建物の中の景色に見覚えがある。某ゾンビゲームの洋館の中の風景だ。 
 
「次の対戦相手はコイツらだ!」海賊ウサギは叫んだ。

 廊下の向こうに極平凡な女の子が現れた。モブ子だ。
「あの、よろしくお願いします」とモブ子は頭を下げた。

「棄権します」と私は言った。
 その口を悟くんはすぐに塞いで言った。
「冗談だ! この子は人の気を惹く為に過激なことを言う少しアレな子なんだ。分かれ!」

「分かってるぜ。ただ二度目は無いぜ」と海賊ウサギは少し困ったように言った。

 モブ子。私の一番のお気に入り。誰よりも良い子。絶対に傷つけたくない。
「戦いたくない」

「負けたら罰を受けるのは貴様だ」と悟くんはこちらを見ずに冷徹に言った。

「構わない」

「俺が困る」

 具体的に何がどう困るのか聞きたい所だったがそんな暇もなく海賊ウサギは言った。
「第三ステージはピストルで打ち合ってもらうぜ。ピストルと言ってもペイント弾だ。ただ安全の為にゴーグルは着用義務だぜ。ちなみに今回は姫にも参加してもらうぜ」

 姫とは今回に限っては私とモブ子のことだ。
 つまり全員参加だ。
 ていうかデスゲームでゴーグルて。いや私も参加するからありがたいけれど。

「全滅したらそのチームが負け。具体的な勝敗を決めるのはペイントの有無だが、相手を妨害する仕掛けがこの洋館には山ほどあるぜ。多分これまでで一番長いゲームになるぜ」

 と説明してから海賊ウサギはハッと我に返る。
「いけねえ。スパダリを用意し忘れた」
 そして廊下の端からその男は現れた。

「よろしくお願いします」とこれまた礼儀正しい、モブ夫である。
 いい加減、製作者はせめて名前くらいは考えてほしい。

 モブ夫とモブ子は付き合っている。なので攻略対象ではないのだが、作中でそれなりに事件に巻き込まれる。実は不幸なカップルだ。

「頑張ろうね」とか「危なかったらモブ子だけでも逃げて」とか何やらホッコリ空間が出来上がっている。

「ヌルい連中だ。何処かに隠しウエポンでガトリング砲とか無いのだろうか」悟くんは少しイラだって言った。

「他人の幸福が喜べないの?」私は悟くんの態度にカチンときて言った。

「俺様は俺様の手の届く範囲のことしか考えない」と悟くんは言った。

 でしょうねえ。今までの戦い方からすると。

「ちなみに今からその幸福を俺達でぶち壊すんだが」とさらに続けた。

 あー、やりたくねー

「安心しろ。最も平和的な解決法を既に考えてある」とドヤ顔で悟くんは言った。

 安心できない。

「両者廊下の端のドアに入ってくれ。それぞれ別の廊下に繋がっている。簡単に決着が付いたらつまらないからな」海賊ウサギは明らかに悟くんに向けて言った。「じゃあ、はじめるぜ!」