の中から実弾もいくつかゲットした。

 コイツ全然謝らないな。そして文句を言えば良いだけの姫の立場が恋しい。

 水車小屋を出て温室を歩いていくとやがてドアが見えた。
 悟くんがドアを開けると再び建物の廊下が始まる。
 散弾銃があるので少し心強いものの、狭い廊下からゾンビが現れるのを思うと生きた心地がしない。

「モブ子達がゾンビになっていたらどうしよう」と私はポロッと漏らした。

「弾が当たりやすいからむしろ好都合だろう」と悟くんは言った。

「いや、そういう事ではなくて」

「貴様、悪役の癖に優しいな」と悟くんは流し目でこちらを見た。「良い嫁になりそうだ」

 え! どういう意味?

 そして廊下の突き当たりにまたドアがある。
 開けるとそこは玄関ホールだった。
 そしてそこにモブ子とモブ夫もいた。