あれ?
 確か部屋で乙女ゲーム「彼と私とデスゲーム」をプレイしていたはず。

 チェックの床が広がる空間の先に誰かがいた。
 ゲームの中のヒロイン、エリアナだ。
 エリアナは可愛らしい顔に眉を寄せて私を睨んでいる。

 ゲームのヒロインがいるという事は私もまたキャラクターの一人なのだろうか。
 フレアなスカートにデコルテの空いたドレス。オッパイでっか!
 真珠のネックレスを身につけた長身の体型。
 間違いない。悪役令嬢であるブラックローズだ。

 よりによってデスゲームパートに召喚されるなんて。

 このゲームは乙女ゲームでありながら途中にお遊びのミニゲームとして対決型デスゲーム「スパダリ・バトル」がある。

 対戦者はルーレットで選ばれたスパダリを戦わせて勝敗を決する。
 勝った者には商品を、負けた者には罰が与えられる。
 
「デスゲーム」という割に誰も死なないと思っていたがプレイするとまさにデスゲームだと実感する。

「さあ,相棒をえらぶルーレットを回しやがれ!」
 マスコットキャラである海賊ウサギが突然宙に現れたルーレットを回すよう促した。

 スパダリを自分で選べるのは良いな、と少し思った。
 悪役令嬢であるブラックローズにはほぼどのキャラともフラグが立たないからだ。
 せめてこのミニゲームの間だけでも。

「ジャーン! エリアナにはミカエル王子だ! お忍びで来訪した隣国の王子だぜ! ハイスペック!」
 海賊ウサギか叫ぶとエリアナは露骨にガッツポーズをした。
 確かにキャラとしては二番手に位置する人気のスパダリだ。

「そして、ブラックローズには!」
 海賊ウサギはルーレットのマスのマークをよみとる。「来たぜ! SSレアキャラ『理解ある彼くん』二次元大好き悟くんだ!」

 え? 誰?
 ていうかスパダリなの?
 確かに細身でメガネだけれど、手にしたスマホに邪悪なロリキャラが壁紙になっている。

「理解した。貴様、いま俺をハズレだと認識しただろう?」

 エスパー?
 ていうか理解ある彼ってそっちの意味?

「まあ見ていろ。俺をただのオタクだと思った奴には学食のチケットが全部『素うどん』になる呪いをかけた」

 うわ、微妙な呪い。
 て、私にその呪いかけてないよね? どっちかっていうと蕎麦派なんだけど。

 「理解ある彼くん」こと悟くんはチェックの床に降り立ち、スマホ画面を相手に向けて叫んだ。
「このナノハちゃんに賭けてお前を倒すと誓う!」

 ナノハちゃんてあのナノハちゃん? 少し古めのアニメのロリキャラよね。昔好きだったなあ。
 て、相棒である私に誓うのがスパダリだと思うんだけどな。別にいいんだけど。
 そして無駄にイケボ!

「僕は何でもいいけど、それ負けフラグじゃないのか?」ミカエル王子は悟くんの宣言を鼻で笑った。

 やっぱり金髪碧眼ってイケメンよね。でも海外では別にステイタスでも何でもないって聞いたことある。

「ミカエル君! 頑張って!」エリアナは叫んだ。

 流石ヒロイン、箸にも棒にも引っ掛からない無難な応援をする。

 ‥‥さっきから悟くんがチラチラこっちを見てきている。
 応援しろって事かな。 
 でも「ナノハちゃんに賭けて」って言われた身としてはなあ。

「あー、がんばえー」私は棒読みで言った。

「お前の真心! 確かに受け取った!」悟くんは熱血キャラのように拳を握って叫んだ。

 うわー、重いー。

「さあ、両者前に出るんだ! 対戦形式もルーレットで決めるぜ!」
 海賊ウサギは自前のルーレットを回して言った。
「お! こりゃ珍しい! 対戦形式は素手の殴り合いだ!」

「拒否する!」と悟くんは誰より早く叫んだ。「痛いのはごめんこうむる」

 こいつ、本当にスパダリなのかな。