「剛田のフラッグは学園の千年桜の前、悟のフラッグは土管公園の砂場だぜ」海賊ウサギは説明した。「ここは中間地点だ。守るも良し、攻めるも良し、好きに動きな」

 はじめ! と海賊ウサギは叫ぶ。

「あー、一応自分のところのフラッグを見てこようかな」剛田君は明らかにやる気がない。「ついでに部活に復活してもいいし」

「アンタ、やる気出しなさいよ!」ユダ子はゲキを飛ばした。

「相手がユダ子でやる気を失くしたみたいね」たまにはブラックローズっぽいセリフを言ってみようと私は頑張った。

「お嬢は黙っていてください! いつもみたいに」ユダ子は言った。

「いつもみたいに、とは?」悟くんは何故か私の側を離れず、質問してきた。

「悪役と言っても私はお飾りなの。指示はほぼユダ子がしている」
 そう。ブラックローズは見た目の派手さで誤解されがちだが実は仲間思いで繊細なタイプだ。 

「回想中悪いんだがユダ子が『ブラックロース』とか言ってバカにしているぞ。黒豚なんて高級な肉なのにな」

「はぁ〜?」私はついユダ子を睨みつけてしまった。
 現実の私もまあ肉はそれなりについている。ブラックローズと悪口はおそらく共通すると思う。
「アンタの独断でした悪事も全部私のせいにされているんだけど!」と私はブラックローズの代弁をした。

「な、何のことやら」ユダ子はシラをきる。

「エリアナの靴箱にアメフラシを入れたじゃない! 私のせいにされたんだからね!」

 作中でユダ子はモテモテのエリアナに嫉妬してあらゆる嫌がらせをしている。
「可哀想じゃない! アメフラシ!」

「いや、そっちかい」の悟くんは冷静につっこむ。

 そもそもアメフラシなんてどこで手に入れたのやら。
 私は自分がその立場になったからというわけでもないが、実際にブラックローズには同情している節がある。

「無自覚に他人に良いように利用される人はいる」と悟くんは罵詈雑言を言い出したユダ子を眺めながら言った。「本来なら人望がある人種だ。だからたまたまユダ子のような奴がいたら利用されてしまう。それは運に近い」

「語っている所悪いんだけどゲームはどうするの?」私は何となく触れたくない話題だったで話を逸らした。

「ああ、今回は楽勝だからな」と言いつつ悟くんは剛田君の後を追った。

 相手のフラッグを取りに行く作戦にしたのか、と思った。攻撃型か。
 ちなみにゲームが始まってから私とユダ子の前にはそれぞれのスパダリの動向を映す動画がディスプレイに表示される。

 剛田君が学園に着いたと同時に悟くんは追いついた。
 何やら話をしている。
 おもむろに悟くんは懐からお金を出して剛田君に渡した。
 剛田君は今日初めて見せる笑顔でそれに応えた。
 フラッグ取ってくるね、と言わんばかりに小走りで走り去る剛田君の背中が見える。

「アンタ、何してんのよ!」私はディスプレイに向けて叫んだ。ちなみにこちらの声は聞こえるが向こうの声は聞こえない。

 悟くんは右手を上げて勝鬨を上げている。
 そこへ剛田君がヘラヘラした笑顔を浮かべでフラッグを悟くんに渡した。

「終了〜、だぜ! 勝者悟くん!」と海賊ウサギは叫んだ。

「いや、何よアレ! 不正じゃない!」とユダ子は異議を申し立てた。
 ちなみに剛田君が今日一番の笑顔の時も罵詈雑言は続けていた。

「ルールは説明したぜ!」と海賊ウサギは一言でユダ子を黙らせた。
 確かに賄賂が禁止とは言っていない。

「な? 楽勝だったろう?」と戻ってきた悟くんは私にカードを手渡した。

「何これ」

「暗証番号を誕生日にするのはオススメしない。俺様だから三万円で済んだのだからな」

 ってコレ私のキャッシュカードじゃない!
 しかも三万円て。

「貴様の敗因はパートナーとのコミュニケーション不足だ!」と悟くんはユダ子に対して物申した。「愛が足りない」

 いや、パートナーのキャッシュカードを盗む奴に「愛が足りない」とは言われたくないだろう。

 ユダ子はガックリと肩を落とした。確かに彼女は剛田君を馬車馬が何かのように発言していたので思い当たる節があったのだろう。

 私も人のことは言えないな。悟くんをハズレ扱いしたし。
 いや、三万円取られた相手に同情してどうする!
 って、よく考えたらあの唐揚げくんの代金も私のお金なんじゃない?

「お釣り返して!」と私は付け加えた。

「一番くじというものがあってだな」
 そう言って悟ったくんはナノハちゃんのクリアファイルを見せた。
「フィギュアが欲しかった!」四つん這いになってガチ泣きを始めた。

 コイツ使い込みやがった。しかも三万円と嘘をついて。
 そして未だにナノハちゃんのグッズが一番くじにあるのか。そういえば「懐かしのアニメキャンペーン」と銘打って大人から搾取していたな。

「はあ、もういいや」と言いつつ一応訊いた。「ちなみにATMからいくら下ろしたの?」

「四万円」

 賄賂と唐揚げくん以外すべて使い込みやがったのか!

「ご褒美タイムだぜ!」と言いつつ海賊ウサギは何やら神妙なら面持ちである。「今回は大目にみたが次回から賄賂は無しでよろしくだぜ」

「無論だ」とメガネをクイっと上げて悟くんは言った。

 いや、偉そうに言える立場か?

「というわけ今回のご褒美タイムは無しだ。相手への罰もな。ちょっとグレーなゲームで俺も反省している」

 まあ当然の処置だ。退場にならなかっただけありがたい。

「第三ステージだぜ!」
 気を取り直した海賊ウサギが叫ぶといつのまにか我々は何やら暗い建物の中にいた。

「切り替えよう」の悟くんはすくっと立ち上がって言った。「失くした物はもう戻らないのだから」

「いや、戻せよ! 私の四万円!」